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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
インターミッション 小満
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第5話 勉強会と中間テスト



 質問大会が姉さんの登場によって有耶無耶のまま終了した次の日。

 今日も今日とて姉妹と幼馴染と一緒に登校している。


 いつも通りの注目具合だけど、日常化しつつあるのかみんな落ち着いたものである。

 そんなみんなとは裏腹に、僕はある問題に直面していた。

 瀬尾さんに勉強を教えてもらう約束を取り付けたとはいえ、場所はどこにすればいいのだろうか問題だ。

 

 女の子と一緒に勉強だなんて青春じゃないか。ドキドキしてしまう。

 お互い友人と呼んでいい関係かもしれないけど、近しいかと言われれば否だ。

 クラスメイトの一人レベルだろう。春香の方が余程仲良しだ。

 

 そんな二人がお互いの家で勉強はしないし、僕は有名人のようなので放課後に外で会うのも憚られる。

 校内が無難だけど、会話が可能で使える場所と言ったら教室しかない。

 しかしお世辞にも静かじゃないし、他の生徒に勉強を邪魔される可能性が大いにある。

 無い知恵は絞れないので素直に相談することにした。



「姉さん、勉強するのに便利で、ある程度会話が出来る静かな場所は学校の中にあるかな?」

「試験勉強なら学校でしなくても、家の方がいいんじゃないかしら」


 朝の登校時、雑談の中で質問してみる。

 花音姉さんが小首を傾げて僕を見てるので首を横に振った。


「クラスメイトと勉強をする約束をしたんだ。あんまり親しいわけでもないから、お互いの家は候補から外したんだ。外は僕の場合論外だし」


「そうねえ……少し人目に付くけど、食堂のテラスなら会話しても問題ないわ。あそこはテスト前に勉強する人たちが集まるし、騒いだりはしないから」


「成程、有り難う姉さん」

「どういたしまして」


 簡単に問題が解決してしまった。流石は花音姉さんである。

 後は瀬尾さんが了承すればオッケーだ。


「信也君、私と勉強するはずだったんじゃ……」


 今まで黙って僕と花音姉さんの会話を聞いていた有紗さんが呆然とこちらを見てくる。

 僕は記憶を思い出そうとしたが、特に約束はしていない。

 瀬尾さんに挨拶されて有耶無耶になったはず。


「ああ、あの後瀬尾さんと約束したんです。瀬尾さんって言うのは昨日の朝に僕の肩を揺らしてきた女の子です。同じクラスなので勉強範囲は同じですから」


「あの、女の子?」


 なんだろう、心底不思議そうな顔で見詰められる。

 目の奥を覗きこまれているようで、少し寒気がするような。

 

