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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 絶縁の箱庭 妖精族の集落
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第1話 特別ルールと0.000001%



 今日も今日とて姉妹と幼馴染たちに囲まれての登校。

 相変わらず注目はされるけど、日常になりつつあるのか、周囲は落ち着いたものだ。


「信也君、道場の方はどうだった?」

「はい、問題なさそうです。紹介していただいて有難うございました」

「ふふ、いいのよそれくらい。私も折角だから鍛え直そうかしら」


 武術の鍛錬について、両親に相談したら有紗さんが道場に通っていた話を教えられた。

 有紗さんに道場を紹介してもらい、事情を話して武術の鍛錬に場所を借りられることになった。

 ついでに動きも見てもらえるので至れり尽くせりである。

 

 問題は先日から妙に距離が近くなった有紗さんだ。

 どのような心境の変化か、僕に対して気安いというか、家族のような、それこそ花音姉さんみたいな態度で接してくる。

 

 花音姉さんも夕希ちゃんも、有紗さんの行動に怪訝そうな様子だが、特に僕の前で何か言うことはない。

 今日も隣を歩いていて、肩が触れそうになるくらい近い。

 夕希ちゃんは夕希ちゃんで、眉をハの字にして僕の手を見たり、有紗さんを見たりしている。

 まさか僕が有紗さんにセクハラするのではと監視しているのだろうか。甚だ遺憾である。

 

「じゃあ、今日もお昼に会いましょう」

「信也君、意地悪されたら私たちの所に来るのよ」

「有紗さん、心配し過ぎです……。じゃあ、お昼に」


 姉さんと有紗さんと教室の前まで来て別れる。

 恥ずかしいから止めてほしいのに止めてくれない。

 もう諦めた。


 教室に入れば皆から挨拶をされる。

 表面上受け入れられているし、もう変な質問はない。

 質問自体は無いことはないが、どちらかと言えば僕の回りの女の子たちのことを聞かれる。

 何か誤解されている気がするが、当たり障りのないように答え続けている。

 

「おはよう青野君。今日も保護者同伴だったね」


 後ろから女の子が話しかけてくる。

 以前教室で一番最初に話しかけてくれた女の子。

 名前は瀬尾由佳さん。

 明るく染めたウエーブのある茶髪に、アーモンド形の大きな瞳。

 溌溂としていてとても可愛い女の子だ。

 

「そうだね……」


 僕の苦笑いに、ニッコリと微笑み可笑しそうに肩を叩いてくる。


「いやー、うちの高校の二大美女からチヤホヤされて、そんな態度を取れるのは青野君くらいだよ」

「あの二人、二大美女とか呼ばれてるの?ヤバイね」

「そりゃヤバヤバだよ。わたしだってあんな綺麗な人たち初めて見たし。あ、でも中等部でもヤバヤバな子が何人かいたっけ。それも青野君の関係者でしょ?もしかして青野君が一番ヤバイ?」

「僕の顔見てヤバイと思う?」


 瀬尾さんをジッと見詰めれば首を捻って「普通だね」と言われた。

 朝からちょっと傷付いた。


「アレだよ、アレ。人間中身が大事だから気にすることないよ。中身良ければ大丈夫っ!」

「中身……具体的には?瀬尾さんのタイプでもいいけど」

「え、それ聞いちゃう?私はとりあえずイケメンで、背が高くて、気遣いが出来て、私に優しくて、オシャレなら誰でもOKって感じかな」

「要望多!誰でも良くないじゃん。中身より外見の意見が多いし」

「妥協はしないよ。好みを妥協する意味ないでしょ?逆に青野君の好みはどんな人?お姉さん?有紗先輩?それとも中等部の誰か?」


 なんで家族が真っ先に候補に入ってるの?まあいいけど。


「僕の好みか……昔は覚えてたと思うけど、今は忘れちゃったんだよね」

「え~何それ。好きな人を忘れちゃったってこと?まだ高校生なのに……」

「そうなんだよね。思い出したいけど、思い出せないんだ」

「そっか……そういうこともあるか」


 瀬尾さんは僕の背中を何故が擦ってくれた。

 よく分からないけど、少し気持ちが温かくなった。

 

