第3話 絶縁の箱庭と狐人族の娘
狐人族の男と出会った翌朝。まだ日も登っていない時間にテンマに肩を揺すられる。
僕はすぐさま起き上がり周囲を見渡した。
『主様、昨日の男が現れました』
テンマの視線の先を見れば静かに佇む狐人族の男がいた。
機嫌は可もなく不可もなく。
「やあ、早かったね」
「……お前は眠っていても気配を察知できるのか」
「どうだろうね。今日は眠りが浅かっただけかもしれない」
テンマさんのお陰に決まっているだろ。
僕はテンマの優秀さにおんぶに抱っこされてるんだよ。
言わせるなよ、誇らしい。
「まあいい、荷物を纏めてついてこい。お前を集落に案内する。そのマントのフードはしっかり被っておけ」
「わかった。それにしても早かったね。僕としては助かるけど」
「……」
無駄口叩くなと言うことですね。
僕はテントやシートを片付けてサックに収容する。
男はそれを見るや背中を向けて歩き出した。僕も遅れないように後を追う。
辺りは暗いが、テンマの暗視で誘導されているので転んだりはしない。男の足取りもしっかりとしている。
昨日の気配遮断といい、剣戟といい、この人相当強いな。
日が昇る頃には岩場を抜けて、砦のように塀に囲まれた狐人族の集落に着いた。
『大きいのです。妖精族の集落と全然違いうのです』
『そうだね。塀の幅も広そうだし、中々大きな集落みたいだ』
妖精族の森は切り開けない都合で、こんな風に建築物を建てることは出来ないが、それにしても立派なものだ。
和風建築なのが気になるけど。
僕が昔に雇われていた「お侍様」がいた時代位の建築様式だ。
「早く来い。お前一人でうろついて殺されても知らんぞ」
「そりゃ怖いね。手でも繋いだ方がいいかな?」
「……」
無言で歩いて行かれた。
割と本気の発言だったんだけど。
塀の中はまだ人がまばらだった。集落の人間はみんな狐耳で尻尾付きだ。
僕は犬派だからこの光景に心ときめく。
まあ、本物の犬と狐耳付き人のどっちを撫でたいかと言われれば、断然本物の犬だけど。
幅広の道沿いに並ぶ家々、お店らしきものも開いていないが存在する。
集落というより街ほどの規模と言っていい。
男の案内で着いた先は街の建造物の中でもかなり大きな屋敷だった。
庭も手が掛かっている。
相当な有力者が住む屋敷だろう。
「ここだ。家に入る時は靴を脱げ。武器も預けてもらう」
「分かった」
玄関の手前に待機していた初老の男性に短剣を渡し、靴を脱いで中に入る。
板張りの廊下に襖。襖を開ければ畳の部屋。本物の和室だ。
いや、畳の匂いと感触が違う。
イ草の代用品か何かだろうか。
通された部屋はかなり大きい。30人でも優に横になれそうだ。
上座に人が三人控えている。
正面の一人は白髪交じりの黒髪の男。40代ほどだろう。
明らかに堅気ではない雰囲気がする。具体的には血生臭い。
そして強面に乗っかる獣耳……ちょっと可愛いと思ってしまっては負けだろうか。
他の二人は護衛だろう。筋骨隆々で中々腕が立ちそうだが、僕を連れてきた男の方が格段に強い。
「お前が我が集落を訪れた人間か。まあ、座れ」
「失礼致します」
僕は正座をして居住まいを正し、この場のリーダー格の男に視線を向ける。
「ほお、我らの所作を存じていたか」
「ええ、手前味噌ですが。似たような文化圏で暮らしていましたので」
ちょっと対応が柔らかくなった。まあ、目は欠片も油断してないし怖いけど。
「俺は集落の長を務めるダンクロウだ。お前の隣に立つ男は愚息のハチクロだ」
あら、案内の人は長の息子さんだったの。
夜中に賊かもしれない人間に近付くなんて余程やんちゃなのね。あれだけ強ければ分からなくもないけど。
だけど運命様がデレを見せたのは分かる。初手で最高のカードを引いた。
「僕の名前は信也と申します。お見知りおきを」
「愚息に聞いたところ、武器を所望だとか。それも天竜を切る武器とは、穏やかではないな」
「僕としても天竜に挑むのは本意ではありませんが、命が掛かっていますから」
「ふむ……武器の代価は何を用意している」
「その前に天竜の鱗を切る武器はこの集落に存在していますか?」
「さあな。そもそも誰も天竜に挑んだことがない。切れるかどうかはお主で試してみるしかなかろう」
にやりっと笑う男に僕も笑顔を返す。
狐人族だけど、「狸めっ」という言葉を贈りたい。
「もっともなご意見ですね。では武器の質は代価次第だと考えてよろしいですか?」
「ああ、そう思ってもらって構わん」
向こうの胸三寸だが、果たしてどうだろうか。
「僕が提供できる代価は治療です。重篤な怪我、病の治療を代価として用意しています」
僕は男がどんな反応を返すか観察したが、あからさまな反応を返したのは目の前の男ではなく、僕の横に立つハチクロという男の方だった。
僕の顔を食い入るように見詰めてきた。
「……それはニアの宝珠では治療不可能な病や傷でも、治療できると考えていいのか」
ハチクロが割り込んで質問してくる。
え、そんなレベルの病とか怪我してる患者がいるの?
