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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 妖精族の集落
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第2話 絶縁の箱庭と森の探索



 テンマに索敵を頼みながら、慎重に森を進むことにした。

 なるべく音を立てたくないが、枝葉が伸び放題なので諦めて短剣で切り払いながら進む。

 

 取り敢えずの目標は拠点の探索と地図の作成。

 こんな森の中で地図なんて書けるのかと思うだろうが、書けてしまうのだ。

 前回の試練の報酬である、A3くらいの大きさの分厚い紙で出来た「物臭の地図」という魔法の地図によって。

 

 この地図には僕の現在地が常に表示され続けている。

 そして一度と通った道の約半径50mは自動で書き足されていく。

 おまけにスマホのように指で視点移動、拡大、縮小が出来る優れもの。

 苦労に見合うだけの報酬だった。

 ただ見付けていないものはこの地図でも表示されないので、拠点は自力に探し出さなくてはいけない。

 

『主様、前方にかなり大きい動物の気配があります』

『分かった。やり過ごそう』


 テンマの警告に従い、近くの木の陰に隠れる。

 止まってみると微かにだが草をかき分ける音が聞こえてくる。


『イノシシさん……でしょうか?』

『造形はそれに近いけど、でかい。いや、凶暴そうだ』


 全長5mはあるのではないだろうか。それに象みたいな長い牙があり、全身を覆う毛は金属のような色合いと質感をしているように見える。


『鉄塊猪 雄 10歳

 関係:敵対 感情:敵意 状態:空腹 精神:平静

 技能:頑強LV5 突進LV5 鋼身

 称号:なし

 モラスティア大陸の固有種(猪)。主食は森の芋や果物が中心。

 全身を金属質の体毛が覆い傷付けることは困難。

 肉も硬質で刃物は通らない。

 成体になれば、5mを優に超える→

 唯一の弱点は首の左下部のみで、弱点を攻撃して死亡した場合、全身が弛緩し肉が柔らかくなり、旨味成分が増大する。非常に美味→』


 あれ、美味しいのか。逆に食べられそうなんだけど。

 運が良かったのか、猪は僕たちの歩く方向とは別の方向に進んでいく。

 音が聞こえなくなるまで待ってから、猪とは別の方向に歩き出す。

 

『主様、何か実ってますよ。食べられるものですかね?』

『見かけは黄色くて小さい林檎だね』


 テンマが指さした木に生っている果実をもいでみる。


『アープの実 


 モラスティア大陸の固有種(果実)。

 ビタミンが豊富で酸味の強い味がする果物。

 食べ過ぎると腹痛を起こす(胃痛)』


『あっちにも何かありますよ』

『野球ボールくらいのブルーベリーに見えるね』


『ルルの実 


 モラスティア大陸の固有種(果実)。

 カロリーが豊富で甘みが強い果物。

 毒素を持っているため、一つの実を一度に食べると中毒症状を起こす(痺れ、呼吸困難)』


『あれはお芋さんの蔓じゃないですかね?』

『ちょっと引っ張ってみようか。よいしょっと……ジャガイモみたいな芋だね』


『カジカ芋 


 モラスティア大陸の固有種(芋)。

 繊維質で栄養素の少ない芋。

 解毒作用があり、毒の排出を促す。

 食べ過ぎると栄養失調を起こす』


 ステータス閲覧、凄い。

 これ最強のサバイバル技能だよ。

 何気にテンマも凄い。鬱蒼とした森の中で的確に食べ物を見つけ出している。

 索敵は関係ないから、看破の技能のおかげだろうか。

 

 移動の邪魔にならない範囲で確保しておく。

 30日間過ごすのに携帯食料だけでは足りないから、食料の確保は必須だ。

 一応食べ過ぎなければ毒として作用しないようだが、本当に食べて大丈夫か余裕があるうちにこれらを食べてみて体調に変化がないか様子を見るべきだろう。

 栄養は無いがカジカ芋を食べれば毒素も排出できるようだし。


『水の音がしますです!』

『え、どこに?』

『こっちなのです』


 僕は聞こえなかったがテンマには聞こえていたらしい。

 しばらく歩き進めれば確かに水の流れる場所があった。

 ジャンプすれば渡れるくらいの幅しかない沢だ。

 水はきれいに見えるが、これは飲んで大丈夫なのだろうか。

 ステータス閲覧を水に使ってみたが、何も反応しない。

 思い付きで水を手で掬ってからステータス閲覧を使ってみる。


『沢の水


 不純物は多いが飲用は可能。常用には向かない』


 ステータス閲覧が使えた。最初に使ったときは範囲が絞れていなかったからだろうか。

 もしくは個と認識できるものしかステータスを閲覧できないのか。要検証である。

 