 でもドキドキしちゃうからあんまり気軽にボディタッチはしないでね。

 体が若いせいか変に意識するんだよなあ。

 老人だったころは介護で若い女性にがっつり触られても気にならなかったのに。

 段々と精神と肉体が馴染んできたと言う事だろうか。

 今までの転生には無い感覚だな。


 瀬尾さんの友達も登校してきたため、話はそこで終わった。

 そして先生がホームルームにやってきたタイミングで、それは起きた。



『ピーンポーンパーンポーン』


『試練、孤独の迷宮の終了をお知らせします』


『試練資格者のステータスに配信コメント表示機能を追加しました』


『試練資格者の配信カメラの可視化機能を追加しました』


『これより試練、絶縁の箱庭を開始します』


『試練資格者のステータスに本試練のルールを記載します』


『試練、孤独の迷宮において多大な功績を残した試練資格JPN_No.01023青野信也に特別ルールを追加します』


『良き戦いを』


『ピーンポーンパーンポーン』



 相変わらずの大音量に、犬木先生やクラスメイトが耳を抑えている。

 そういえば僕が目覚めてから今日で1週間経過していたな。

 だとすれば全員がチュートリアルを終えた頃だろう。

 終わった瞬間に次の試練に入るとは忙しすぎやしないだろうか。

 それに名指しの特別ルールなんて嫌な予感しかしない。

 僕はその場でステータスを開いた。


『試練資格JPN_No.01023

 青野信也 男 15歳

 技能:なし

 称号:死の運命を超えるもの

 生命:10/10

 精神:10/10

 装備:鉄の片刃短剣 ジャージ フード付きマント

 保有アイテム:背負い袋 携帯食料(15) 水筒大(2) ポーション(2) 紙束 ペン ナビゲートピクシー 物臭の地図

 リソース:440P』


『試練:絶縁の箱庭→

 試練残り時間30日00時09分20秒

 箱庭経過時間00日00分00秒00秒』


『試練:絶縁の箱庭を開始しますか?

 YES   NO』



 絶縁の箱庭という言葉の横で点滅している矢印をタップすれば別の半透明の板が出現する。


『試練 絶縁の箱庭


 試練成功条件


・地球の約十倍の表面積を持つ、平面世界の箱庭で10日経過すること。その後、「拠点」から地球への転移による帰還。


 試練失敗条件


・試練資格者の死亡。

・ステータスの試練残り時間内に帰還できなかった場合。


 ルール


・試練開始選択により、試練資格者を箱庭のリベニカ大陸に点在する拠点付近にランダム転移させる。

・転移先はリソースを消費することで危険地帯を候補から外すことが出来る。

・拠点とはその土地の集落、村、街、国、大陸の中心、もしくは強大な支配者を指す。

・リソースの交換は拠点のみで行える。

・拠点を使用するには拠点を保有するか、拠点保有者がいる場合、保有者から使用許可を得る必要がある。

・拠点の権利は無占拠であれば発見者のものとなる。

・拠点保有権は任意で移動できる。拠点保有者を殺害した場合かつ、その拠点の次点保有者が無指名の場合、所有権は殺害した者に移る。

・試練資格者には「ストレージ」が与えられる。

・ストレージとは箱庭内の資源を収納するための亜空間倉庫である。ストレージに収納した資源は地球に帰還後に取り出せる。

・拠点を保有することで、拠点影響範囲内に存在する全ての資源を、帰還時ストレージに収納できる。



 試練資格JPN_No.01023青野信也における特別ルール


・青野信也は箱庭経過時間30日経過後に地球への帰還を可能とする。

・青野信也は箱庭において人間の生存確率の最も低いモラスティア大陸に転移される。現地人間族が30日後まで生存できる確率は0.000001%。

・リソースによる危険地域除外は使用不可とし、ランダム転移のみ行う。

・試練、絶縁の箱庭においてモラスティア大陸への転移は青野信也のみとする。



 ……僕に対して殺意強すぎだろ。それに、態々生存確率を教えてくれたのは何故だ?