いや、よくよく考えればじんわり治るタイプの薬だから、部位欠損とか無理そうだったな。
まさかこの人たちの頭の中にある治療が必要な人って、既にニアの宝珠を使って完治できなかった人じゃないよね。
内心焦りながらも平静を崩さず目の前の男に答える。
「全ての病や怪我を治す手段があるわけではありません。まずは診察をして適切な手段を探します。絶対に治せるとはお約束できませんし、治すことが出来なかった場合、報酬を要求しません」
「……診せる位はいいか。大陸には無い人間の技術もある。……よし、ハチクロ、客人を案内しろ。俺も後で向かう」
僕は別の部屋に案内されながらハチクロを見る。
明らかに先ほどまでの印象とは違い、落ち着きがない。
長のダンクロウさんの態度もあるけど、これ不味いのではないだろうか。
ただでさえ人間嫌いの種族なのに、治せませんでしたとか言ったら首を切られそう。
「今から診察する人にはニアの宝珠を使ったことがあるの?」
「……ああ、妖精族の集落に直接赴いて手に入れた。間違いなくニアの宝珠だ。それでも治せなかった」
マジか。今から逃げたい。
実は偽物掴まされたとか……ないか。
態々集落に行ったんだ。
ルフリアさんが不誠実な対応するはずない。
僕の苦悩を他所に屋敷の中の奥の部屋までやってきた。
多分この辺りは家族の部屋だろう。
益々気が重くなる。
「アオイ、入るぞ」
ハチクロが返事も待たずに襖を開ける。
おい、名前的に女の人だろ。返事を待たないと駄目だぞ。
「お兄さま?朝早くにどうしたのですか?」
「ハチクロ様、乙女の寝所にズカズカと踏み入るなと毎回注意しているのに~~!」
暗い部屋の中にいたのは布団から体を起こしている少女。
そしてその少女に寄り添う少女がいた。
布団に起き上がっている少女の年齢は10歳くらいに見える。
黒髪で狐耳と尻尾。まだまだあどけない感じだ。
両目は何故か瞑っている。
もう一人の少女は髪が赤茶のきつね色で、気の強そうな吊り目をしている。
この子も同じく10歳くらいだろうか。布団の少女より背は高い。
「妹の部屋だから別にいいだろう、キリカ。それに今はそれどころではない。紹介したいものがいる、身支度をしてくれ」
「だから出て行ってくださいってばっ!そっちのあなたもっ!」
「すいません、今すぐ出ます。ほら、こっち来い」
ハチクロを引っ掴んで部屋を出て襖を閉める。
ハチクロは不服そうにむっつりとした顔で僕を睨みつけていた。
「何をする」
「もう少し女の子の言うことをちゃんと聞いた方がいいよ。手遅れになる前に」
僕はそれだけ言って静かに準備が終わるのを待った。
反抗期を迎えたときに取り返しがつかなくなっても知らないぞ。
それなりの時間を待って襖が内側から開く。
キリカと呼ばれた少女が「どうぞ」と許可を出してくれた。
中に入れば先ほどとは違いしっかりと和服を着こみ、布団は片付けられていた。
「おはようございます、お兄さま。そちらのお方は」
「ああ、こいつはお前の目を治すために連れてきた人間族の医者だ」
「え?ええ、此度はお招きに与りまして……って付き合わせるな。色々説明が足りてないのに合わせられないよ」
「早速、診察してくれ」
「こいつ……」
「えっと……仲がよろしい?のですね」
妹さんに気を遣わせちゃってるよ。
この兄貴はジト目を向けても気にもしていないし。
アオイさん、あんまり人間族という言葉に反応してないな。キリカさんは顔が強張っているけど。