『テンマ、上流に行ってみようか。これでも一応飲めるみたいだけど、綺麗ではないみたい』

『分かりました。レッツゴーなのです!』


 ある程度上ってはステータス閲覧を使って水質を確認していったが、中々良さそうな結果は出ない。

 テンマは元気いっぱいだが、僕は慣れない森の散策に疲れてきた。

 休憩がてら適当な木の根の上に座り、先ほど採取した果実や芋を取り出す。


『食べてみるのですか?』

『うん、一口二口だけ食べて様子を見ようかなって』


 まずはアープの実。

 匂いは林檎だ。大きさ小さいので一口で食べられそうだが、小さく齧るにとどめる。

 

『すっぺ……単体で食べるのはちょっとキツイな。テンマも食べてみる?』


 テンマは恐る恐る僕の齧った皮の無いところに口を付けた。瞬間、口を窄めている。


『……しゅっぱいのです』

『口直しにルルの実を食べてみようか……甘いけど、かなり青臭いなあ……』

『むぐむぐ……甘くて変な臭いなのです……』


 甘さは砂糖をそのまま食べた甘さだ。酸味がまるでない。

 青臭さは何だろう……キュウリみたいな感じかな。

 頑張ればメロン味と言えないこともない。

 最後にカジカ芋を齧る。即座に吐き出した。


『ぶっ、これ生で食べるもんじゃないな。不味いし変なえぐみがある。テンマは食べなくても……』

『まじゅいのです……』

『もう食べちゃったのね』


 テンマは既に僕の齧った場所を同じように齧っていた。

 渋い顔で吐き出している。水筒から水を取り出して口をゆすぎ、テンマもゆすがせた。


『取り敢えず少しずつ試していこう。テンマは別に付き合わなくても大丈夫だよ。美味しそうなものがあったら食べさせてあげるから』

『いいえ、わたくし食べるのです!主様と一緒がいいのです!』

『……そう、か。ステータス閲覧で危険な毒や危ないものは除外できるから、いいか。何事も挑戦が大事だ』

『ハイなのです!グルメツアーなのです!』


 テンマの知識や言葉は夜刀さんが与えたもの。

 あの人、意外と愉快な人なのだろうか。

 

 十分な休憩を終えて再び上流を目指す。

 物臭の地図に拠点らしきものは未だ描かれていない。




『湧き水


 地下水脈より湧き出た水。ミネラルが豊富で飲用可能』


 結局水が湧き出る場所まで辿ってきてしまった。

 試練開始から4時間ほど経ったが、まだ暗くなっていない。

 よくよく考えると箱庭の1日が24時間とは限らないし、大地を照らす恒星は見えるけど、この世界に朝や夜の概念があるのかも確かではない。

 確かルールにはここが平面世界と書かれてた。地球と似ていても非常識なほど環境が違う点があっても不思議ではない。

 

『水場は確保できたから、ここを仮の活動拠点としようか。まずは食料を確保しつつ試練の攻略に必要な「拠点」を探索する方針かな』

『分かりました。わたくしは自由に動けますから、わたくしが探してまいりましょうか?』


 テンマの意見は悪くないが、デメリットも多い。

 索敵技能のない僕が危険な森で一人になる、物臭の地図は僕が移動したときしか記述されない、テンマと合流できなくなる可能性がある、指示が出来ないためテンマの判断に委ねることになる、などだろうか。


