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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 天の頂
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第4話 絶縁の箱庭と双命



『まずは、これを防いで見せよ』


 天竜の周りに風と雷が球体状に収束する。

 風雷の玉、その数は五つ。

 そのうちの一つがこちらに向かって放たれた。

 迫りくればその巨大さと内包されたエネルギーの非常識さが突き付けられる。


「これ以降は僕の命の制限はないものとする。マサムネ、僕に主導権を渡してくれ」

『ああ、相棒。様子見はおしめぇーってことだな。相棒に俺っちの全てを預けるぜ』

『テンマも、いいね?』

『分かりましたです。必ずお守りいたします』


 マサムネによってコントロールされていた白色の力の供給を止め、自分の意志で力を吸い上げていく。

 纏った白色の炎が大きく燃え上がり、輝きを増す。

 肉体を崩壊させかねないほどの力を循環させ、刃に込める。


「切り裂けっ!」


 斬撃と共に放たれた白銀の刃が巨大な三日月を形作り、空中で風雷の玉に命中する。

 真っ二つに切り裂かれた風雷の玉が内包されていた力を解放し、嵐のような爆発が発生した。

 耳がおかしくなりそうな、落雷を思わせる轟音が木霊する。

 

 休む間もなく残り四つの風雷の玉を次々と打ち込まれる。

 一つ、二つ、三つと先ほどと同等の斬撃を繰り出すが、急激に消費される力に血の気が引いていく。


『主様、最後の一つはわたくしがっ。おっきなおっきな炎の玉!』


 テンマから放たれ巨大な炎弾が風雷の玉を飲み込み、大爆発を起こす。

 炎に視界が完全に覆われるが、僕にその熱は来ない。上手く爆炎を天竜側に流せている。

 僕は限りなく力を抑え、天竜に向けて駆ける。


『有難うテンマ。それに上手になったね』

『ハイなのです!わたくし日進月歩ですので。それより主様の体を回復します』

『この距離で打ち合いは俺っちたちが不利だ。相棒の体が持たねえ』


 さっきの斬撃、最初の一撃の段階で肉体の崩壊が始まっていた。

 体からパラパラと白い粒子が散っている。

 肉体の細胞が死に、塵に還っていく。

 本来異物である力を、己の限界以上に取り込み続けているのだ、何かしら不都合が起きるとは思っていた。

 これがどこまでが取り返しのつく範囲なのか、分からない。

 駆ける僕の体にテンマは癒し手を使うが、崩壊した箇所が治っている感覚はない。

 しかしどんな状態になろうとも、白色の力に頼るほかない。


『まだ本気ではなかったか。だがその力、長くは持たないようだな』


 炎の向こうから天竜の声が聞こえる。僕のことを、その状態を視認されている。

 いや、今の声、近くないか?

 炎が風に散らされ、目の前に天竜の威容が現れる。


 飛行術。

 一瞬で数百メートル距離を詰めてきた。

 僕の体を優に超える爪がこちらに向けて振るわれる。

 

 ほぼ0の状態から100の力を供給し、爪と刀を合わせる。

 切るのではなく、いなす。

 刀を起点に体を奴の殺しから逃れる。爪が接触した部分から刀の力がどんどんと削られていく。

 いなすだけでどれだけ力を使わせるのか。

 

 爪から逃れ切れば、次の瞬間には天竜の凶悪な咢が迫っていた。

 いなせないし躱せないタイミング。受ける以外ない。


『守護する盾よ!』


 体の周りが青い光に覆われる。


『消えよ。守護を禁ずる』


 攻撃を受けていないにも関わらず、テンマが体にかけてくれたくれた守護の力が、ガラスの割れるような音と共に砕け散った。

 天竜の力かっ。

 奴の技能の中でそれにあたりそうなのは精神術だ。

 なすすべなく天竜の牙が体を突き破る。


 だが牙に貫かれたその体は、白色の影となって消え失せた。

 あったはずの体は消え、有るはずのない場所に僕の体は現れる。

 

 守護の光が砕ける僅かな隙に、肉体は白色の力を残してその場から離れていた。

 化け物退治で培った、相手の意識を外し裏を取る歩術。

 力を抑え、視線を切り、空中に飛び上がり、自由落下の先で、眼下には天竜の伸びきった首がある。

 この絶好の機会を逃す手はない。


 この一撃に、僕の生命を全て注ぐ。

 マサムネから得られる全てを一刀に込めて。

 太陽の光と見紛う刃を振り下ろした。

 極限まで強化された斬撃。

 首に深々と打ち込まれたその刀は、天竜の首をへし曲げ、確かにその鱗を切った。


『ぐおおおおっ、まさか我の鱗を裂くかっ』


 だが、天竜の肉体には届かない。血の一滴すら流れていない。

 表面の鱗を切り裂き、その下から覗く折り重なった鱗を傷付けたところで刀は止まっていた。

 首を振られ、体が宙に持ち上げられたところに、迫る天竜の尻尾。


『守護よっ!っつ、駄目なのです、発動しない!?』


 テンマが守護を使おうとするが不発に終わり、なすすべなく左側面から巨大な質量が叩き付けられた。


 天地が分からなくなり、遥か彼方に吹き飛び、叩き付けられた地面で、土に汚れながら転がった。

 尻尾にぶつかった箇所は骨が粉々に砕けている。他の骨も無事なところがない。

 他にも裂傷に打撲、戦闘の続行が不可能な怪我だ。

 

