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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 狐人族の守り刀
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第1話 絶縁の箱庭と二人旅



 現在、僕とテンマは天竜ベリエルの住処に向けて歩みを進めている。


『わたくしたちの冒険は~今~始まるのです~』


 妖精族の集落を出てから2時間ほど経っただろうか。特に危険はなく旅路は順調だ。


『丘を越えて~山を越えて~海を越えて~』


 テンマの歌を聞きながら、森を歩く。

 明るく、小鳥のさえずりのように弾む声に気持ちが癒される。

 僕だけにしか聞こえないのが勿体なくらいだ。


『空を越えて~月を越えて~星を越えて~』


 ……どこまで行っちゃうんだろう。


『でも丘に戻ってきて~』


 戻ってきちゃった。和む。



 テンマは旅の彩を飾るために歌っているわけではない。

 これも技能レベルアップの一環だ。


 「癒し呪う声」相反する二つの特性を持つ技能。

 テンマの声は僕に対して癒しをもたらす。

 2時間歩き詰めなのに疲れは全くない。元気ビンビンである。


 呪う、という行為については不明だが、使う相手がいないので分からない。

 癒しの側面だけでも技能はレベルアップするので問題はない。

 ステータスが一体どれほど伸びるのか楽しみである。

 でももう少しステータス閲覧さんに頑張ってもらいたい。

 死生の羽根とかよく分からないし、テンマも使い方とイマイチ理解できていなかった。

「なんとなくですが、必要なタイミングが来たら発動しそうな気がするのです」とは言っている。

 称号も何かしら効果がありそうな気がするんだよね。

 

『そういえば、テンマはやたらとルフリアさんのこと気にしてなかった?理由でもあるの?』

『ルフリアさんですか?うーん、わたくしの勘ですが、わたくしのアイデンティティーがクライシスする気がしたのです』

『テンマと被るってこと?そんな要素あったかな……』


 テンマとルフリアさん……存在意義と役割。

 いや、掠りもしてない。

 どっちも信じられないくらいの美人という接点はあるけど、そこではないだろう。


『テンマはルフリアさんが自己評価が低いというか、明らかに僕に対して自己犠牲みたいな行動を取ろうとしてきた意味が分かる?』

『それこそがわたくしのアイデンティティーなのです!わたくしと、取って代わろうとしていたのです!そんなの許さないのです!』


 え、テンマさん興奮していらっしゃる。

 何処にそんなポイントがあったんだろう。

 しかもあのルブランに見せた怒りにも似た興奮具合だ。


『主様に仕えるのはわたくしだけなのです!誰にも渡さないのです!主様もこれ以上増やしたら、メッなのです!』

『心配しなくても増やさないよ。僕にはテンマだけだし、テンマがいるだけで満足だから。僕たちは……最強だ!』

『いえぃ!わたくしたち、最強!!よそ者に出る幕はないのです!』


 フンフンと鼻息を荒く吐きながら腕を振り上げるテンマ。

 よかった、機嫌が直ったようだ。


 ちょっとよく分からないテンマの自己主張を微笑ましく思いつつ、ルフリアさんに書いてもらった地図で道を確認した。

 とても見やすい地図だ。彼女は有能だな。

 そんな僕をテンマはジト目で見詰めていた。



 夜が近くなり、適当な場所で野営地を作る。

 乾燥した枝を集め、着火器具で種火を作って火を起こす。

 テント、寝袋、シート、着火器具、それを入れる大きめのサックなどは妖精族の集落で都合してもらえた。

 本当に妖精族の人たちには感謝だ。

 

 よく考えたら最初の僕の装備だけで30日過ごすのは中々にハードだった。

 ルーヴィさんからも保存の効く上に、味のいい食料を用意してもらえた。

 農地の無い集落は森の果物以外、あまり食料が豊かではなさそうだったのに。


 森を切り開くのも拠点の管理メニューとやらが関わっていて、設定を弄らないと森を切り開いてもあっという間に元に戻ってしまうそうだ。


 天竜ベリエルは管理なんて知ったことではないとばかりにほったらかし。

 最後の人間が設定したままの管理状態をずっと維持され続けている。

 僕が天竜ベリエルを倒せば、妖精族に拠点を渡すことが出来る。

 夢物語ではあることは分かっているけど、何か返せるとしたらこれくらいだ。

 

 森の果物を乾燥させたドライフルーツと、硬く焼いたパンのようなものを遠火で炙りながら食べる。

 テンマにもドライフルーツを少しずつ渡した。

 今口にしているのはアープの実だ。


『甘酸っぱくて美味しいのです』

『うん。ちゃんと加工すれば美味しいね。やっぱり生で食べるものじゃなかったのか』


 乾燥しているから噛み応えがあって、酸味と甘みのバランスが絶妙だ。


『アープの実(加工品) 


