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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 天の頂
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第1話 絶縁の箱庭と三人旅



 現在、僕とテンマとマサムネと共に、天竜ベリエルの住処に向けて歩みを進めている。


『わたくしたちの冒険は~今~始まるのです~』

『なんでぇ突然?』


 狐人族の集落をでてから2時間ほど経っただろうか。特に危険はなく旅路は順調だ。

 というより今の僕たちに勝てる存在は少ないのでは。

 いや、慢心駄目絶対。


『丘を越えて~山を越えて~海を越えて~』

『歌か?旅の歌か?いいじゃねぇか』


 テンマの歌を聞きながら、岩場を歩く。

 行きの道で歌っていたものと同じ歌のようだ。

 即興かと思ったけど、ちゃんと覚えていたらしい。


『空を越えて~月を越えて~星を越えて~』

『おうおう、行きねぇ、行きねぇ』


 ……合いの手入れてるよ。

 テンマが若干苛立った顔をしている。


『でもマサムネだけは丘に戻ってきて~』

『なんでだよ!』


 一人だけ戻ってきちゃった。酷い。




 時間当たりの移動距離は長くなっているため1日の移動時間を短くできる。

 早めに野営の準備を進め、岩場でマサムネを振るう特訓をした。

 ついでにテンマの生命術の練習も兼ねる。


 作戦名「もう全部マサムネさんに任せとけばよくない?」だ。

 要するに白色の力も、テンマの生命術も、呪いも、癒しも、マサムネに付随した力ということにしてしまって好き勝手するということだ。

 我ながら完璧な作戦である。


『というわけで二人とも、頼むぞ』

『ハイなのです!』

『おう、任せんさい!』


 本当に頼むぞ。頼むから仲良くしてくれという意味だからな。


 僕はマサムネから供給される力をコントロールし、身体能力を強化する。

 一気に踏み込み剣を振るえば、白銀の軌跡を描き、空間を両断した。

 恐ろしく速く、恐ろしく力強い。人間を逸脱した力だ。

 だがこの程度では天竜の首は取れない。もっと力をコントロールする必要がある。


 振り向きざまに切っ先を背後に向け、テンマに『炎弾』と伝える。

 切っ先から巨大な炎の球体が出現し、一気に周囲の温度を上げる。目が開けられない。

 炎弾は炎をまき散らしながら直進し、岩肌にぶち当たり大爆発を起こした。

 爆風で僕は空を飛んだ。



 僕はテンマに火傷と打撲を治してもらいながら、話し合いの場を設けた。


『いやよう……もうちっと炎を離れた位置に出すとか、威力を調整するとか、爆風を逃がすとかするもんじゃねぇの?』

『あるじさま~』

『大丈夫。癒し手で十分治るから。次いこう、次』

『相棒はテンマちゃんに甘いねぇ。いいけどよ』


 その日は繰り返し練習を行った。

 僕とマサムネの力のコントロール技術と、テンマの癒し手と守護が滅茶苦茶上達した。




 次の日も移動を続ける。

 まだまだ天竜の元に辿り着くには距離がある。

 物臭の地図があるので一度通った道は楽に進める。ホント便利いいなこの地図。


『わたくしたちを乗せて~お船は飛んで行く~』

『お、テンマちゃんまた歌うのか?』


 拠点探しはもう止めておこう。流石に道を外すと時間が足りなくなる。


『どこどこ行こうと~お空の海を~飛んで行く~』

『イヤェ、イヤェ、ヒュー!ヒュー!』


 そう言えば僕ストレージを全く活用していなかった。適当に綺麗な石や果物でも入れてみようか。


『ああ~でも、この船は一人乗り~重量制限で落ちちゃうのです~』

『イヤェ、イヤェ……え、嫌な予感がすんだけど』


 奇遇だね。僕もだよ。


『わたくしは飛んでいるから大丈夫~一人乗りでも問題な~い~』

『お、てっきり降ろされるかと思ったぜ。テンマちゃんもそこまで鬼じゃねぇか』


 いや、安心してはいけない。


『そもそもマサムネは乗せてないのです。お留守番なのです』

『俺っち、歌詞にすら出て来ねぇのかよ!?』


 歌を止め、冷徹に解説するテンマ。鬼である。


 でも何だかんだで仲良くなっている。

 喧嘩するほど仲が良い、というのは全面的に同意出来なけど、無視したり無言になるよりはコミュニケーションが取れる分悪くないだろう。



 今日も野営場所を作ってから鍛錬をこなし、疲れ切ったところで夕食の準備をした。

 夕飯はおやきである。

 色々な具の入った硬めのパンで美味い。遠火で暖めていただくとなおよし。

 テンマ用に生地を千切って、小さいおやきにして渡すと美味しそうに食べている。

 