「あ、おはよう青野君!今日もいい朝だね」


 丁度いいのか、よくないのか、瀬尾さんが僕を見付けて駆け寄ってくる。

 朝から元気だなあ。今日は友達二人の姿は見えない。


「今日は一人なの?」

「日直とその手伝いで先に行っちゃった。私も行こうと思ってたんだけど目覚まし時計の時間変えるの忘れちゃったんだよね」


 たっは~、と手を後頭部にやりながら特に申し訳なさそうでもない様子で笑みを零す。


「それは良くありますね」

「おお、春香ちゃんも分かってくれる?でも私の友達は分かってくれないんだよねえ~きっと怒ってる。既にメッセージで怒ってたけど…」

「素直に謝るのが一番ですよ」

「うん、そうするよ。でも怒ると怖いんだよね……」


 なんとも悲壮な雰囲気を醸し出している。

 喜怒哀楽が豊かというか、朝からテンション高い。

 僕はあんまり朝強い方じゃないのでここまでエンジン全開には喋れない。


 僕は二人の会話に入らずに周りを見渡してみる。

 莉々は怖がった様子で僕の肩に隠れている。

 萌香は何だか面白くなさそうに二人の会話を聞いている。

 花音姉さんは温度のない目で瀬尾さんを観察している。

 夕希ちゃんは眉をしかめて、僕と瀬尾さんに視線をウロウロさせている。

 有紗さんは分かりやすく苛立っている。

 珍しい。何だか瀬尾さんのことを嫌っているように思える。

 有紗さんがそんな態度を見せるのはあまりないし、相手が瀬尾さんというのも信じがたい。

 昨日の事といい、僕の知らない因縁が二人の間にあるのだろうか。


「青野君、立ち会ってくれない?そうしたら二人もそんなに怒んないと思うの」

「ん?…ああ、謝罪のことか。どっちにしても教室に今から行くわけだしいいよ。それじゃあ、先に行ってるね」


 僕は姉さんたちと別れて瀬尾さんと一緒に登校する。

 速きこと風の如し。もう学校の敷地内だし別れても問題ないだろう。

 丁度瀬尾さんにも勉強の件で確認したいことがあったし一石二鳥だ。

 決して女の子と二人で登校をするという青春イベントに惹かれたわけではない。

 断じてない。


「え、提案した手前なんだけど、よかったの?…別に私だけ先に行っても」

「うん、大丈夫。僕も自立を目指さないといつまでも姉さんたちに迷惑かけちゃうから」

「……青野君、とっても可愛いよね」


 何か聞き捨てならないことを言われた気がするけど、僕の精神衛生上その言葉を拾わなかった。

 あ~急に耳が遠くなって困った困った。

 

 後ろから刺すような視線を感じつつ、若干早まった気もするけど、仕方ないね。

 僕はチャンスを生かす男なのだ。現世こそは目指せ、青い春!

 


「ということで青野君の顔を立てると思って、謝罪を受け入れていただきたく」

「青野君欠片も関係ないうえに、迷惑この上ないなこいつ」

「厚顔無恥とはこのことだぁ~ちこうよれ、ほっぺ摘まみの刑に処すぅ~」


 教室に着いて開口一番に謝罪をした瀬尾さんが友達二人に断罪されている。僕の立会いの甲斐なく粛々とぽっぺ摘まみの刑に服していた。

 何の、力にも、なれませんでしたー。


「もひょ~しかたゃいにゃん。わらひらっへいしょがひかっひゃんらもん」

「何言ってるか分かんない」

「しょうがないなあ~」


 1分にも及ぶ壮絶な拷問の末、ようやく瀬尾さんのぽっぺが解放された。

 顔には痛々しい跡が刻み込まれている。

 ちょっと赤くなっただけだな。


「ちょっと昨日は集中してやることあったから、今朝のことまで気が回らなかったんだよ」


 瀬尾さんはゴソゴソとカバンを開き、紙の束を友人二人に見せつける。

 紙は5つに分かれていて、全部手書きだった。

 ポップな感じでイラスト付きで読みやすそう。

 国語、数学、理科、社会、英語の5科目の中間テストの要点をまとめられたものだ。


「うわ、ここまでやるか」

「すご~い、私たちに勉強教えるときはおざなりなのに~。これはきっとあ…」

「余計なこと言うと見せてあげないけど。それに絶対違うからね」

「へへぇ~由佳様の言う通りですぅ~私が間違っておりましたぁ」


 ギロリと擬音の発しそうなほどの眼光で友人さんを睨み付ける。

 友人さんは素直に謝罪しヘラヘラと笑いながら態度を改めた。三下ムーブが上手い。

 

「試練とか鍛錬とか、青野君が頑張ってるから何か手伝えないかなって私なりに考えたの。要点さえまとめれば効率的に勉強できるでしょ。私にはこれくらいしか出来なけど」


 うっ、照れたように笑う瀬尾さんの顔に胸を突かれる。


 女の子との勉強会ヤッフ~!と青春イベントに浮かれている裏で、僕ために時間を掛けて準備を進めてくれた瀬尾さん。

 いい子過ぎて辛い。自分のクソ野郎具合に死にたくなってくるな。

 同時に家族以外でも慮ってくれる存在がいることに救われていた。

 前世では誰からも事実を認められず、ただ化け物を義務的に狩り続けていたあの頃を思うと……ん?


 ああっ、思い出した!