 モラスティア大陸の固有種(果実)。

 ビタミンが豊富で酸味の強い味がする果物。

 灰汁を抜き天日干ししたことで毒素が抜け、甘みが凝縮されている』


 僕はテンマに夜の見張りを頼んで早々に眠りについた。




 次の日も移動を続ける。

 まだまだ天竜の元に辿り着くには距離がある。

 ただ物臭の地図が埋まっていくのは結構楽しい。


『わたくしたちを乗せて~お船は飛んで行く~』


 ルフリアさんの地図によれば急げば、今日のうちに森を越えられるそうだ。


『どこどこ行こうと~お空の海を~飛んで行く~』


 森を抜けた先の平原は草食動物が多くいるらしい。

 狼人族という種族がいて親交はあるが、妖精族同様に人間に対して強い敵意があるため集落には近付かないように注意を受けた。


『ああ~でも、この船は一人乗り~重量制限で落ちちゃうのです~』


 急に現実的な設定が出てきた。


『わたくしは飛んでいるから大丈夫~一人乗りでも問題な~い~』


 そもそもテンマの体重は軽すぎて重量はゼロに等しいのでは?




 今日も良く歩き、森を抜け平原までやってこられた。


 道中テンマは呪いの練習を行い、虫やら動物に様々な呪いをかけた。

 呪い手の力はどうやら状態異常を与える力のようだ。

 虫程度ならどんな呪いでも通るが、大型動物には効き目が悪い。

 

 しかし回数を重ねるごとに呪い手のレベルがアップし、大型動物に呪いを行使できるまでになっている。

 衆人環視があるため、あからさまに状態の変わるほどの呪いをかけるわけには行かないので、腹痛や眠り程度に止めている。


 僕も道中はステータス閲覧を兎に角使い倒した。

 この技能は使っても疲れたりしないが、色々頭に情報を詰め込むから脳の疲労感はある。

 レベルが上がればステータス閲覧の情報量が上がるだろう。

 テンマの力を見極められるし、天竜のステータスをより知ることが出来る。天竜攻略の可能性が上がる。


 大穴で僕の謎の技能、固有領域改変と謎の称号、死の運命を超えるものに秘めたる力が、あったらいいなあ……。


 夜になり、いつものように就寝支度をする。

 テンマは火に向けて呪い手を使いながら唸っている。

 火に呪いが通じるのだろうか。

 一生懸命に努力するテンマに僕は質問を投げた。

 

『テンマは怖くないのかな、天竜と戦うこと』

『わたくしと主様は最強!ですので天竜は怖くないのです』


 テンマは火にかざしていた手を戻し、僕の隣に飛んでくる。


『怖いのは天竜ではないのです。主様が死んじゃうことなのです』


 頬に寄り添うようにそっと肩に降りる。


『わたくしはこの身が壊れようと、次の試練には蘇るのです。でも主様の命は一つしかないのです。それは絶対に失ってはならないものなのです』


 夜の中、火の明かりに包まれるテンマは、いつもと少しだけ雰囲気が違っていた。

 いつもは幼い言動だけど、それが僅かずつだが大人びた容姿に近付いている。


『だから、わたくしはそれだけが怖いのです。わたくしは干からびるまで泣いちゃうのです』 


 テンマの心はまやかしではなくなり、成長しているのだろうか。

 孤独の迷宮で過ごした時間より、ずっと長い時間を共に過ごしてきた。

 今の彼女は、あの日の彼女を追い越したのだろうか。

 僕は頭を振り、頭の中にあった考えを散らした。


『なら、生き残らないとね。テンマに泣かれたくない』

『ハイなのです!わたくしが主様を守りますです。きっと大丈夫なのです』


 彼女と二人なら、本当に生き残れるような気がしてくる。

 困難を、それこそ天竜を倒すことが出来るのではないかと、希望を抱いてしまう。



 二人旅を始めて6日目の昼。

 僕は天竜ベリエルを見た。

 超えるべき絶望の高さを目の当たりにした。










『カバーストーリー:技能 癒し呪う声』



 癒しと呪いに特化した言霊を操るノーマル特殊技能。

 発声によって対象を癒しも呪いもする技能。

 使用には精神を消耗する。基本的に効果が薄いため消費は低い。

 しかし鍛え抜けば多くの命を助け、逆に多くに死をもたらすことが出来るほど恐ろしい技能となる。


 この技能単体でも癒しと呪いを起こす効果を持つが、当然対象に聞こえていなければ意味はない。

 聞かせられない場合でも、同系統の技能と併用することでその技能を増幅する効果は得られる。

 癒しの際は対象を心地よくする声、呪いの際は対象を恐怖や威圧する声を出すことで効果が高くなる。


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