「まず状況を整理させてほしい。治療が必要なのは目の前の女の子……アオイさんでいいのか?」
「そうだ。アオイは生まれつき目が見えない。それを見えるようにしてほしい」
目の病気。
それに生まれつきか。
「とりあえず問診からだね。アオイさん、突然のことだから戸惑っていると思うけど、これからいくつか質問するけど大丈夫?難しそうなら出直すから遠慮しなくてもいいからね」
「いえ、大丈夫です。お心遣い有難うございます」
アオイさんは戸惑いつつもしっかりと頷く。
……少し気になることもあるけど、症状とは関係ないから放置する。
「まずは………」
質問を繰り返して症状を確認していく。
紙とペンが久しぶりに出番だ。
視力はなし。
光が辛うじて感じられる。
目の前で指を動かしても分からない。
生まれてから視力に変化はない。良くも悪くもなっていない。
日常生活はキリカさんに手伝ってもらっているようで大きく不便はないようだ。
「目を見ても大丈夫かい?」
「……はい」
アオイさんは耐えるように眉を寄せて、ゆっくりと瞳を開く。
瞳の色は黒と茶色と白色のマーブル模様だった。
虹彩や瞳孔や眼球結膜が全て混ざり合って境界がない。
僕の知らない症状だ。
症状を知っていても現代医療は使えないけど。
「なるほど……ちょっとそのままで。違和感があったら遠慮なく言ってね」
僕は右手を前に出して、アオイさんの顔に向けて構える。
『テンマ、お願い』
『了解です!』
テンマが僕の手の平とアオイさんの顔の間に浮き上がり、両手を構える。
『癒えよっ』
癒し手と癒し呪う声の合わせ技。
僕らにしか見えない光がアオイさんの目を包む。
傍目からはノンエフェクトだから、何をしているか分からないだろう。
「なんだか暖かいです……心地よい感じがします」
「そうか。このまま続けるからジッとしていてね」
その後も手をかざし続けるが、アオイさんからは反応はない。
表情は柔らかくなっているが、それだけだ。
『……これ以上は癒し手で治っている感じがしません』
「アオイさん、目は見えているかい?」
「……いえ、体の調子は良くなったと思いますが、目の方は変わりません」
僕はテンマに離れてもらい、手を下した。
「どうなのだ、まさか失敗したのか!?」
僕はハチクロの質問に答えず腕を組んで目を瞑った。
どうしたものか。
癒し手と癒し呪う声のレベルが足りていなかったのか、そもそも盲目が癒しの範囲に該当していないのか。
盲目という状態が彼女にとって正常だと認識されているのか?
「おい、答えろ!」
症状を見る限り、ニアの宝珠を試して駄目だった理由は後者の可能性が大いにある。
僕は目を開けて、アオイさんを見た。
アオイさんが見せている表情は諦観だ。
期待していなかった、裏切られたとは思っていない。
ただ、申し訳なさそうな表情だった。
正直、僕はここに来るまで罪悪感で一杯だった。
自分の都合で誰かの治療を天秤にかけた。
治療の代価に武器を貰う。
武器がもらうために誰かの不調を期待するなんて、浅ましいにもほどがある。
「まさか……駄目だったのか」
ハチクロがこちらを見ていた。
アオイさんとは違う表情。
何度も何度も今と同じ苦しみを味わったのだろう。
僕だって兄だ。
妹がいる。
病気になったら何としても治したい。
何度でも何にでも縋り付く。
だから今の自分に、死にたくなるほど自己嫌悪してしまった。
僕は懐から包みを取り出し開いた。
最後の一つ。僕の命綱。
