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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 妖精族の集落
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第7話 絶縁の箱庭と名もなき悪意



 ルフリアさんが快復した夕方には、妖精族の集落の広場で火を囲んで宴が催されていた。

 メインは鉄塊猪でそこら中に肉の焼けるいい匂いが漂っている。


 あれから僕も怪我が完治し、ルフリアさんの病気を治した功労者として同席させてもらっている。

 目の前に焼き立ての串焼きが並び、僕はそれを手に取って拳大の肉の塊にかぶりつく。

 肉は柔らかく簡単に歯で噛み千切れる。

 味付けは岩塩だけだが、口の中に濃厚な旨味が駆け抜け、甘みのある油が舌の上に溶け出す。

 

「うまっ、うまっ、うまっ!」


 もう人間の言語を忘れたかのように「うまっ!」を連呼しながら串焼きをやっつけていく。

 テンマも皿の上の巨大な肉に噛り付いて『うまっ!』を連呼している。


「シンヤ君、美味しい?」


 ルーヴィさんの言葉に口の中いっぱいの肉を咀嚼しながらうなずく。


「あのスープより美味しいです!僕の中の美味しいものリストの1位を抜きましたね」

「……今日はたくさん食べましょう。他にも美味しいものがあるから。私、料理とってくるわね」


 なんか痛ましそうな顔された。

 いや、試練の中で食べた料理という括りでの発言だったんだけど。


「おい、ちゃんと食ってるか、シンヤっ!ちっこいんだから肉を食え、肉を」

「え、急にどうしたの……ムカつくくらい馴れ馴れしい」


 ルーヴィさんが去った後に入れ替わるようにルグランがやってきて肩を組んできた。

 というかこの人、酒臭っ。

 酔ってるのか。

 片手に木でできたジョッキを持っていて黄色い液体が並々と入っていた。柑橘系のいい匂いがする。


「ああ、ここのところは辛気臭かったが、今日は最高だな。長は治り、狩りで極上の獲物にもありつけた」

「はいはい、良かったね。モグモグ」

「まあ、礼を言わんこともない」

「はいはい、どうもどうも。モシャモシャ」

「なんだその態度は、俺が礼を言っているんだぞっ!食うのを一旦止めろっ」


 こっちの肩を掴んでガクガクと揺さぶってくる。

 お前が食えと言ったのだろうが。


「あんた、また絡んで。いい加減にしなさいよ……」


 ルーヴィさんが色々と取り分けられた料理を大きな葉っぱの上に乗せて帰ってきた。

 少しずつ盛られていて、肉料理の他に、煮豆や葉物や平たいパンみたいなものや、カブトムシの幼虫みたいなものもあった。


 幼虫は懐かしい。

 前世でも食べていなかったから、最後に食べたのはかなり前だ。

 当たり外れはあるけど、これは当たりの気がする。

 僕は幼虫を口に入れて噛み締めた。

 酸味のあるクリーミーな味わいと、味付けなのかスパイシーな風味がする。

 串焼きを口に放り込んで一緒に味わえば、何とも言えないマリアージュを奏でる。

 メッチャ旨い。


「あら、人間族は虫料理を食べないって聞いてたけど、美味しそうに食べるのね」

「そうですね。僕の国でもそこは同じですけど、食べ物がないときは虫を食べて飢えを凌いでいました。いつも生で丸かじりだったので、こんなにちゃんと調理されている虫は初めてです。美味しいです」

「……そっか」


 ルーヴィさんが持ってきたものを遠慮なく摘まみながら適当に話をする。

 楽しくて個人的なこと喋りすぎた気がするけど、まあ別の世界の人間と言っているから問題ないだろう。

 途中僕の周りに大人たちがやってきて軽く挨拶や話をしていったが、その印象は概ね悪くなく、最低限受け入れられているようには思えた。



 少し食休みをしていると、例の僕に色々と謎の言葉をくれた二人の子どももやってきたが、何故が僕にくっ付いて膝の上で寝始めてしまった。

 髪の長いのがルカ、髪の短い子がルリという。

 顔が似ていないので家族ではないようだ。性別はいまだ分からない。

 大人たちはその様子を見て驚き、どこか僕を見る目が柔らかくなったように感じる。


「そういえばこの子たちをどうして僕の前に連れてきたんだ?あれから待遇が変わったけど」


 僕が質問するとルグランがばつの悪そうな顔をしたが、観念するように口を開いた。


「この二人は精神を同調させることで、人の内面、それこそ本人でも認識できない深い心の内を見ることが出来る。俺やルーヴィも心は読めるがそこまでではない。お前がこちらに本当に害意がないか確認する必要があった」

