表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 孤独の迷宮
4/149

第3話 現状説明と試練資格



 何も手立てがないまま数日が経ち、事情を知った母さんと父さんの励ましもあってか萌香は体調が優れないながらも普通の生活は送れていた。


 母さんは今の世界全体の状況をフィクションのように思っている気がする。

 父さんはまだ判断に迷っているようだ。

 

 あれからライブ配信は次々と放送されていた。

 様々な国の人々が映し出され、無残に殺されている。

 動画については家では誰も話題に出さない。

 連日それを取り上げるテレビも常に消している。

 それでも空気は張り詰めていて、焦燥は日に日に募っていった。



「今日、朝のホームルームが終わった後は体育館に移動だ。政府の職員から臨時の説明会がある。例の放送や動画についてらしい。わざわざ集めてすることでもないだろうに……」


 「授業が遅れる……」とため息を吐く犬木先生だが、生徒は若干興奮している。

 進学校といってもゴシップは別腹のようだ。

 この時代の政府は超常現象に対してしっかりとした説明ができるのだろうか。

 はたまた隠蔽か。

 萌香の気持ちを慮るばかりである。


 体育館には高等部の一年生から三年生の全生徒が集合した。500名強はいるだろうか。

 みな静かに待っている。

 前方にはプロジェクターが準備されており、白い垂れ幕が壇上の背にかけられていた。

 まず校長が挨拶を済ませ、直ぐに舞台袖に引く。

 プロジェクターが投射され、映像を映し出した。


『皆さん、お早うございます。本日は貴重な時間をいただきありがとうございます』


 映像の中のスーツ姿の男性が挨拶した後、リモコンらしきものを片手で操作し、男性の横に置かれたスクリーンから映像が出る。

 そこには数日前に放送された内容が文章で書かれていた。


『皆様はこの放送に聞き覚えがあるでしょう。これは全世界に同時に流されたものです。言語はその国の母国語、もしくは地域の言語で放送されています。しかし詳細は一切分かっておりません』


『放送器具の使用形跡はなかった、放送器具のない山間部や砂漠まで響いた、動物は放送に反応していなかったと報告のあることから、人類の既存の技術ではありえない手段が用いられています』


 男性はレーザーポインターで一つの文章をなぞる。


『この星は遠からず資源を使い果たし、文明が衰退することが確定している』

 

『現在世界の地下資源は枯渇の一途を辿り埋蔵量はほぼ無くなっております。海洋資源や自然発電による資源の確保により何とか現状を維持しておりますが、未来の需要を満たすには圧倒的に足りない』


 映像が変わり地図やグラフが映し出され大まかな説明がされていく。

 周囲にはざわめきが起こる。ニュースでは日ごろ100年後には地下資源が無くなると言っていた気がする。発展した人類を100年もたせる量に対して、ほぼ無くなっているという言葉は意味が矛盾している。


 また映像が変わり男性は別の文章をなぞった。


『我々は哀れな人類に救世を行います』

『試練を乗り越えたものにのみ繁栄が訪れる』

『人類よ、救われるだけの価値を示しなさい』


『そんな中、人類に対してコンタクトを取ってきたものがいます。彼らは自分たちを私たちの上位種であり、神に近しきものだと名乗りました』


 生徒たちが先ほどより明らかに騒めく。失笑すら浮かべているものがいる。

 しかしスクリーンの男性は真面目な顔を崩していない。


『この話は実際に彼らと対面しその力の一端を見なければ分からないので疑うこと、信じられないことについて咎めはしません。これから強制的に認識されることです』


『彼らは自身を「上位観測者」と定義しております。彼らは人類に対して代表者を選出し、彼らの課す試練を乗り越えることで今後の繁栄を支援してくれるのです』


『逆に、人類が彼らの試練を乗り越えられなかった場合、彼らはこの星に見切りをつけ支援は無くなり人類は衰退します。……もしくは彼らの怒りを買えば文明は滅ぶでしょう』


 最後の一言は何となくこの人の主観が入っている気がする。

 男性は残された文章にレーザーポインターを滑らせる。


『資格を持つものよ、試練に挑め』

『資格なきものよ、祈りなさい』

『良き戦いを』


『試練の資格は国ごとに選出されます。我が国の人口は1億3328万人。試練の資格は10万人につき1人に与えられます。よって我が国の資格者は1332人。10万人に満たない国でも1人は試練の資格が与えられます』