『……どうでしょうか?』


 不安そうなテンマを見つつ、少し思案してから方針を決めた。


『うん、任せようかな』

『本当ですか!わたくし頑張りますです!』


 テンマは頼られて嬉しいのかやる気満々に拳を握りしめた。


『お願い。なるべく高いところから、人の痕跡があるところを探してくれると助かる。ある程度進む方向さえわかれば探索が格段に楽になるから』

『わたくしにお任せあれなのです!行ってきます!』

『何もなくても一時間以内には帰ってくるんだよ』

『はーいっ!』


 言うが早いか、ピューと空に飛んで行ってしまった。

 多少のデメリットに目を瞑っても、メリットの方が大きい。

 テンマは空を飛べる。風の影響があるからあまり高くは飛べないだろうけど、森の木々よりは高く飛べるだろう。

 どんな代物か分からないが、拠点というぐらいだから人の住む場所にある可能性が高い。それなら開けた場所になっているだろうし、空からでも特定できるかもしれない。


 がんばれテンマ、負けるなテンマ。

 僕の未来は君の手に掛かっている。

 

 僕は帰ってきたテンマに、芋料理を食べさせるために乾いた木を探しに行くことにした。

 解毒作用のある芋を食べれるようにしておけば、ある程度食べられる食材の幅は広がるはずだ。

 金属製の水筒があるので、火種さえ何とかなれば過熱は出来る。

 ちゃんとしたものを食べさせてあげたいが、はたしてあの芋は旨くなるのだろうか。

 糠でもあればえぐみが消えそうだけど、そんなものはない。


 重たい背負い袋は仮の拠点に置いておいて、辺りを歩き回る。

 乾いた木が落ちていたので、拾うために屈んだ。

 その瞬間、右腕を何かが貫いた。


 貫通せずに肉を引っ張り、体が持っていかれ地面に引きずり倒され、前後不覚に陥る。

 倒れ伏したまま頭をずらし、腕を見てみれば、鳥の羽の付いた木の矢が刺さっていた。

 遅れてきた痛みを噛み殺し、状況を確認する。


 気配はまるで感じなかった。今も感じない。一体どこから攻撃された。

 辺りを見渡しても騒めき一つ、草の揺れひとつない。

 遮蔽物の多い森の中を気取れずに矢を放ったという事か。

 本当に僕の戦闘能力が鈍くなってるな。相手が気配を殺していたとしても、飛ぶ矢を察知して躱す程度も出来なくなっているなんて。


 立ち上がり、近くの木に身を隠す。次弾はこない。

 次の矢が間に合わなかったのか、それとも仕留めたと思ったのか。

 

 ジリジリと膨れ上がる焦燥の中で、時間が幾らか流れる。

 膨れ上がる痛みで汗が滲み始めたとき、僕はズルリと木に体をあずけて倒れ込んだ。


 体の力が、自分の意思と関係なく、抜けた。

 なんだ、これ……体が震えて力が……入らない。息が……できない。

 覚え…ある。毒……神経……か…………。

 …………。

 ……。

 …。









『カバーストーリー:技能について研究レポートその3』



 ノーマル技能にはLVが存在している。

 技能による能力の補正は、LV上がるほど実感を伴い強力なものとなる。

 ただしその上昇率とは別に、種族と種族内の個体差が技能の性能に大きく影響を及ぼすことが解明された。

 

 技能による能力の補正値は「種族値×((技能基本値+(LV×上昇固定値))×個体差)」が基本となる。

 最終的に生物の持つ能力値は、技能無しの能力値にこの補正値を足した値となる。

 

 例えば人と、人と同じ速度で走ることの出来るチンパンジーがいたとしよう。

 彼らを100m走で比べた時、同じ素早さの上がる技能を所持、同じLVであったとしてもチンパンジーが圧勝する結果となった。

 これは生物としての筋力や運動能力の差ではなく、技能ごとに種族値が異なっているためだ。

 単純な例を出したが、種族値は単純に生まれ持った能力の違いという認識で構わないだろう。


 そして個体差という指標についてだ。

 同じチンパンジー同士、筋力までほぼ同等、同じ技能LVでもより足の速い方が存在する。調子や偶然などの要因を全て排除した上で、大きな差が生まれたのだ。

 この個体差は運動神経による差ではなく、よりその技能に適合した個体であるかの違いである。


 以上の二つの要因により、相手の技能LVを知り、強さを測った気になっているのなら、その者は手痛い教訓を得ることになるだろう



 さて、数式を完成させるためにどれほどの労苦があったか。

 協力者たちに感謝を申し上げたい気分だが、生憎と彼らにはもう聞こえない。

 願わくば、動物や人などより強大な種族値を持つ存在と会ってみたいものだ。

 新たに始まった試練の地、箱庭にはそれらが存在するのだろうか。


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