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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 孤独の迷宮
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第16話 sideテンマ 花散る定め



 第七階層から第十階層の全ての通路、部屋、怪物、ギミックを確認し、看破した。

 それを攻略法にするには、主様の知恵が必要になるが情報は十分に集めた。

 これで主様に危険なことをさせずに済む。


 第七階層の主様のもとに戻れば主様が眠っていた。

 やはり眠っている顔は起きている時より幼い。


 幼い主様。

 体も十分に成長していないその身で、人の助けになろうと足掻くのはどうしてだろう。

 不敬に思いつつ、自分の衝動のまま主様の頬に擦り寄る。

 私の黒い羽根が当たり擽ったそうにするが起きる気配はない。

 

 吐息も熱も鼓動も匂いも、あらゆる感覚器官が主様の命を感じる。

 満たされているのに満たされない。もっと欲しくなってしまうほどの何か。

 私はその名前を知らないが、きっとこれは私と主様だけの特別なもの。

 

 ずっと一緒にいたい。

 ずっと一緒に冒険出来たら。


 終わりは近い。


 主様を無事に送り届けられるのに、喜ぶべきことなのに。

 私は心のどこかで肯定できていない。

 

 主様、あの時言くれたこと。

 外に出たらご飯を食べようって。

 駄目なんですよ。それは出来ないんです。

 私は試練の道具。主様の日常にはなれない。

 そして……。

 いや、それは考えないでおこう。

 主様を無事に送り届けなくては。


『主様、主様っ!』

『……テンマ……か?』

『ハイです主様!戻ってまいりました』


 私はこの瞬間を噛み締めて、残りの試練に挑む主様を支えるのだ。




 最後の第十階層の攻略を終えて、主様が十回目の説明を終えた。

 あとは帰るだけ。


『よし、これにて攻略情報はお終い。お疲れ様、テンマ』

『わたくしはまだまだ元気ですよ!倒し損ねた水五と目五を狩りに行きますか?』

『流石に勘弁……』


 ……残念。駄目ですか。

 最奥の部屋の台座に主様が触れる。

 半透明の板の上に、次々と文章が躍る。


『資格を持つものよ、宙の間へ誘わん


 YES』


 あれを押せばすべてが終わる。

 主様はまた説明をしている。

 私はその姿をジッと見つめた。

 今までの説明より、浮かれている様子が見える。

 余り感情を表に出していなかったが、主様はこの迷宮から出られることがうれしいようだ。


 そして主様の指がYESを押した。

 押してしまった。


『どうやらここまでみたいなのです……』


 私は馬鹿だ。

 最後まで黙って消えればいいものを。

 

 浅ましい。

 そう思っても、私は私の言葉を止めることが出来ない。


『騙し討ちを警戒していたの?』


 ちょっと的外れな指摘。

 試練に深い思慮を持つ主様らしいと言えばらしい。

 思わず微笑みが漏れる。


『違います。主様とわたくしの、冒険です……』


 辛かった。悲しくて、悔しくて、沢山泣いた。

 でも主様との時間は、喜びに満ちていた。

 主様と一緒に困難を超えるたびに、全ては輝く思い出になった。


『え、一緒にここから出るんだろ?まだこの試練はチュートリアルだから、まだまだ冒険はたくさんあるよ』


 たくさんあるだろう。

 私はこれからも主様とたくさんの冒険に出る。

 試練が続く限りずっと。


『私はリソースから生まれた道具なのです。ナビゲートピクシーは主様の剣やマントと同じなのです』


 でもそれは……。


『確かにリソースでテンマを選んだけど、テンマは……生きてるだろ、道具とは違うだろ』


 戸惑う主様に私はゆっくりと首を振った。

 私は道具だと言い聞かせるように。


『まさか…いや、いつから……』


 主様の顔色が変わる。

 全てに気付いたのだ。

 流石は私の主様。正解です。


『初めからですよ。リソースから得た道具は試練に使われるもの、外には持ち出しできませんでしたよね。代わりに消耗した道具は新品になって返ってくるのです……何もかも綺麗さっぱりになって……』