『もう察していると思いますが、配信動画を見た方もいるでしょう。あれが試練であり、人類に課せられた闘争です。試練の資格者はその資格を失うその時まで、上位観測者の課したすべての試練を超えるまで戦い続けます』


『資格を持つものは覚悟を。あまり時間は残されていません。資格を持たないものは支援にご協力をお願いいたします。詳細は冊子を後程教員の方から配られますので必ず確認してください。資格保有者に名乗り出てもらった場合可能な限りの協力を政府は行います』


『以上、終わります』




 集会が終わって教室に帰ってから冊子を確認する。

 この時間の授業は自習となっている。

 まあ、みんな勉強どころではないだろう。

 ノートに情報をまとめてみる。



『資源について

 

・地球の資源だが世界で同時に枯渇し始め、現在の埋蔵量では今の生活水準は5年と持たない。あくまで地下資源であり、海洋資源については把握しきれてはいないが、採掘の準備が整っていないためどちらにしても供給を満たせない。


・既に採掘した貯蔵分はそれなりにあるが、日本の貯蔵量は先進国の中で下から数えた方が早い。


 注釈

 過去の閲覧した記録と現代の状況を鑑みても埋蔵量には矛盾が見られた。政府の発表は明らかに地下資源が低く算出されているように思える。誤情報の可能性あり。』




『上位観測者について


・放送が始まるまで世界の政府は上位観測者を認知していなかった。試練についても一方的な押し付けで、事後承諾だった。


・科学で観測できない超常現象を使える。太陽の光を遮る、風を止める、物体を消失、出現させるなど。上位観測者の気分で自然発電を止められる危険性がある。


・姿は不明だがコミュニケーションはとれること、精神構造は人類に極めて近いこと。

・地球の生命で人類にしか干渉しない。』




『試練について


・現在行われている試練はいわゆるチュートリアルであり、孤独の迷宮で死亡しても本来の死はないが死の体験は残る。

 以降の試練で死ぬと間違いなく死亡する。生きていても試練に失敗した時点で命ごと資格を消失する。


・孤独の迷宮は十階層あり、最奥に辿り着くことで攻略となる。


・試練の資格はチュートリアル試練開始前のみ譲渡可能。以降は譲渡不可能となる。


・今回の試練には開始制限時間があり、チュートリアルでも時間内に孤独の迷宮の試練を受けなかった試練資格者は資格を失い死亡する。


・試練では肌着以外の持ち込みが出来ない。


・試練でリソースを使用することで必要な装備やアイテムなどを入手することが出来る。


・試練の結果でリソースやアイテム、資源を入手できる。


・リソースで購入した装備やアイテムは、次の試練で同じものが支給される。


・リソースで購入した装備やアイテムは、次の試練でリソースに還元することが出来る。


・消耗した装備やアイテムは次の試練で元の状態になって戻ってくる。


・資格保有者が死亡しても新たに資格保有者を選出する予定はない。


・全世界の試練の状況は某動画サイトで確認することが出来る。


・試練が何度行われるか、上位観測者からの回答はない。』




『試練の現状の進捗について


・試練、孤独の迷宮が終わったものは、現在新たな試練を課せられていない。多くの人間がPTSDを患っている。昨夜時点で試練を終えたものは全体の1割ほど。


・現在、世界で孤独の迷宮をクリアした者はいない。最高到達階層は第七階層。

 驚くことにアメリカの僕より年下の少女だった。


・試練資格者が日本政府に申し出れば、試練資格の代理人を用意する準備をしている。

 現状は戦えない老人や病人、10歳以下の子どもが優先。

 ただそれですら需要と供給を全く満たせていない。』




 まとめた資料を眺めつつため息を吐く。

 どのくらい資源が手に入るのか分からないが、上位観測者が人類を救えるほどの力を持つ存在であるなら、費用対効果は良いといえる。


 ようは60億人を支えるために6万人犠牲になってね、と言っているのだ。

 なお追加人員投入の可能性はなし。全滅すれば人類はポイッだ。

 これが超常の存在による人類を使った愉快な遊戯盤的な話だったらなんも言えない。

 まあ、これから分かっていくことだろう。

 

