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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 狐人族の守り刀
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第2話 絶縁の箱庭と絶望の頂



 目の前にそびえる山脈。

 その最も高き頂に、それは居た。

 離れていても感じる強大な力の波動。

 絶対的強者。

 人間など顧みない、巨大な体躯。



『べリエル 女 2191歳

 関係:敵対 感情:無関心 状態:健康 精神:退屈

 技能:竜鱗LV67 竜の息吹LV71 生命術LV56 精神術LV42 飛行LV86 風の理LV79 雷の理LV74 読心LV28 看破LV24 頑強LV43 生命強化LV76 精神強化LV44 再生LV78 竜眼 不老 無限の力 半霊半身 身体技能制限解除 感覚技能制限解除 特殊技能制限解除

 称号:箱庭の支配者 猛き原初の生命 終焉もたらす竜

 箱庭が生まれたその瞬間に誕生した原初の生命。

 支配者としての絶対的能力を有する竜へと変性した。

 変性によって箱庭の世界そのものの力を有する→

 知恵を有する竜の頭と、無限の力を有する核たる心臓部を分かつことで死を与えることが出来る。

 弱点たる首は体の中で最も硬い鱗に守られている→』



『主様、天竜に捕捉されているのです』

『ああ、僕でも感じるよ。いや、見えている』


 禍々しき黒き鱗を彩る赤い斑。

 冷たい死と迸る生命のエネルギーを持ち合わせている。

 飛行能力の高さ故か、巨大でありながらも鋭利で細い胴体や尻尾をしている。

 頭に生えた角も、後ろに鋭く伸びて空気抵抗が少なそうだ。

 折りたたまれた翼は広げれば天竜の全長より大きいだろう。

 しかし翼があるからと退化しているという事もなく、明らかに攻撃に用いるであろう強靭な腕と爪を持っていた。

 

 その天竜の黄金の瞳が、こちらに向いていた。


 体中に絡みつく圧力を伴う、理性と知性を感じさせる視線。

 まるでコンクリートの中に閉じ込められたかのような圧迫感。

 指一つ動かせない。呼吸ひとつできない。

 

 天竜は見つめること数十秒、瞳をゆっくりと閉じ、その首を大地に横たえた。

 圧力は緩み、呼吸を、手足を動かすことが許される。


『……あれに交渉を持ちかけることすら難しいね』

『それでも、わたくしは諦めません。主様を、守るのです。絶対に、守るのですっ』


 眩しい。その眩しさは僕の勇気になる。

 絶望を前にしても、諦めることなく、前を向かせてくれる。


『テンマ 女 0歳

 関係:守護者 感情:献身 状態:好調 精神:高揚

 技能:索敵LV9 罠探知LV9 看破LV9 暗視LV9 癒し手LV15 呪い手LV14 癒し呪う声LV12 生命術LV1 守護LV1 死生の羽根 双命の鎖 非観測存在 超成長 特殊技能制限解除

 称号:死と生を告げる凶鳥 守護する命を繋ぐもの

 神使によって作られた魂無き造物。

 憎しみの炎はその身を焼き、悲しみの涙は癒しの雨となる。

 目覚めし羽ばたきは生命を育み、風は死の呪いを振り撒く→

 主には癒しを、敵対者には呪いを与える。

 守るべき命の為に自らの命に楔を打つ。

 その命は最後の一滴まで主に捧げられる→』


 テンマの決意は成長となって現れる。

 絶望を越えようとその力を高め続ける。


 長年化け物と戦い続けた僕の経験と勘が冷静に告げている。

 どれだけテンマが力を高めようと、アレに勝つことは不可能だと。

 

 記憶にあるどの化け物より強い。

 種族としても地力が、内在する力が桁違いすぎる。

 鱗に傷を付けることが出来るかどうかのレベルだ。

 手持ちの短剣ではそれさえ無理だろう。

 