「ごめんなさい、シンヤ君。無断でそんなことをしてしまって。気味が悪かったわよね」

「いえ、それで納得してもらえたのなら問題ないです。その御蔭で自由の身になれたので。二人ともありがとうね」


 撫でているとくすぐったそうにむずがる。

 よいではないか、よいではないか。


「「「…………」」」


 何か注目されている。周りから視線を感じる。

 ルフリアさんからもチラチラと遠くからこちらを窺ってくるが、近付いてこないようだ。


「まあ、あれだ。そういう事情があってお前の言葉を信じることにしたわけだ。しかし転移やら試練やらは未だに理解が及ばん」

「あ、それについて言わないといけないことがあった。今の僕は僕の世界の人に見られているから、そういう認識を持っておいてほしいんだ」

「はあ?見られているとはどういうことだ。まさか人間たちが近くにいるのか!」


 ルグランに胸ぐらを掴まれ、体を持ち上げられた。

 子どもたちは僕の膝から転がり落ちてびっくりしている。


「違うから!別の世界の人間が、僕の周辺を見ているだけ。見ることしかできないし、その人間がこちらに来ることもないから」


 妖精族の人たちがざわつくので慌てて訂正した。


「嘘は言っていないようだが、そんなことがあり得るのか?」

「言葉以上の説明が難しいなあ。……そう言えば」


 すっかり忘れていた。確かコメント機能が追加されていたんだった。

 この場で見せて会話してもらえれば納得してもらえるかも。

 僕は手を操作して半透明の板を出現させる。


「うおっ!なんだこれは!どうなっているんだ、文字が並んだ板が出てきたぞ!」


 胸ぐら掴んだまま揺らさないで。

 僕はつま先立ちのまま何とかステータスを操作する。

 

「これから向こうの人たちとやり取りするから、この板を見てて。僕を見ている人がいたら、向こうの世界の人たちの言葉が出てくるから」


『コメント表示機能を使用しますか

 ON OFF』


 僕がONをタップすると少し大きめの半透明の板が出現し、コメントが流れ出す。

 だがその速度が無茶苦茶早い。

 もしかして結構な人が見てくれているのだろうか。

 妖精族は美男美女揃いだし、宴会となれば撮れ高が高いのかもしれない。

 ルフリアさんも興味があるのかひょっこりと覗き見ていた。



 コメント

 ・死ね

 ・消えろ

 ・映り込んで来てるんじゃねえよ

 ・ぶっ殺してやる

 ・どんな気持ちでそこにいるんだよ

 ・今更なんだよ頭どうかしてるだろ。サイコパスかよ

 ・死ね、死ね、死ね、死ね

 ・クソ野郎が

 ・コメントちょっと待て!

 ・しねしねしねしねしねしね      

 ・絶対に許さない

 ・消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ

 ・全員止めろ!コメント打つな!

 ・ぶっ殺す、生まれてきたこと後悔させていやる

 ・よくも、よくも、よくも

 ・許さない

 ・土下座して地面に這いつくばれよ

      ・

      ・

      ・



 すごいスピードで書かれる罵詈雑言。

 明らかにアウトなコメントもあるのに普通に流れている。

 悪意ある言葉は同一人物ではない。

 しっかりとアカウント名まで映っている。

 本物の配信と同じ仕組みの様だ。

 少なくとも今流れているコメントのほとんどは異なる人が打ったものだ。

 それだけの人に僕は反感を買い、罵倒されている。

 僕は200件ほど流れたところで、コメント機能をOFFにした。これでは会話どころではない。

 半透明の板が消え、あたりがシンと静まり返っていた。

 ルグランも僕の胸倉から手を放して困惑していた。

 