 まだ数日しか時間が経っていないのに政府の動きは早かった。

 これも上位観測者が何かしら計らったのだろうか。とことん拙速である。

 

 内容をまとめたが、政府の発表についてはある程度の脚色や作為があると見ていい。

 勘ではあるが、間違いなく何かを隠しているように思える。

 

 それにしても10万人に1人の確率か。

 0.001%は普通なら当たらない確率だよね。

 僕はそっとため息を吐いてノートを閉じた。




 浮ついた気分のまま一日が終わり、学生たちは今日も話題が尽きないのか話したり例の配信を見たりして居残りしている。

 僕はそんなビッグウェーブに乗る気はなく一人でさっさと帰る。


 帰ってきていつものように家のパソコンで情報収集をしたが、やはりどれも胡散臭く信憑性に欠ける。

 今日の話が真実に近いと仮定して考えるしかない。

 

 夕食時間には皆も帰ってきていたが表情は暗い。

 父さんも僕たちと同じ説明を会社で受けたようだ。

 母さんはテレビの緊急放送を見たらしい。

 母さんもこの話を現実として受け止め始めていた。

 食卓には萌香の姿はない。



 どうしたものかな……。

 今までの僕の態度だったら試練資格を代わりに貰うところだろう。

 でも自分の代わりに兄が死ぬ、もしくは死にそうな目にあって、ズタボロになるのを見せつけられて普通に過ごせるかと言われると、それはないだろう。

 記憶にある萌香の感受性は、どこに出しても恥ずかしくない心優しいものだ。


「ご馳走様。美味しかったよ、母さん」

「ええ、お粗末様」


 洗い物をシンクに運んで部屋へと引き上げようとしたが、母さんから声を掛けられた。


「信也、萌香にご飯をどうするか声を掛けてもらっていいかしら?」

「分かった」


 萌香の部屋は春香と同じ部屋だ。ノックをしたが返事がない。


「萌香、ドアを開けてもいい?」

「……………うん」


 まだ思春期の気恥ずかしさはないのか、僕を部屋に入れることに抵抗されたことはない。父さんの場合、莉々も含めて女性陣は断固拒否するけどね。


 ぬいぐるみだったり、可愛い小物が好きな二人なので部屋の中は賑やかだ。

 電気もつけられておらず、ベッドの上の布団がこんもりと盛り上がっている。


「母さんがご飯どうするかだって。降りられそう?駄目そうだったら部屋まで持ってくるよ」

「……ここで食べたい」

「了解」


 一度台所まで戻り、母さんに事情を説明してお盆に食事を乗せる。


「父さん、今からあれを頼める?」

「……分かった、準備をしてくる。お前は…………いや、なんでもない」


 僕はリビングにいた父さんに、前々からお願いしていたことを進めるように話した。

 父さんは何か言いたそうな顔をしていたが、言葉にならないようで変な顔をしていた。

 少し迷う素振りを見せたが、父さんは首を振り部屋へと引き上げていった。

 僕は萌香の部屋に戻り、部屋のテーブルにお盆を置けば萌香がベッドから出てきた。


『青野萌香 女 13歳

 関係:妹 感情:不信 状態:衰弱 精神:失望』


 肌は荒れていて隈も酷い。ステータスはボロボロでもう限界だった。

 ギリギリで精神が保たれていたけど、今日の政府の発表がとどめとなったのだろう。

 言ってはなんだが、ベストコンディションだ。

 食事に手を付ける前に僕は声を掛けた。下手に精神を回復されるのは宜しくない。


「萌香、一つ提案があるんだ。辛いだろうけどあの半透明の板を出してくれないか」

「え、わ、私」


 体が震えだしているが肩に手を置き強めに抑える。

 萌香は少し怯えたように目を背けながらも拳を前に出し、ゆっくりと開いた。


『試練資格JPN_No.01023

 青野萌香 女 13歳

 技能:魅了LV3 社交LV3 異身伝心

 称号:なし

 生命:5/10