「これもマサムネの知識なんだよね。どうしてこんなこと知ってるの?」

『ずっとずっと昔に、俺っちが担い手と過ごしていた時に覚えたんだ。その当時は意識がなかったが、ちっとだけ記憶は残ってるんだよなぁ』


 人間族の大陸に日本みたいな場所があったという事だろうか。

 興味深いが、僕は行けない。


「その担い手ってどんな人だったの?」

『あの人は愛に生きる人だった。ずっと昔に奥さんを亡くしててな。戦いに生きる中で、助ける先で、色んな女に好かれたが、それでも毛一本なびきやがらねえ。マジで奥さん愛し続けていた』

「カッコイイ人だね」


 転生し続けても恋人すら出来ず、今際に夢と思って運命の相手との出会いを願った自分が恥ずかしくなってきた。

 それにしても既婚者か。僕には遥か彼方に縁遠い話だ。


『あの人は世界一カッコイイさ。でもよお、あんまり戦いすぎて、その内自分が何者だったのかも、奥さんのことも、どうして戦っているのかも分からなくなってきてよぉ……』


 激しい戦いの中で人間性を保てなくなることはある。記憶も同じだ。

 それは僕にも分かることだった。

 最愛の人すら忘却の彼方に消え、戦う理由すら擦り切れ、担い手はいったいどれほど過酷な戦いに身を投じ続けていたのだろうか。


『俺っちは何とか支えてやりてぇって思ってたのに、気付けば洞窟の中で一人寂しく突き刺さっていたわけさ。マジで訳分かんねえ……俺っちは、あの人の傍に居なきゃいけなかったのによぉ……』


 その声は胸が痛くなるほどの悔恨が込められていた。

 長い間、洞窟で孤独に過ごしても、まるで枯れることのない担い手を慕う思い。


『マサムネはその人の所に帰りたいのですか?』


 テンマが話に入ってきて驚いた。

 それも普通に会話している。


『そりゃ無理だよ……俺っちがここに来てから正確な時間は分からねぇが、狐人族と会ってから500年は経ってる。感覚では洞窟で目覚めて2000年近くは時間が経ったはずだ。あの人の戦いも、流石に終わっているさね』


 箱庭でも、地球でも、人間族の寿命は変わらない。

 2000年も前では、もうどこを探したとしても、痕跡すら残っていないだろう。

 マサムネには担い手の元に帰るという選択肢が存在していなかった。

 こんなにも思い続けているのに。


『……それはとてもとても長い時間なのです。わたくしがそんなに主様と別れちゃったら……』

『俺っちのことは気にすんな。それに相棒の時間はまだまだある。これからも一緒いられるさ。だから天竜はぶちのめして大手を振って帰ろうぜ』

『マサムネのくせに生意気なのです。言われなくても分かっていますですっ!』


 二人のやりとりで、しんみりした空気が解れる。

 なんだ、二人は大丈夫そうじゃないか。案外似た者同士なのかもしれない。

 どちらも大切に思う人の為に頑張れるようだから。




『おいおい、このテンマちゃんよぉ!何回制御ミスれば気が済むんだよ。その内相棒が丸焼きになっちまうぞ』

『申し訳ございません、主様……でも、ワザとじゃないのです!マサムネこそ、その力で防御してくれてもいいじゃないですか!』

『味方の攻撃にいちいち防御する奴がどこにいるか!そうならないように練習してるんだろうが』

『むきっーーーー!次こそは完璧にやってやるのですっ!!』



 やっぱり気のせいだわ。チリチリになった髪の毛を触りながら僕は思った。

 しんみりしていた次の日の鍛錬でこれである。

 でも今日はちょっとだけ連携が上手くなった。











『カバーストーリ―:マサムネの思い出』


 

 俺っちの担い手はずっと戦い続けていた。

 どんだけ体がボロボロになろうとも、救った人間から後ろ指さされ、迫害されようとも。


 受け入れてくれる奴もいた。

 姫さんなんて側は華奢だが、中身はそこらの武人より余程肝が据わってた。

 誰からも畏れられてた担い手の懐に入って、ほんの少しの時間で考え方を変えちまった位だ。


 でもそれはすげぇ珍しいことだった。

 後にも先にも、担い手の隣に立てた女は姫さん以外現れなかった。

 いや、浮気じゃねえよ。

 なんつーか、信頼とか親しみとか、そんなんだったと思う。

 俺っち刀だから人間の機微はよく分かんねぇけどな。

 

 永劫の命はいつだって、担い手を孤独にした。

 命を繰り返し、そんな親しかった人たちに置いて行かれても、担い手は傷付いた風もなく、歩みを止めずに戦いを続けた。

 

 なあ、俺っちの担い手よ。

 頑張らなくてもいいんじゃないかい、ちょっとは休めよ。

 擦り切れたあんたの心に、記憶に、あの人はいないのに、どうして止まらないんだ?

 

 俺っちの声はいつも担い手には届かない。

 

 所詮刀だ、振るわれるだけの道具だ。

 何も出来ないのなら、せめて担い手の助けになるため、共にあり続けようと願った。

 あんたが何度生まれ変わっても、あんたの元に駆けつけて、俺っちも一緒に化け物退治に付き合うぜ。

 

 唯一の願いが叶えられることがないとも知らずに、馬鹿みたいにそう願っていた。


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