ポーション。
ルフリアさんの腐食毒は、ポーション一本で完治したため返却されていた。
天竜との戦いに必要だから、治らなければ無駄になるから、アオイさんに使わずに済めばなんて考えてしまった僕は、本当に救いようがない。
「アオイさん、薬を渡すから飲んでくれないか?」
「それは何だ」
「ニアの宝珠を凌ぐポーションという薬だよ。十全にその治癒力を発揮するには一本丸ごと消費しないといけない。これが最後の一本だから毒味はできない」
「そんな薬が……そうか、それが人間の大陸の薬か!」
「……それを飲めば私は治るのですか?」
「分からない。アオイさんの目の状態が、病ではない状態であった場合ポーションでも治せない可能性がある」
妖精族は心を読めるから信用してくれた。
ハチクロは思慮が薄いのか、妹を治すために焦っているのか、怪しげな薬なのに気にしていない。
だけど飲むのはアオイさんだ。
果たしてこんな怪しい人間の怪しい薬を飲んでくれるのだろうか。
「分かりました。えっと、どうすればよろしいでしょうか」
いいのか。
迷うことなく頷かれた。
これがさっきの違和感の正体か。
この子はどうでもいいのだ。
自分がどうなってもいいから素直に言うことを聞く。
恐れがない。治るということをそもそも信じてすらいない。
「僕が使用するから、少し顔や体に触れても大丈夫?」
「はい、宜しくお願いします」
「じゃあ顔に触るよ?少し顔を上げて口を開けて。少しずつ薬を流し込むから」
僕はアオイさんの頭を支えて口元にゆっくりとポーションを流す。
半分ほど飲み込んだ段階で口元から飲み口を離した。
「次に天井を向いて目を開けて。目に直接振りかけるから、我慢してね」
ちょっと怖いようで目に力が入って少し瞼が震えている。
僕は片眼ずつ、瞼を閉じないように抑えて、眼底まで届くようにポーションを流し込んだ。
大分怖いのか拳を握りしめて、結構震えているが、あんまり間を開けて効果が出なかったら嫌なので多少強引でも治療を進めていく。
キリカさんは尻尾を丸めて両手で顔を覆っている。
目薬とかなさそうだし、目にものを入れる行為は見かけ相当怖いだろう。
ハチクロは目を逸らしていない。
寧ろ目を血走らせ僕を睨みつけている。
いや、医療行為だからそんな怖い顔しないで。虐めてるわけじゃないから。
中身を全て使い果たして、後は変化を待つ。
……アオイさん、両目を手で押さえたまま動かない。
「えっと、その薬は即効性だから効果があるとしたら、もう出てる筈なんだけど……」
「アオイ様、大丈夫ですか?」
「アオイ?」
「…………っつ」
様子がおかしい。
申し訳ないと思いつつステータス閲覧を使った。
いや、医療行為だから初めから使っておけばよかった。
『アオイ 女 10歳
関係:他人 感情:警戒 状態:健康 精神:緊張
技能:気配察知LV6 索敵LV6 頑強LV5 武術LV1 気配遮断LV4 隠形LV4 獣の血脈(夜狐) 水晶眼
称号:なし
狐人族の集落の長の娘。
先天的に水晶眼を持ち、制御できない力が呪いに変じ、盲目となる→
呪いの解呪に成功しているが力の制御は出来ていない→』
盲目の正体は呪いだったのか。
というかこの子10歳なのに強すぎじゃない?才能の塊だよ。
目が見えるようになって才能を伸ばしたらかなり強くなる。
いや、今はそこではない。
治っていても制御できていないということは、また盲目に戻る可能性があるということか?