 せめて前世で持っていた刀が完全な状態で手元にあり、相手が止まった状態で首を差し出してくれたら、ほんのわずかだが勝機が見出せたかもしれない。

 あの刀には相手の力を無視して刃を通す、万物を切断する概念のようなものが宿っていた。

 それくらいの代物でなければ、戦いの最低限の条件すら満たせない。


『天竜の気が変わらない内に引き返そう』

『分かりましたです』




 夜まで歩き続け、天竜から十分な距離を取れたと思う。

 テンマと火を囲みながら方針を相談した。


『武器がいる。強力な武器、神様でも殺せる武器だ』

『神様を殺せる武器なんてあるのですか?』

『願望だよ。あったらいいなあって。それくらいの武器が手に入らないと勝てないだろうね』


 天竜を目の当たりにしたからだろうか、変なことを口走ったな。

 僕は手に持った枝を暗闇に向けて振るった。

 何の意味のない行為だ。

 倒せないまでも、力を示すためには今のままでは駄目だ。

 相手が弱者の話を全く聞かないのなら、交渉の舞台にすら立てない。

 

『一応、ルフリアさんの地図には熱心に武器を造る種族のいる場所も書いてある。狐人族といって、例のごとく人間大嫌いらしい』

『……また主様が襲われたら、わたくし我慢しないのです』


 テンマが火を眺めながらボソリと呟く。

 火を見詰める瞳のハイライトが消え失せていて怖い。

 ご機嫌をとるためテンマを招き寄せて膝の上に乗せ、指の裏で髪を梳く。


『無茶はしないさ。今度は二人一緒だから大丈夫だよ』

『ふみゅ~、分かっていますです。わたくしがしっかりお守りするのです』

 

 天竜のステータスは確認できた。

 弱点も分かった。あれを弱点と言っていいのか疑問が残るけど。


 これからは多少危険を冒してでも、他種族と交流をして拠点探しと戦いの準備を進める必要がある。

 僕は狐人族の集落へ向かうことを決めた。




 天竜の住処から歩くこと7日の道のり。

 自然は無くなり、岩ばかり目立つ地域にやってきていた。

 食料が減り、特に水が心もとない。


 拠点は道中3つ見つけた。

 崩れた遺跡のような場所にあり、そのどれもがベリエルの所有物だった。

 恐らくかつての人間が築いた文明の後だろう。

 拠点が使えれば周辺環境を管理できる。そこに都市を築くのは自明の理だ。

 

『お水、お水、お水……』


 テンマは僕の肩に乗って技能の練習をしている。

 新たに得た生命術という技能だ。

 テンマの感覚では生命の力を消費して別の力に作り替える技能らしい。

 僕と違ってテンマは大分ファンタジーに染まっている。

 いや、僕のステータス閲覧も十分ファンタジーだけど、如何せん地味だ。

 

『お水っ!』


 テンマが強く念じると同時に水柱が出現する。僕の目の前に。

 長寿の屋久杉を思わせる太さと高さだ。

 いや、ちょっとでかすぎ……。

 水柱はほんの少しその形を維持したが、重力に従って落ちてくる。


 ああ、これから起きることを僕は知っている。

 ミルククラウンという奴だ。

 僕は王冠状に弾けた水の水圧でぶっ飛ばされてずぶ濡れになった。



 サックが防水性だったので荷物は無事だったが、僕の服はずぶ濡れだった。

 今日はまだ日が高いが、早めに火を起こして服を乾かす。


「くしゅんっ」

『ごめんなさいです、主様……』


 地面に沈み込みそうなほど落ち込んで、正座で項垂れている。


『別にいいよ、肌寒いけど体の埃も落とせてすっきりしたし。それより凄いよ、テンマは立派な生命術使いだね。いや~大きな水柱だったな』

『え、そ、そうですか?えへへ~、それほどでもあるのです』


 素直可愛い。

 羽をパタパタ動かして照れている。


『生命術の練習は僕の周りではしない方が良さそうだね。流石に僕の世界の人が見てるから』

『ハイなのです。気を付けるのです』


 今回の件は箱庭の異常気象と誤解してほしい。

 そういえばテンマが出した水は飲めるだろうか。


『生命術の水


 生命より生まれた水。飲用可能』


 ステータス閲覧では飲めそうだけど、ちょっと怪しい。

 不純物の無い純水の可能性もあるし、少しずつ飲んでみて確かめるしかないか。

 