 精神:2/10

 装備:なし

 保有アイテム:なし

 リソース:100P』


『試練:孤独の迷宮を開始しますか?開始制限時間4日12時30分05秒

 YES   NO

 ※開始制限時間を超えた場合、試練資格を喪失します』


『試練資格を譲渡しますか?

 YES  NO

 ※資格の譲渡はお互いの同意が必要となります』


「う、ううぅ……」

「よしよし、偉い偉い」


 口元を抑えて、気持ち悪そうに目を背ける萌香の背中を労わるように撫でる。

 あまり時間は掛けられない。誰かが来る前に済ませないと。

 

「次は、試練資格を譲渡しますか?のところのYESをタップしてみて」


 思考が正常に働かず、衰弱した萌香は言われるままYESをタップした。半透明な板の表示が変わる。

 表示されているのは人の名前で、僕の名前が一番最初に来ていた。

 他は家族やご近所さんの名前だった。恐らく萌香を中心とした距離順だろう。


「僕の名前をタップして」


 萌香が青野信也の名前をタップすれば、今度は僕の前に半透明の板が出てきた。

 

『青野信也

 試練資格JPN_No.01023 

 青野萌香の試練資格の譲渡を受諾しますか?

 YES  NO』


 ここまでくれば問題ない。後は僕が操作できるようだ。


「……え?まって、ナニコレ、ダメ!!」


 萌香は僕の目の前に現れた半透明な板に、先ほどまでの緩慢だった意識が戻り、焦りながら自分の板や僕の板を操作しようとするが、萌香の操作を受け付けていない。

 僕が操作しない限りこれは消えない。

 

「萌香、僕が望んでしていることだから気にしないでほしい。これは僕が選んだことだから、僕が責任を持つから、萌香はもう何も心配しなくていい」


 僕は迷わずYESとタップした。


『試練資格受諾を確認

 試練資格JPN_No.01023 青野信也を登録します』


「ダメ、返して!お兄ちゃんそんなことしないでよ!」

「残念、それは無理だよ」


 僕は拳を開き半透明の板を開く。


『試練資格JPN_No.01023

 青野信也 男 15歳

 技能:なし

 称号:なし

 生命:10/10

 精神:10/10

 装備:なし

 保有アイテム:なし

 リソース:100P』


『試練:孤独の迷宮を開始しますか?開始制限時間4日11時27分31秒

 YES   NO

 ※開始制限時間を超えた場合、試練資格を喪失します』


 僕は既にその板のYESをタップしていた。

 

「今日の説明で聞いただろ、一度試練を始めたら二度と試練の資格譲渡は出来なくなるんだよ」


 僕の体は端から粒子になって消えていく。

 お膳立ては済んでいる。後は僕次第だが、果たして目論見通りいくのだろうか。


「いやあああああぁ!!」


 萌香の絶叫が響き渡る部屋に、父さんを除く女性陣がなだれ込んでくる。

 彼女たちの手は僕の体を捕まえようとするが、その手はすり抜け、僕はこの世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『カバーストーリー:試練開始の混乱』



 試練が始まってから様々な憶測が流れている。

 情報は常に入り乱れ、まともなものの方が少ない。

 上位観測者がもたらした情報がなければ混乱は続いただろう。


 正しい情報を流してもおかしな憶測はインターネットに流布される。

 誰も彼も面白がり、大きな声を上げている。

 ステータス、技能、迷宮、残虐な死。そして死からの復活。


 まだ人々は真の意味で理解していない。

 これは人が面白おかしく騒げる類のものではないのだ。


 私たちは神のごとき存在の掌で踊らされているのだと、すぐに理解するだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