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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 狐人族の守り刀
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第4話 絶縁の箱庭と白銀の刀



「アオイ様の目の完治を祝してっ」

「「「「「かんぱーい!!」」」」」


 長の屋敷では大勢の狐人族、それこそ屋敷に入りきらずに庭や塀の外まで人が集まり飲めや歌えの大騒ぎだ。

 さっきの乾杯もいったい何度目だろうか。

 

 僕、知ってる。妖精族と同じ流れだね。

 ちなみに僕の体の結晶化はアオイさんが治してくれた。


 どうやらコントロールできれば結晶化の解除も可能なようで簡単に治った。

 まあ穴だらけになった体は、狐人族が保管していたニアの宝珠を無理矢理口に突っ込まれて治った。

 体調は悪くないし貧血な感じもしないけど、しっかりご飯食べて血を作らないといけない。


 宴の間、大人たちからはバンバン背中を叩かれたり、胴上げされたり、兎に角揉みくちゃにされた。

 喜ばれるのは良い事だし、アオイさんの目が治ったのもいいことだ。


 だけど僕は感謝されるだけの事、してないんだよね。

 ポーション先輩が治しただけだし、水晶眼のコントロールは一から十までテンマのお陰だし、治療行為そのものが武器を貰う代価だし。

 しかもいたいけな女の子の治療の代価だ。

 

 要するに感謝されるたびに罪悪感がジワジワと湧いてくるのだ。

 ルフリアさんの時はよかったよ。別に代価要求したわけでもないし企みなんてなかったから。

 でも今回は違うだろ。

 今頃配信を見ている人たちは僕を屑と罵っているだろう。

 それだけのことをした。

 

「おいおい、主役の一人が暗いじゃないかっ」


 ハチクロが陶器の杯を持って僕に絡んでくる。

 君はルグランか。酔っ払いめ。

 顔を赤くして楽しそうだ。あの夜に見た刺々しさは見る影もない。


「主役じゃないから。僕はただ薬を届けただけ。主役はアオイさんや、彼女を支えた人たちだよ」

「……お前は変わっているな」

「それは良く言われるね」


 僕は目の前の肉の串焼きを手に取って齧る。

 甘辛のたれには醤油の風味がある。

 肉は鳥のような何かだ。美味しいけど、いまいちテンションが上がらない。

 テンマは楽しそうに僕の前の料理を吟味しているから、まあいいか。


「俺はな、あいつに対してずっと負い目があった。色々手を尽くして薬草やら薬やらを集めて、医者や薬師を連れてきて、期待を持たせて、失望させて、あいつはどんどん顔が、よく分からなくなっていったんだ。最近は笑ってるのに、本当に笑えているのかどうかも分からなくなってきてよ」


 ハチクロは杯の中の酒をぐっと飲み干し、お代わりを手酌で注ぐ。


「そんなときによ、お前に会ってよ、うっさん臭いし、人間だし、天竜切るとかいうし、頭おかしいし、人間だしよぉ」

「喧嘩売ってるだろ。買うぞ、コラ」


 今はアルコール入っているから僕が有利だし。


「でもよお、おめぇはよお、妹の目をちゃんと見てよお、ううっ、ちゃんとよお、っつうつ……あんなに……おおおおおおおっ!!」


 ハチクロが僕をガバッと抱きしめ号泣する。

 こいつ、まともそうに見えて相当酔ってたな。


「泣き上戸か!止めろ、酔っ払い!男の抱擁は嫌だ!!」

「おおおおおおおんっ!!」

「いやあああああぁっ!!」


 外れない、力以外の術理が働いている。無意識で技を決めている。

 僕は諦めて酔っ払いの好きにさせた。


 ……涙か鼻水か分からない体液まみれになり、髭がジョリジョリで顔が痛くなった。



「よお、恩人殿。楽しんでいるか?……愚息が迷惑をかけてすまんな」


 幸せそうに寝入った野郎が僕の膝を占領するなか、狐人族の長のダンクロウさんが一人の女性とアオイさん、キリカさんを伴ってやってきた。


「こいつは女房のタツキだ」

「よしなに、シンヤ様。この度はアオイの目を治していただき、感謝の言葉もございません。私たち一族はあなたに大変な恩を受けました。深く、深くお礼を申し上げます」


 膝を折り、ダンクロウさん以外の三人が土下座のように深く頭を下げる。

 ダンクロウさんも上半身を傾けるような礼をとった。

 多分人間に対してここまで頭を下げるのは相当な事だろう。

 騒いでいた人もこちらに注目し、ざわざわと言葉を漏らしている。

 

「感謝のお言葉、確かに受け取りました。ですが武器を貰う代価に治療ですので、恩を感じる必要はありません。僕としてはそのお言葉頂けただけで充分ですので」


 ドライに取引しましょう。僕の精神衛生上、それが一番有難い。


「そんな、シンヤ様はその身を危険にさらしてまで私を救ってくれました。恩を感じるなだなんて、そんなことあり得ません!」


 アオイさんに言い募られ、キリカさんも頭をブンブンと下げて同意している。


「……アオイ、そう言ってやるな。この恩人殿の意向を汲んでやれ。この御仁は恐らく謙遜でもなく、本当に言葉以外を必要としていないと見える」


 お、流石は年長者。よく分かっていらっしゃる。

 初対面で堅気じゃないとか思ってごめんね。

 

「その通りです。僕はアオイさんの治療に対して考えが浅かった。寧ろ僕の治療で危険に晒してしまった。僕が危険を侵したのは自業自得で、それに負い目も感謝もアオイさんがする必要はありません」