『生命術を使って疲れてない?』

『全然大丈夫ですよ。うーん、もっと使ってみないと疲れるかどうか、よく分からないのです』


 あれだけ大量の水を一度に出していたのに、テンマはケロッとしている。

 生命術は意外と燃費がいいのだろうか。それともテンマの生命力が凄いのか。

 

 服を乾くころには夜になってしまい、ここでそのまま野営することにした。

 二つある水筒の内、一つの水筒にはテンマの水を入れている。

 飲んでみたが、味は普通の水だった。のど越しの良い軟水だな。

 

『さて、そろそろ狐人族の集落の近くだし、いつ遭遇してもおかしくない』

『索敵で常に周囲を警戒しているのです。今のところそれらしい気配はありません』

『できれば敵対したくないけ…』


 体を反転させて腰の短剣に手を掛ける。

 直ぐに動けるように足に力を込めた。


『ど、どうしたのですか、主様!』

『……分からない。視線を感じる』


 テンマの索敵の範囲外からか?テンマの索敵の技能は高い。

 だが孤独の迷宮の時とは違い、技能の制限は超えていない。

 既に箱庭で驚異の技能レベルを誇るルフリアさんという存在を知っている。

 もしそれに準じたレベルの気配を遮断する技能を持つ存在がいた場合、接近を許すことになる。

 

『む~~~気配はないですけど、あちらに何か違和感を感じます』


 テンマの指差す方角は僕が視線を感じた方向だ。

 足元の石を拾い、適当に投げる。

 カーンと岩に当たって跳ね返った。


「そこにいるのは誰だ。気配を消して近付くなら、敵意ありとして対処するぞ!」


 声を上げれば岩に反響して大きく響いた。

 反響が止み、シンと音が途切れる。出てくる気がないのか。


「……いいだろう」


 視線の先、闇の中から影が浮かび上がる。

 真っ黒な外套に包まれた男が現れる。

 長身痩躯。黒髪に黒い狐耳。尻尾は隠れているのか見えない。

 話に聞いた狐人族の特徴と一致する。

 腰の位置から細い何かが伸びていた。恐らく武器だろう。


「僕に何か用か」

「ここは狐人族の集落に近い。お前は何故ここにいる。何処の集落の者だ」

「どこの集落でもない。訳あってこの大陸に流れてきた。妖精族の集落で世話になっていた」


 僕は首飾りを外して男の方へ投げた。

 彼はそれを確認して投げ返す。


「種族は?」


「人間だ……っつ!」


 銀の一閃が瞬き、咄嗟に逆手で短剣を抜き初撃を防いだ。

 暗闇に火花が散る。

 一瞬で間合いを詰めてきた。技術というより身体能力の力だ。人間より遥かに優れている。


「……自殺志願者か、貴様は。この大陸に人間が訪れるなどと」


 鈍色の反り返った刃を構え、完全に殺気立っている。

 男が手に持つ物は、日本刀と酷似していた。

 さっきの一撃は峰打ちだった。

 外套の下には着物が覗いている。

 どうして箱庭に日本の文化を匂わせるものがあるのか。

 

「話を聞いてほしい。僕は人間だけど、この世界の人間じゃない。その証拠に僕は妖精族と友好を結ぶことが出来た」


 僕はさっき投げ返された首飾りをかざす。

 

「………」

「僕はある試練に挑むためにこの大陸にやってきた。僕が狐人族の集落を訪れたのは試練に臨む為の武器を手に入れるためだ」


 男はジッと構えを解かずこちらを見詰める。僕も男から目を逸らさない。

 テンマは僕から離れた位置でいつでも呪いを放てる準備をしている。

 強い怒気が漏れ出ているため、相当強力なものをお見舞いしそうだ。

 

「ふん、妖精族と友誼があることは認めよう。それは長の印章が刻まれている。ただの人間が手に入れることが出来るものではない」


 男が殺気を霧散させて構えを解いた。

 僕はそれを確認して短剣を鞘に納める。


「だがお前を集落に入れるかどうかは別問題だ。我々にとって不利益しかない。去れ」

「そうか……やっぱり駄目か」


 僕はため息を吐いて男から視線を逸らした。

 