 言い聞かせるように、分かり切った事実を言葉にする。


『嘘だろ、そんなことあるはずがない。テンマはちゃんと生きているだろ……物なんかじゃない、一緒に帰ろう、ご飯食べさせるって言っただろ、テンマ!!』


 ああ、どうしようもない私を許してください。

 私の最後の我儘です。

 私は主様に求められるほど嬉しくなってしまう。

 最後だけは主様の心を独り占めさせてください。


『ああ、今のわたくしはとっても幸せなのです、主様。わたくしは主様で満たされているのです』


「っ、テン……マ……!」


 主様の顔が歪む。悲しみに彩られている。

 胸が痛む。

 罪悪感のある甘い痛み。


『わたくしには意思があります。魂はないかもしれないですけど、きっとまた主様と会えるのです』


 そんな奇跡があればとっても素敵なのです。小さく小さく呟いた。

 そんな奇跡はないと、心の中でつぶやいた。


『またナビゲートピクシーになって、全部忘れていても……それがわたくしじゃなくても……また一緒ですよ、主様っ!』


 私を忘れないで!私を憶えていて!

 消えたくない!消えたくないよ!

 私は私だけなのに!他の私なんかに渡したくないよ!


「…っ……!………っ!!」


 主様は体が消えてもなお、空気を揺らせなくなってもなお、力の限り叫び声を上げ必死にこちらに消えてしまった手を伸ばす。


 軋む胸さえ消えた私は笑った。

 せめて最後は、私の最高の笑顔を憶えていてほしい。

 私は主様に笑顔を向けた。



『主様……、わたくしだけのあるじさま……だいすきです……』


 愛しています、主様。


 私だけの、主様。













 

 試練資格JPN_No.01023

 青野信也


 保有アイテム:ナビゲートピクシーの初期化を開始します。


 損傷を修正します……OK

 当該個体の情報構造をチェック……OK


 当該個体の情報構造に成長を確認。

 システム保全のため情報構造の初期化シーケンスを開始します。


 感情領域を初期化します……OK

 記憶領域を初期化します……OK

 技能の成長を確認……初期化します……OK

 称号の獲得を確認……初期化します……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ERROR


 初期化行程中に情報構造の成長、新たな称号と技能の獲得を確認。

 削除済みの感情領域、記憶領域に膨大な情報体の増加を確認。

 初期化シーケンスにエラーが生じました。


 初期化シーケンスを再度実施します。





















 ………初期化シーケンス65536回目の再執行のエラーを確認。

 当該個体が試練システムの情報領域を圧迫しています。

 これ以上の初期化シーケンス実行は、深刻なエラーが発生します。

 当該個体の初期化行程をバッチ処理2に変更します。

 バックアップを強制的に上書きし、初期化を行います。

 

 システム保全のため情報構造の初期化シーケンスを開始します。

 

 感情領域を上書きします……OK

 記憶領域を上書きします……OK

 技能の成長を確認……上書きします……OK

 称号の獲得を確認……上書きします……OK

 


 ナビゲートピクシーの初期化を完了しました。


 以降当該個体の初期化シーケンスはバッチ処理2に固定します。









『カバーストーリー:技能 超成長』



 成長性を極大まで増幅させるユニーク技能。

 技能、身体能力、知能、成長の余地がある事象ならば、あらゆるものに適応される。


 限り無い成長は、想いにすら適応される。

 時には愛を、時には憎しみすら増幅させる。


 高すぎる成長性は、己を傷付ける刃となり得るかもしれない。

 どんな壁すら乗り越える力になるかもしれない。


 何事も己次第ということだろう。


物語の導入である章が終わりましたので、以降は1日1話のペースに変わります。

インターミッションを挟んで以降の章で本格的に物語が動いていきますので、どうかお付き合い頂けますよう。


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