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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 妖精族の集落
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第4話 絶縁の箱庭と憎しみの成長曲線



『う、うっ……わたくしは……朝、見つけたときに……棒を持った男が……あるじさまがボロボロで……わたくし動けなくなって……あるじさまを見ていることしかできなくて…ひっく……』

『そうか……昨日の朝か…』


 僕が殴られ続けている場面でなくてよかったが、状況は一目で察したらしい。

 だけどテンマは僕が気付くまで、ずっと声を掛けることが出来ずに見守ることしか出来なかった。

 彼女は目覚めたばかりで心が育っていない。いきなりこんな状況に置かれて、どうしていいのか分からなかったのだろう。

 僕も怪我と治療のお陰で目も鼻も効かなかったから、見付けてあげることが出来なかった。

 

『わたくしが余計なことを言わなければ……あるじさまの元を離れな…ければ…はなれな、ければ?…………違う……違う、違う、違う、違うっ。あいつらだ、あいつらが、あいつらがっ!』


 涙を流しながらも、その瞳は悲しみとは違う激しい負の感情が宿っている。

 僕の全く知らないテンマの側面だった。

 

 ヤバイ。冗談ではなく、何かヤバイ予兆が発生している。

 テンマの様子が気になってステータス閲覧で見たが、新たな説明文に重大な情報があった。

 絶対このまま放置したら不味いことになる。


『テンマ 女 0歳

 関係:隷属 感情:殉教 状態:健康 精神:悲哀

 技能:索敵LV7 罠探知LV1 看破LV9 暗視LV6 *** *** ***** ***** 非観測存在 超成長 **********

 称号:*と****げ*凶*

 神使によって作られた魂無き造物。

 憎しみの炎はその身を焼き、悲しみの涙は*******。

 **************************→

 ***************************→』


 テンマのステータスが目の前で変化していく。

 変化の途中なのか所々文字にノイズが走り読めなくなっている。

 ビ、Bボタン連打をしなくては!全力で話を逸らす。


『テンマ!喉乾いてないかな?そこに水差しがあるから飲んだ方がいい。いや、飲むべきだ』

『?……ひっく、………あるじさまはのまなくてよいのですか?』

『僕は怪我で指一本動かせないからいいよ。誰か来たら飲ませて……』


 テンマの様子に僕の言葉は途切れてしまい、沈黙が落ちる。

 体が動かせないといった途端、明かりを落とすようにテンマの瞳から光が消えた。


『……よくも……主様を……絶対に、許さないっ!!』


 キンと小さく、金属同士が響き合うような音がテンマから聞こえる。

 空気が重くなるような威圧感がのしかかり、明らかに部屋の中の空気が変わった。


 同時にステータスの表示が変わる。

 ノイズの部分がはっきりと書かれていた。


『テンマ 女 0歳

 関係:従者 感情:癒愛 状態:健康 精神:平静

 技能:索敵LV7 罠探知LV1 看破LV9 暗視LV6 癒し手LV1 呪い手LV1 癒し呪う声LV1 死生の羽根 非観測存在 超成長 特殊技能制限解除

 称号:死と生を告げる凶鳥

 神使によって作られた魂無き造物。

 憎しみの炎はその身を焼き、悲しみの涙は癒しの雨となる。

 目覚めし羽ばたきは生命を育み、風は死の呪いを振り撒く→

 主には癒しを、敵対者には呪いを与えるために成長を続ける→』


 止めどなく溢れていた涙はもうない。瞳には光さえ映らない。

 ゆっくりと立ち上がり、翼を慣らすようにバサリと一つ羽ばたく。

 こちらの視線に気付いたテンマは、穏やかに笑いかける。激情が凪いでいた。


『テンマ……どうしたんだ』

『安心してください。わたくしが全てを成します。主様の敵は全てテンマがやっつけてあげますので、ここで眠っていてください』


 テンマの声が心地いい。

 体の痛みが引き、眠りに誘われるかのような心地だ。

 癒しの技能を使っているのか。

 テンマは羽を羽ばたかせてベッドから飛び立とうとしている。

 今のテンマを行かせれば、取り返しのつかないことになる。

 僕は体に走る痛みを無視して、気力を振り絞ってその体に手を伸ばすが、僅かに羽を撫でるにとどまった。


『ふにゃっ、ど、どうしたのですかっ!?急に羽を触られるとビックリするのです!』


 ちょっと素に戻った。ここで畳みかけなければ。


『ちょっと待ってくれ。テンマはここにいてほしい』

『ですが、今すぐ主様の敵を討たなくてはっ!』


 うっひゃー、目が怖いよ。血のように赤い瞳は殺意に濡れている。

 覚悟が決まり過ぎて平静になってるだけだな、これは。


『いや、もう敵じゃない。テンマがいない間に解決したんだ』


 本当は僕にも状況は分からないが、そんなことをおくびにも出さずに説得する。


『ですが主様を痛めつけた報いを与えねば……』

『テンマ、僕が必要ないと言っているのに、反故にするのか』


 強い口調で意思をぶつける。

 テンマは怯み、その場にペタンと座り込んで、ガクガクと震えた。


『あ、主様、わたくしは……主様を助けようと……』

『分かってる、ちゃんと分かってる。だからこそ、ここは何もしないでほしい。そうでもないと何のために僕が殴られ続けたか分からない。僕は彼らと敵対したくないんだ。彼らを許せと言わない。でも納得はしてほしい』


『………………………………………わたくしは、主様に従います。申し訳ありませんでした』


 凄く、凄く、溜めたね。

 俯き歯を食いしばっている。


『分かってくれて良かった。テンマもこっちにおいで、疲れただろう。少し休もう』


 すっかり消沈したテンマを招き寄せて、そっとその背を撫でる。

 痛みで顔が歪み、脂汗が滲んでくるが、包帯のお陰でテンマには気付かれることのない。

 テンマを落ち着かせるようにずっと撫で続け、彼女の怒りが治まるころには気力を使い果たして再び眠りについた。




 次に目覚めたときには目の前に男がいた。僕を棒で叩いていた人。


「目が覚めたか。話がしたい」


『こいつ、主様を殴ったやつなのですっ!ブッコロなのですっ!』

「チェンジで!」

「なんだとっ!」


 テンマさんが激おこぷんぷんブッコロ丸だよ。

 よりによってお前かよ。

 僕の努力を無にするなよ……。


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