「これが、僕がいろんな人から見られている証拠です。見られるのは自分の意志でOFFに出来ないので、そこはすいません」

「い、今のは……あんなにも悪意をぶつけられて……」


 ルーヴィさんが顔を青くしながら震えている。

 そうか、文字にすら心を感じ取ってしまうのか。

 だからみんな黙ってしまっているんだ。

 それにどういう原理か分からないが、こちらの言語も理解できているみたい。


「えっと、そうですね。試練では人類の衰退と繁栄がかかったもので、僕は今回碌に成果もないまま怪我したりしたから、その人たちの期待に沿えていなかったみたいです。それなのに皆さんと楽しく食事を囲んでいたから、ちょっと腹が立ってしまったんでしょうね」


「6万人参加してるから、一人くらい駄目人間がいても大目に見てくれてもいいのに、あはははっ」


 何でもないように笑っても誰も笑ってくれない。

 このままここにいたらきっと雰囲気は悪くなる一方だろう。折角のお祝いにそれは良くない。

 

「僕はお腹一杯になりましたから、少し席を外します。あちらにいるので、片付けするときは呼んでください」


 返事を聞く前にさっさと退散する。

 いたたまれないこと、レジ打ちでもたついている列に並ぶ客の如し。

 目の前で苛立っている人がいる心境だ。自分が急かしているわけでもないのに無性に居心地悪くなるやつ。

 

 森の暗がりで木々の隙間から、一人星を見上げた。

 宴の炎の灯が遠くで輝いている。

 少し肌寒い。マントでも持ってくればよかった。

 体操座りで体温を逃がさないようにする。


『主様……』

『何かな』


 目の前にフワフワと浮き上がっているテンマが、言葉を探すように眉を寄せている。


『えっと、あんな言葉は気にしては駄目なのです!主様の素晴らしさが分かってないのです!一度でも主様とお話すれば一発なのです!』

『何が一発か分からないけど、有り難う。テンマと話すだけでさっきのことなんてどうでもよくなるよ。でも僕が気にしてるのは僕のことじゃないんだ』


 テンマは不思議そうに首を傾げる。

 次の瞬間、僕の背後に視線を向け、警戒感を露わにした。

 

『誰か来ます。子どもが二人の様です』


「大丈夫?」

「痛くない?」


 こちらに顔を出したのは、さっきまで膝の上で寝ていたルカとルリだった。


「大丈夫だし痛くないよ。僕は割と頑丈なんだ」


 そう言って笑えば、二人は僕にくっ付いてきて囲むように座った。

 子どもの体温は高くて、この夜には心地よい。

 二人はじっと僕を見つめて口を開く。


「あなたは大きな愛を持っていた人」

「あなたは愛を見失った人」


「他者の悪意を許容する人」

「他者の悪意に慣れすぎてしまった人」


「こらこら、勝手に覗いちゃ駄目だよ」


 また何か始まりそうだったので中断させる。

 どうにも制御が甘いようだ。子どもだからなのか、強力過ぎて制御ができないのか。


「「ごめんなさい……」」

「謝れたのなら、ヨシ!」


 そういいつつギュッと二人の肩を抱き寄せる。

 別に怒ってはいない。

 よく分からないことを言われて混乱はさせられるけど。

 

「暖かくて安心する」

「清くて気持ちいい」


「うーん褒められている、のかな。暖房器具か空気清浄機みたいな扱いだけど」

「「?」」

「何でもないよ。何でもない」


 中身のない会話をポツポツと繰り返して夜は更けっていった。

 本格的に子どもたちが寝入りだしたので、僕もそのタイミングで宴の席に戻り、子どもたちの親に彼らを引き渡した。

 

 何人か声を掛けようか迷っている人はいたけど、僕は気付かないふりをして部屋に戻った。

 怪我が治った以上、事前に言われていた通り、僕がここにいる理由はもうない。


 情報収集が終わり次第、集落を離れることを決めた。









『カバーストーリー:技能 読心』



 知的生命の思考を読むことが出来るノーマル特殊技能。

 LVが上がることで心を読む深度をコントロール出来るようになるが、完全に己の技能を無効化することは出来ない。

 もっとも弱い読心は嘘の判別だが、心を読むことを意識していない場合、思考の表層しか読めない。

 そのため対象が誤認させるように嘘を真実として思い浮かべた場合、嘘が真として判別される。

 

 意図して心を深く読もうとするほど、精神を消費する。

 強大な精神を持つ場合、本人すら知り得ない心の底を覗き見ることも可能。


 また、この技能はLV以上に種族値、個人差が大きく技能の能力に影響する。

 妖精族として生まれた者は、全員この技能を持つ。


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