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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 孤独の迷宮
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第13話 孤独の迷宮と消失



 この先の階層については特に苦労しなかった。


 難易度で言えば上層よりずっと難しかったが、スーパーテンマさんの前ではそれも無意味だ。

 本当に何だったのかと言いたい。


 何より孤独の迷宮は理不尽ではあるが、人の身体能力と知恵と感覚でクリアできる難易度に設定されていることが大きい。

 テンマの能力は人の身の範疇ではなくなっている。

 技能は制限を破ると別次元に強力になるようだ。

 テンマは冗談ではなく迷宮を全て丸裸に出来ていた。

 全ての階層の構造を把握し、ギミックを暴き、怪物を見つけ出し、僕が考察して攻略法へとまとめることで、安全策を十分に取れた。




 第十階層の地図を書き終え、カメラがあると思われる場所をくるくる回りながら紙を示し、ギミックの説明を終えた。


『よし、これにて攻略情報はお終い。お疲れ様、テンマ』

『わたくしはまだまだ元気ですよ!倒し損ねた水五と目五を狩りに行きますか?』

『流石に勘弁……』


 気合十分でシャドーボクシングをするテンマだが、どことなく空元気というか無理している気がする。

 本当は疲れているのではないだろうか。

 家に帰ったら存分に労ってあげよう。

 

 第十階層には下に降りる階段はない。

 階層の最奥の場所に一本道があり、扉があった。

 今となっては懐かしい、第一階層と同じ扉だ。

 扉を潜ればそこにはリソースをささげた台座が鎮座している。

 僕は緊張しながらそれに触れた。

 目の前に大きな半透明の板が出現する。


『孤独の迷宮』攻略者


 試練資格JPN_No.01023

 青野信也 男 15歳

 技能:なし

 称号:なし

 生命:7/10

 精神:6/10

 装備:鉄の片刃短剣 ジャージ フード付きマント

 保有アイテム:背負い袋 携帯食料(3) 水筒大(1) 紙束 ペン ナビゲートピクシー

 リソース:10P』


 半透明の板の表示が変わる。


『試練を超えしものに報酬を受け渡す


 孤独の迷宮攻略→リソース100Pを与える

 孤独の迷宮初攻略→■■■■の■■を確認

 →称号『死の運命を超えるもの』を付与します

 孤独の迷宮走破率100%→アイテム『物臭の地図』を与える』


『価値を示したものに報酬を受け渡す


 第一階層、歯五の全滅→リソース10Pを与える

 第二階層、火五の全滅→リソース20Pを与える

 第三階層、岩五の全滅→リソース30Pを与える

 第四階層、肉五の全滅→リソース20Pを与える

 第六階層、命五に勇気を示す→リソース30Pを与える

 第七階層、罠を全て看破する→リソース70Pを与える

 第九階層、絡五に真偽を示す→リソース50Pを与える

 第十階層、全てのギミックを解除する→リソース100Pを与える』



 また半透明の板の表示が変わる。


『■■■■の■■を確認→資格を持つものよ、宙の間へ誘わん


 YES』


 最後に現れた半透明の板。

 oh、YESしかないじゃん。

 これ帰れるという話なのかな。

 伏字が気になるけど押すしかなさそう。

 孤独の迷宮はここで終わりのようなので、最後に締めは必要だろう。


「えーとまだ映っていますかね?リソースの部屋と同じなら、映像が途切れているかもしれません。それでも一応喋ります。どうやら報酬は主にリソースが貰えるようです」


「僕からの最後のアドバイスですが、攻略だけを目指すなら今までの情報を頭に叩き込めば可能だと思います。余裕のある人は階層ごとの報酬目指してもいいですけど、リスクを冒さず攻略報酬をもらった方が楽です。自分で言うのもなんですが、心が何度も折れかけましたから」


 テンマがいなければ無理だった。

 彼女と、彼女を送り込んでくれた夜刀さんに心の中で感謝を伝える。


「怪しいメッセージが出ているので、まっすぐ家に帰れるか分かりませんが、ちゃんと帰るので家族のみんなは安心して待っててね。どうだ、お兄ちゃんはやってやったぜ!それと母さんのご飯が食べたい。もうゲロみたいに不味い携帯食料は食べたくない……。それではみなさん、これにてさようなら!」


 やっと終わりだ。感慨深いというか、意識していなかった疲れがどっと押し寄せてくる。

 それでもやり遂げた達成感は格別だった。

 最後の最後で押さえつけていた人間らしい感性が零れ出てしまったが、終わってしまったからいいだろう。


 僕は半透明の板のYESをタップした。

 来た時と同じように体が端から粒子になっていく。

 テンマも同じように消えていく。


『どうやらここまでみたいなのです……』


 自分の消えゆく足を見てテンマは呟いた。


『騙し討ちを警戒していたの?』


 スーパーテンマさん警戒しすぎである。

 ここまで来て押したら罠でした、をやったら上位観測者の性格悪すぎるだろう。

 流石に警戒してなかったよ。


『違います。主様とわたくしの、冒険です……』


『え、一緒にここから出るんだろ?まだこの試練はチュートリアルだから、まだまだ冒険はたくさんあるよ』

『私はリソースから生まれた道具なのです。ナビゲートピクシーは主様の剣やマントと同じなのです』


『確かにリソースでテンマを選んだけど、テンマは……生きてるだろ、道具とは違うだろ』


 テンマは首を横に振る。自分が道具であることを否定しない。


『まさか…いや、いつから……』


 体から熱が引いていく。喜びが消えていく。


『初めからですよ。リソースから得た道具は試練に使われるもの、外には持ち出しできませんでしたよね。代わりに消耗した道具は新品になって帰ってくるのです……何もかも綺麗さっぱりになって……』


 学校で確認した冊子には確かに書いてあった。でもテンマは違うだろう。


『嘘だろ、そんなことあるはずがない。テンマはちゃんと生きているだろ……物なんかじゃない、一緒に帰ろう、ご飯食べさせるって言っただろ、テンマ!!』


 身を乗り出そうとするが、足は既にない。

 必死に手を伸ばすが届かない。


『ああ、今のわたくしはとっても幸せなのです、主様。わたくしは主様で満たされているのです』


「っ、テン……マ……!」


 頭の中がぐちゃぐちゃで念じての会話が出来ない。

 のどが詰まって言葉が上手く出ない。

 出会って間もないはずのテンマとの別れに対して、心が悲鳴を上げるほど拒絶反応を起こしている。

 それを疑問に思う余裕もなかった。


『わたくしには意思があります。魂はないかもしれないですけど、きっとまた主様と会えるのです』


 そんな奇跡があればとっても素敵なのです。小さく小さく呟いた。


『またナビゲートピクシーになって、全部忘れていても……それがわたくしじゃなくても……また一緒ですよ、主様っ!』


「…っ……!………っ!!」


 とうに消え失せた掌は空を切る。喉をまで無くした僕の声は空気を震わせることはない。

 テンマは満たされた微笑みを浮かべて消えていった。


『主様……、わたくしだけのあるじさま……だいすきです……』


 僕の形も崩れ去り、そこには何一つ残りはしなかった。


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