僕はアオイさんの手を強引に外し、その瞳を見た。
混ざり合ったマーブル模様ではなくなり、はっきりと虹彩と瞳孔に色が分かれているが、その瞳は青白い光を放っていた。
「ダメですっ、私の瞳を見ては!」
その瞳に僕は意識を集中させ、ステータス閲覧を使った。
『アオイの水晶眼
生命の力によって見たものを結晶に変える魔眼。
力の制御には生命のコントロールが必要となる→』
説明の続きを読む前に目に鋭い痛みが走り、露出した皮膚の表面がパリパリと固まっていく。
視界に入った服の一部が一瞬で透明な結晶になり、砕け散った。
慌ててアオイさんの目を手で覆った。
よくよく見ればアオイさんの掌も表面が結晶化している。
瞳の異変を感じ、自分で押さえていたのか。
結晶化に服と肉体で差がある。
生命を持っているかどうかで抵抗力が違っているのかもしれない。
物で視界を塞いでも、一瞬で透明にでもなったら目も当てられないな。
「ハチクロ、キリカさん、絶対にアオイさんの視界に入らないで!アオイさんの後ろに回って!」
「おい、どういう」
「いいから、今は言うことを聞けっ!」
『テンマ、水晶眼という力が暴走している。生命術を使う要領でアオイさんの瞳の生命の力をコントロールできる?』
『やってみるのです!主様も早く視界から離れてください』
「アオイさん、瞼は閉じられる?」
「す、すいません。自分では何も動かせません」
『駄目みたいだ、手を外したら周りに被害が広がる。多分コントロールできていないから、視界が広がったらアオイさんが生命を使い切ってしまうかもしれない』
『そんな、主様がっ!』
悲痛な顔をするテンマに僕は不敵に笑う。
『だからテンマ、頼む。僕はテンマなら出来ると信じてる』
『っつ、主様はズルいのです!そんなこと言われたら、わたくしは何でもやってやるのです!』
テンマが僕の手の甲に両手を重ねる。
『生命よ、正しき流れを。結晶化した体に癒しを!』
癒やし呪う声、癒し手、生命術を同時に使い、何重もの光の波が現れる。
「ぐっ、これは……きつい……」
結晶化する掌から、刺すような痛みが昇ってくる。
掌から腕へとまるで何百本も針が通されているかのようだ。
肉体の内部で拮抗した癒しと結晶化が、血管や細胞の再生と破壊を繰り返す。
僕の腕からブチブチと何とも痛ましい肉を食い破る音が響いていた。
「止めて、あ、あ、あなたの体が……」
透明な小さな石が掌からポロポロと落ちてくる。
結晶化した涙かな。綺麗なものだ。
『わたくしがさせない、わたくしが癒すっ。結晶化がなんぼのもんですか!』
僕の手の甲に置かれたテンマの手の光が、さらに光量を増す。
侵食していた結晶化の速度が鈍くなる。痛みが和らいでいく。
「アオイさん、君の瞳は生命の力を結晶に変える力に変えて、目から放出しているものだ。その力はコントロールできる」
「ですが、私にはなにも出来なくて」
「外側から来る力の流れを感じ取って。その力が君の力のコントロールを補助してくれる。焦らず、落ち着いて感じ取るんだ。それまで僕が結晶化を抑えるから」
「うっ……わ、わかりました。やってみます」
不快感と痛みに脂汗を流しながらその時を待った。
どれだけの時間が流れただろうか。
いつの間にか集落の長や他の狐人たちが部屋を訪れていたが、僕にそれを気にする余裕はない。
テンマは同時に僕への浸食を防ぎ、結晶化を癒し、生命のコントロールの補助をしている。
生命のコントロールの補助を最優先にしていれば、どうしても全てを完璧に熟せない。
『テンマ、僕はもういい、コントロールに集中してくれ』
『主様……分かりました、直ぐに終わらせますっ!』
癒しが途切れ、結晶の浸食速度が増す。痛みも同じく勢いを増し僕の体に襲い掛かって来る。
一気に血管を辿り、結晶が深く内側を侵食し、内臓辺りまで痛み出した。
脳や心臓まで届けば死ぬな、これ。
テンマが癒しを止めたのもあるが、さっきから結晶化の力が強くなっていた。
コントロールして抑えようとしているようだが、逆に威力が上昇している。
僕の体の至る所から結晶が皮膚を突き破って生えてきていた。
血だまりが畳にまで染みこみ、相当な量の血液が流れ出てしまっている。
これ以上は不味い。
『……なりました。もう大丈夫です、主様』
テンマが深く息を吐き、掌から漏れ出ていた僅かな光が止む。そして手の甲から肩に移動してきて僕の体に癒し手を発動させた。
アオイさんは僕の手を掴み、ゆっくりと頭を掌から離した。
その瞼は閉じている。
アオイさんは震えるようにゆっくりと目を開き、僕を見詰めた。
もうその目に青白い光は宿っていなかった。
「アオイさんの瞳は、黒曜石みたいに綺麗な瞳だね……。よかった……流石に、げんかい、だったん……だ」
やっぱり運命はツンデレだ。
ちょっとデレたと思ったら、すぐツンに戻ってしまう。
おまけにデレはちょっとなのに、ツンがドギツイ。
気が抜けてしまったのか僕は腰を落とし、手を伸ばした格好のまま意識を失った。