 ……攻撃はしてこない。

 一応大丈夫そうか。ルグランが脳筋だっただけだな。


「最後に一つだけ聞いていいか?」

「なんだ」

「僕は武器が欲しい。代価は用意してある。別に集落に入れなくてもいいから、君が手に入れてきてくれないか?」

「……何故俺がそんなことをしなくてはいけない」

「君たち狐人族は何も悪いことをしていない一般人に刃を向けてきて、お願いの一つも聞いてくれないのか?妖精族たちと違って、とんだ蛮族だ」


 男は静かに刀の握りを変えた。

 今度は峰打ちでは済まない、殺意高いね。

 でも安心してほしい、妖精族のファーストコンタクトはまごうことなき蛮族だったから。

 君は100倍理性的だ。


「狐人族を愚弄するのか。その大言壮語、高くつくぞ」

「その言葉はなってないな。僕は泰然自若なだけさ」


 膨らむ敵意に僕は構えず自然体のまま棒立ちしている。

 ここまで隙だらけだと、罠を警戒するだろう。そんなものはない。


「……何が狙いだ」

「初めから言っている。僕は武器が欲しい。とびきり強力な、天竜ベリエルの鱗さえ切り裂く武器だ」

「……なに?」

「僕の試練はあいつに挑むこと。手持ちの武器がこれじゃあ、戦いにすらならない」


 マントの上から短剣を叩く。


「不可能だ。武器があろうとなかろうと。天竜に挑むとはそのような次元の話ではない」

「ああ、そうだね。だけど不可能だからと挑まない理由はない。勝てないからと勝負にでない理由はない。馬鹿でも愚かでも、自分の選んだ運命なら、抗うのが僕の在り方だ」


 僕の言葉に目を見開き、刀を下した。

 男の目は「こいつ何を言っているんだ」と混乱を露わにしていた。

 でしょうね。天竜を目視した人間なら誰でも思う。

 同時に運命に抗うと言ったときは、少し反応が違っていた。熱を感じさせる目を一瞬見せた。

 

 

 それから幾つか言葉を交わした後、男は僕の前から消えた。

 一応集落に戻って交渉の準備をしてくれるそうだ。

 なんとか剣を交えることなくファーストコンタクトに成功した。

 初撃はノーカンで。


『あ~怖かった。僕に強気な態度は似合わないね』

『主様ワイルドだったのです。あいつはビビってたのです』

『ビビってないよ。あれは困惑だろうね』


 天竜ベリエルと戦うなんて、大いに頭を疑われただろう。

 混乱しているうちに約束を取り付けて放り出した。


 なんで僕があんな態度や雰囲気を出したかと言えば、咄嗟の機転だ。

 完全にこちらを信用していない狐人族に、なよってした人間が竜に挑むから武器をくれなど通らないと考えた。

 敵を前にしても余裕を持ち、抜身の刀を前に構えもせず不敵に振舞う。

 さぞ胆が据わって見えただろう。

 それでも竜に挑むなんて言ったら正気を疑われるだろうけど、バッグボーンにはなる。

 

 あとは用意した「代価」がお眼鏡に叶うかどうか。


 代価が真に威力を発揮するには特定の状況が必要になる。

 こればっかりは運を天に任せるしかない。

 今までツンツンだったから、運命様はそろそろデレてくれてもいいよ。

 天竜の鱗を切り裂く武器が存在するのかどうかも含めて、本当に運任せだ。


 期待と不安を抱えながら、その日の夜は更けっていった。








『カバーストーリー:技能 生命術』



 生命の力を自然現象に変えて操るノーマル特殊技能。

 イメージや言葉など、使用者が任意で発動条件を決めることができ、術の自由度は高い。

 生命力を変換する関係上、使用するには体力を必要とし体を鍛えていない者では、直ぐにガス欠を起こす。

 習得難度の高い技能の一つ。人族が先天的にこの技能を発現するのは困難であり、後天的なキッカケによって目覚めることが大半である。

 種族や個体差によって、一つの属性のみ生命術を発現する場合もある。


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