 僕が瀬尾さんに対して抱いていた何かの正体はこれだったのか。

 

「どうしたのぉ~青野君。呆然として」

「由佳の露骨な点数稼ぎに呆れたんじゃないの?」

「違うから!私は純粋に……」


 意識して彼女の顔を見れば分かる。

 苗字は違うけど、確かに面影がある。

 僕の話を聞いてくれていた、喜んでくれていた彼女に笑った顔がそっくりだ。

 一つ前の生で、役割を終えた僕は普通の人生を過ごし、老人になった。

 老人として過ごす中で、色々な人に化け物退治の物語を誇張も偽りもなく語って聞かせていた。

 

 あまりの非現実さに老人の法螺話とは思われていたけど、沢山の人たちがそれを聞いて楽しんでくれていた。

 彼女もその一人だった。

 僕の話を楽しそうに聞き、老人であった僕を最後まで世話してくれた人だった。


「瀬尾さん、お母さんってもしかして老人ホームで働いてる?」

「え、何その唐突な質問。ていうかエスパー!?結婚して辞めちゃったけど、昔は働いてたよ。九州の方だから全然こことは関係ない土地なんだけど、青野君お母さんのこと知ってるの?」


 結婚して辞めちゃったのか。だから名字が違うのか。

 でも世間は狭いな。

 同じ日本でも前世で関わった人の子どものクラスメイトと同じ教室にいるなんて。


 これ駄目だな。認識してしまえばあの子と重なる。

 僕は多分もう瀬尾さんをただのクラスメイトの女の子として見られない。

 この奥底から湧いてくる感情を名付けるならば、それはきっと……。


「いい子に育って……儂は嬉しいよ。飴ちゃん食べるかい?」

「唐突にどうした!まだボケるには早いよ、青野君!?」


 ガクガクと肩を揺すられつつ、僕は優しい目で瀬尾さんを見詰める。

 

 孫愛。

 これはきっとそう名付けるべき感情。

 

 結婚したことないし、子どもも出来たことないけど、僕はこれからこの子を孫と思って接していこう。

 漸く瀬尾さんに抱いていた不思議な感情の正体が分かってスッキリした。





 僕は瀬尾さんの対策資料を参考に勉強し、中間テストで学年10位となった。


「なんで青野君私より順位が上なの!?ていうか勉強会一回もしてないし!」


 瀬尾さんは15位だった。

 言えないけど前世の知識があるから理科と数学以外は、軽く差異を覚え直せば勉強しなくても元から取れるし、理科と数学も好きだから覚えやすいんだよね。


 瀬尾さんの対策資料のおかげもあって、ほぼ出席していない僕が進学校のテストで上位に入ることが出来た。

 家族にも褒められたし万々歳である。












『カバーストーリ―:成績状況』



 青野花音:

 学年トップの成績。偶に2位になることもある。全国模試でも上位。

 運動神経も良く、相手と直接競う競技は特に強い。

 絵は得意ではない。音楽はそこそこ。

 家庭科は得意。


 青野信也:

 学年上位の成績。中学生の時も成績は良かったが今ほどではない。

 運動神経は人間辞めてるレベル。竜を生身で倒せる。

 絵は得意。音楽も得意。

 家庭科は得意。


 青野春香:

 クラスで真ん中くらいの成績。勉強嫌い。

 勉強すれば上位は狙える。

 運動神経皆無。体力はある。

 絵も音楽も一般人並み。

 家庭科は苦手。


 青野萌香:

 クラスで真ん中くらいの成績。勉強嫌い。

 勉強すれば上位は狙える。

 運動神経皆無。体力はある。

 絵も音楽も一般人並み。

 家庭科は苦手。


 青野莉々:

 勉強は得意、特に歴史。

 ただしテストは苦手で、成績は乱高下している。

 運動神経は良いが、筋力や体力があまりない。五感が非常に鋭い。

 絵も音楽も興味は無い。

 家庭科はやって出来ないことはないが、やる機会が少ない。


 塚本有紗:

 学年上位の成績。勉強は義務的にやっているだけで、適度に手を抜いている。

 運動神経抜群。武術なら大の男数人纏めて相手にしても圧倒する。

 絵も音楽も一般人並み。

 家庭科は苦手。特に料理が微妙。


 塚本夕希:

 努力家だが、学年50位くらいの成績。

 運動神経はそこそこ。球技は苦手。

 絵は得意ではないが、音楽は得意。

 家庭科は学年一。特に料理が大得意。


 瀬尾由佳:

 努力家で常に学年上位の成績を維持している。

 教師受けが良く内申点が高い。

 運動神経が良く、どの部活に所属してもレギュラーが取れる。

 絵も音楽も得意。

 家庭科は得意。元々家の手伝いで慣れている。


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