 僕は懐からひび割れたニアの宝珠を取り出し飲み込んだ。

 急速に痛みが消え、徐々にだが体が治っていく。


 だが、崩壊する体は戻らない。

 崩壊の速度は遥かに早く、粒子が砂のようにザラザラと零れ落ちている。

 マサムネを握る腕が重い。切っ先が地面に落ち、持ち上がらない。

 体を巡る生命はか細い糸のように弱弱しい。

 

 さっきの一撃は、もう打てないな。

 ニアの宝珠でも、今の僕の体を万全には戻せないか。

 精神術の原理は分からないが、テンマの守護も使えなくなったとみていい。脆弱な人の身では攻撃が掠るだけでお陀仏だ。

 

『主様っ、わたくしが治しますっ』

『相棒、もうやべえぞ……お前の体は……』


 二人の声に応える余裕もなく、遠くに見える天竜を見詰めた。


 余りにも高く、余りにも強い。

 分かっていたことだ。


『……弱き者よ、限界の様だな。生き永らえることすら叶わぬのなら、一撃の元に葬ろう』


 天竜の喉が光る。無限に等しき力、その一端が一つの攻撃に収束している。

 大気は震え、大地は鳴動する。

 同じではない。先ほどの息吹が児戯に思えるほどの力。

 ここに来てなお、天竜の力は底が見えない。


『……テンマ、逃げてくれ。天竜に認識されていない君だけなら、竜の息吹から逃れられる』

『嫌です!わたくしは主様と一緒なのです!』

『テンマちゃん、相棒の思いを汲んでくれ。このままじゃ全員犬死になっちまう』


 僕が死んで試練のシステムでまた全てを忘れてしまうかもしれない。

 でもそうじゃなかったら。僕の持ち物がこの世界に残されたままなら、テンマもこの世界に存在し続けることが出来るかもしれない。


 今は認識されなくても、テンマなら成長して人と共に暮らせるようになると信じている。

 もうテンマが何かを忘れてしまうことはない。


 マサムネも、残りの全ての力をかき集めて遠くに投げれば助かるかもしれない。

 

『わたくしは絶対にあなたを守りますっ。それは主様にだって文句は言わせないのですっ。わたくしは、わたくしより大切なもののために、わたくしの全ては主様のためだけに使うのです!!』


 叫びと共に、テンマの体から光の鎖が現れ、僕の胸に突き刺さる。

 この鎖は一体。


『テンマの双命の鎖


 二つの命を繋ぐ鎖。

 一方が死ぬとき鎖に繋がれたもう片方も同じ運命を辿る。

 鎖に繋がれたものの生命は循環する』

 

 体の崩壊が止まる。

 それどころか消えかけていた生命が巨大な、それこそ太陽のように燃え上がる。

 暖かなものに抱かれるような心地よい感覚に包まれる。これがテンマの生命。


『わたくしは主様と共に天竜を倒します。たとえこの身が消えようと、主様と共にどこまで行くのです』


 テンマの翼から半透明の黒い羽根が舞う。

 僕の体とマサムネの刀身へと吸い込まれていく。


『テンマの死生の羽根


 与する者に癒しの加護与え、敵対するものに死の祝福を与える羽根』


 僕の体が急速に回復していく。

 砕けた骨が、損傷した肉体が撒き戻される様に修復されていく。その速度はニアの宝珠を超えていた。

 

 マサムネが纏う白色の力が輝きを増す。

 乾いた砂に水が吸われるように、白色の力を容易に込めることが出来る。

 力ばかりでない、白色の力の格が、性質が違う。

 生命の存在を一切許さない、何者をも滅ぼす鋭い威容を放っていた。


『テンマ……僕は』

『主様はメッ、なのです。わたくしはいつも言っているのです。でも主様はおバカさんなのでわたくしは何度でも言ってあげるのです』


 テンマは僕の目の前でくるり回り、腰に手をあて天竜を指さす。


『わたくしと主様は最強なのです!』


 ああ、そうだね。そうだったね。

 僕たちはいつだってノリよく歩んできた。

 命がかかっていようと、それだけは変わらない。

 テンマをのけ者にしようとした僕が怒られるのは仕方ないことだ。


『おう……僕たちは、最強だっ!』


『おいおい、俺っちも忘れてもらっちゃ困るぜ。俺っちたちサイコーっ!』


 天竜の臨界まで高まった力はいつ放たれてもおかしくはない。

 だけど、恐れることはない。

 もし次の瞬間に命が消えるとしても、今この時は全てを戦う意思へと昇華させられる。

 テンマと、マサムネと一緒だから。


 僕はマサムネの切っ先を天へと掲げた。

 内から溢れる莫大な生命と、大河のように供給されるマサムネの力を解き放つ。

 白色の力が光の柱となって空へと昇る。

 死の際に高められた戦意と集中によって、強大な力を掌握する。

 膨張し、圧縮し、その光は一本の刀のように研ぎ澄まされた。


『がああああっ!!』


 天竜の息吹が放たれた。

 全てを薙ぎ払い直進する極大の光線は、前回の比ではない力でもって僕へと向かう。

 僕はその光線に向けて刀を振り下ろした。

 白の斬撃と紫の息吹がぶつかり合い、巻き起こされた光は僕たちと天竜を飲み込んだ。








『カバーストーリー:技能 精神術』



 精神の力を用いて対象に強化、弱体化を仕掛けるノーマル特殊技能。

 主に言葉などを用いて術を行使し、言霊によって相手の行動を縛るないし弱体化させる使い方と、能力値の上昇、耐性を施す使い方がある。

 仮に弱体化を仕掛けられた場合、込められた力が尽きるのを待つか、精神術を上回る力を放出し消し飛ばす方法で解除する。

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