 僕の絶望を楽しみたいとか。

 そうだったら意外と人間味あるじゃないか、上位観測者。

 しかし一読しただけでもう3分しか猶予がない。

 

「先生、時間がないので今から試練に挑みます。事情を配信で話せれば話すと家族に言ってもらえると有難いです」


 説明できるほどの時間を生きていられたら、という注釈はつくけど。

 生存率的に、転移した瞬間死ぬ可能性もある。


「おい、どういうことだっ」

「青野君っ!?」


 犬木先生と瀬尾さんに返事をせずにステータスからYESをタップする。

 周囲の景色が歪み、僕の存在は世界から溶け消えた。





 転移した瞬間から殆ど体感時間が流れないまま、ざっと足に土の感触が返ってくる。

 僕の立つ場所は僅かに開けているが、転移した先は森の中だった。

 獣道すらなく、背の高い木々が生い茂り、光が届きづらいせいなのか辺りが暗い。

 夜ではないが、時間はよく分からない。

 

 ジャージとマント、靴は転移した瞬間には身に着けていた。

 残りの荷物は足元に転がった背負い袋の中という事だろう。着ていたはずの制服は影も形もない。

 周囲を警戒するが、風に揺れる植物の微かな音は聞こえるくらいで、生き物の気配は無い。

 ひとまず即死する状況ではないようだ。


 さて、さっきから見えている僕の目の前に浮かぶ幾何学模様が刻まれた球体。

 僕の動きに合わせて動いている。これが可視化されたカメラ視点という奴か。

 特に危害を加えてきそうなものではない。

 ステータスを開いて表示をOFFにすると消えた。視界が塞がるし邪魔なのでこのままでいいか。

 

 一通り周りに危険がないことを確認してから背負い袋を開く。

 あの時の再現のように、小さな影が袋から飛び出してきた。


『じゃじゃーん!天上天下唯我独尊、な主様に仕える優秀なナビゲートピクシー、テンマ参上なのです!』


 あの日と変わらない彼女の面立ち。

 神の作り上げたような精妙なバランスで成り立つ、美しさ。

 大人びた顔立ちに浮かぶあどけない表情。

 僕は目の前の彼女にステータス閲覧を使った。


『テンマ 女 0歳

 関係:下僕 感情:服従 状態:健康 精神:平静

 技能:索敵LV1 罠探知LV1 看破LV1 暗視LV1 非観測存在

 称号:なし

 神使によって作られた魂無き造物→』



 奇跡は起きなかった。


 テンマ本人、彼女の生みの親の夜刀さん。

 彼女たちに言われても、心のどこかでテンマは何事もなく現れるんじゃないかと期待していた。

 だけど、そんなことは無かった。

 孤独の迷宮での成長は無くなり、全てがリセットされている。


『……宜しく、テンマ。元気がいいね』

『はい、主様!初めましてなのです!あれ、わたくしとの会話方法をもうご存じだったのですか?』

『ああ、君との試練は二回目だから自然に出来るよ』

『了解しました。でしたら二度目になりますが、幾久しく宜しくお願いしますのです!』


 テンマは自分が忘れるという事実を知っている。そこに憂いは見えない。

 明るくて弾けるような笑顔だ。

 これが夜刀さん言う、まやかしか。


 考えるのはよそう。未知の地でいつまでも考え事をする余裕はない。

 僕は生き延びる。必ず生きて帰るんだ。

 

『テンマ、僕と協力して試練に挑んでくれるかい?』

『ハイなのです!ドンとお任せあれ!』


 また二人で歩む。

 この未知の大地を。


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