「ただ治った目で、この世界のものをたくさん見て貰えたらそれでいい。ここは良い場所だから、きっと楽しいよ」


「「「「………」」」」


 沈黙が痛い。訳知り顔だった長も黙ってしまったため誰もしゃべり出さない。

 周りもシンとしていた。


 しょうがないのでこっそり尻尾を観察してみる。

 アオイさんとキリカさんの尻尾は凄い小刻みに動いていて、高速で箒でも掃いているようだ。

 ダンクロウさんとタツキさんの尻尾は特に動いていないが、心なしか震えている気がする。

 よくよく考えると狐の感情表現知らないから見てもあんまり意味なかった。


「あ、この人引き取って貰ってもいいですか?ちょっとこの体勢だとご飯食べられないので」


 僕は居た堪れなくなってハチクロを一家に渡してお茶を濁した。

 アオイさんはまだ何か言いたそうだったが、僕は治療が終わった以上関わることを極力控えたかったので、気付かないふりをした。


 宴は朝方近くまで続いていたようだが、僕は病み上がりなので頃合いを見てさっさと寝た。

 

 


 翌朝はすっきりとした目覚めで和風の朝食をいただいた。

 白いお米のご飯に、味噌汁に、お漬物に、焼き魚。

 日本より日本してる和風の朝食だ。

 味に違和感もない。寧ろ米が美味い。

 

 この場には、ダンクロウさんと、タツキさんと、ハチクロと、アオイさんがいる。

 僕が泊めてもらっているのは長の屋敷だから、自然な流れではある。

 この場で唯一体調が悪そうなハチクロは、死にそうな顔色で味噌汁だけ啜っていた。


 静かな朝食を終え、食後の緑茶を頂いていると、ダンクロウさんが口を開いた。


「さて、シンヤ殿。御所望の武器の件について確認がある」

「はい、なんでしょうか」

「狐人族の集落近郊では白燐鉱という金属が採れる。これは鉄鉱石から作った武器より遥かに強靭だ。白燐鉱で作られた刀は、折れず曲がらずよく切れる」


 お、早速ファンタジックオーバーテクノロジー来た。


「集落の中にある最高の一振りを譲るのは構わないが、それでも天竜を切れるかと言われれば、はっきり言って自信がない。シンヤ殿に多大な代価を貰った手前、心苦しいが」

「そうですね。あれの鱗は並大抵の、そもそも人の作り出した武器が通じそうな感じではなりませんでしたから」

「まさか……既に天竜に会ったのか」

「7日ほど前に。あれは凄まじかったですね。あれほど強大で異質な生物を初めて見ましたよ」


 なんであんなものに挑まないといけないんだろうね。


「ははははっ、まさに、あれは強大で異質。それを見てまだ挑みなさるかっ」


 この人は天竜を知っているのか。

 あの洗礼を受けたということだ。

 何となく僕に対する見る目が変わった気がする。

 胡散臭い人間の子ども、娘の恩人、そして無謀にも頂に挑む戦士の男へと。


「お父さま、天竜に挑むとはどういうことですか?いったい何のお話を……」

「お前は口を出すな」


 鋭い声にアオイさんがビクリと肩を震わせる。

 ダンクロウさんの心情を思うと、何というか、不器用な親心だ。

 微笑ましいものを見るような顔にならないよう顔を引き締めつつ、僕は続きを促した。


「それで、僕にいただける武器は」

「我々の造った武器では足りないかもしれない。だが、我々の造った武器でないものが、この集落に一振りある。それは天竜に届きえる可能性がある唯一無二の刀だ」




 朝食後、集落を離れて僕はダンクロウさんとハチクロに伴われて洞窟に向かっていた。

 辿り着いた洞窟は所々白い光が漏れている。

 ただ強い光ではないので、松明で足元を照らさなければまともに歩けない。

 

「ここは白燐鉱の鉱脈の上に存在する洞窟でな。私たちが集落を造る以前からあったものだ。その昔、空から光が落ちて出来上がった空洞だと言われているが、眉唾だろう」

「親父、まさかあの方に会わせるのか?確かに集落で一番は一番だが……」

「ものは試しだ。最高の武器を紹介せずに我々の武器を勧めるわけにもいくまい。それに、もしかすると、とも思っている」


 僕を置き去りにして話が進んでいるが、気難しい職人でもいるのだろうか。

 気に入ったものにしか武器を渡さない職人とかありそう。

 造ったのは我々ではないって言っていたしドワーフ的な種族かな?

 

 やがてひときわ強い光の宿った場所に着く。

 洞窟の最奥の広い空間に一本、刀が突き刺さっていた。

 

 天井に穴が開いており、そこから僅かに日の光が入ってきていて、刀身を照らしている。

 古ぼけた、それこそ触れるが崩れ落ちそうなほど劣化した柄。

 岩肌に刺さった刀身は白銀色に輝いていた。

 鉄では有り得ない色合いだ。

 

『よお、ダンクロウ!いつぶりだぁ?アオイちゃんの誕生日以来か?ハチクロも来てるのか!それに……あんたは知らねぇなあ?』


 声が聞こえる。

 僕たち三人の誰でもない。

 ましてやテンマでもない。

 やんちゃな兄ちゃんみたいな声だ。


「これが我々の集落に伝わる守り刀、マサムネ様だ」


 ダンクロウさんに紹介されたのは喋る刀だった。

 ファンタジーなのに名前はマサムネ……。


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