第10話 孤独の迷宮と第五階層
さて、いよいよ第五階層なわけだが、問題を一つ片付けなければいけないだろう。
物悲しい顔で落ち込んでいるテンマだ。
どうやら先ほどの階層でのことを気にしているらしい。
『テンマ、大丈夫?いや、大丈夫じゃないのは分かってるけど、試練は続けられそう?』
『はい、わたくしはどこまでも主様についていくのです……でも…わたくし役立たず、です…』
『テンマはよくやってるから気にしなくてもいいんだよ。寧ろ僕の方が情けないくらいだし』
『そんなことないのです!主様最強なのです!なのです!!』
若干怒りすら感じる僕への肯定に、ビクリと反応してしまう。誤魔化さなければ。
「ん?何か音が聞こえたような……気のせいか?」
よし、これで誤魔化しオッケー。雑だと言ってはいけない。
というか僕は最強じゃないからね?短い付き合いで、どうしてそんな言葉が出たのだろうか。
『いや本当のことだよ。テンマがいなかったら何度死んでいたか分からない。僕は何度もテンマに命を救われているんだ』
『でも、主様はしなくていい苦労をしてるのです。本当ならもっと安全に試練に臨めるのに……』
『そうだね、僕も甘く見てた。僕だけでも攻略情報を集められると思っていたけど、とんだ考え違いだった。傲慢だったともいえる』
『主様は最強なのです……』
僕はテンマの目を見詰めた。
これ以上僕自身の否定を重ねても、彼女にとっては何の慰めにもならないだろう。
『……違うよ。僕とテンマが最強なんだよ。二人でならこんな迷宮は楽勝。僕だけだと攻略は出来ないよ。僕はテンマがいなきゃ駄目なんだ。僕を助けてほしい。役立たずなんかじゃない。一人でこんなところに居続ける何て精神が参っちゃうよ』
『……本当にわたくしが必要なのですか?』
『僕はテンマと一緒に試練を進みたいんだ』
テンマはぽろぽろと涙を流して頷いた。僕は彼女の様子を見て微笑んだ。
虚空に笑う僕は不審だろうけど、今は気にしないことにする。
もしカメラ目線で笑ってたらヤバイやつだな。
何気なくテンマにステータス閲覧を使った。
生まれたばかりだから能力は伸びてないだろうけど何となく気になった。
『テンマ 女 0歳
関係:従者 感情:信愛 状態:健康 精神:歓喜
技能:索敵LV5 罠探知LV1 看破LV3 暗視LV3 非観測存在 超成長
称号:なし
神使によって作られた魂無き造物。魂は無くとも主へ思いによってその萌芽を宿す→』
なにこれ、成長著しいんですが。主人公かな?
それに技能以外も色々変わっている。
ステータスについて、今は何も言わなくても構わないか。
自覚させない方がいいこともある。
体力は回復したし、テンマと話して僕自身も精神は復調した。
第五階層の探索始めますか。
第四階層のように湿度のある空気ではなく、上層のように乾いた空気に戻っていた。
ここまで来られた人間は僅かだ。
ほとんどの人は寧ろ来ただけで戦う余裕すらなかった。
ここの怪物はある意味鬼門だ。
恐らく対策してないと誰もクリアできないと思う。
入口の手前で、僕でも感じとれるほど無数の気配がある。
『また気配が沢山あるのです。でも、もう間違えないのです!』
『おう!僕たち、最強!』
『いえぃ!わたくしたち、最強!!』
僕は適当な壁を注視し、気配の正体を見極めた。
『目五 雄 0歳
関係:敵対 感情:獲物 状態:健康 精神:平静
技能:奇襲LV3 潜行
称号:なし
孤独の迷宮の壁に住む寄生虫。
迷宮内の壁、天井、床を自在に遊泳し、獲物の死角から体内に侵入して内部から貪り食う→』
こいつの特徴は目だ。
配信で確認した限り、奇襲を行う際に一度目を出して、獲物の肌の露出した場所を確認してから襲う。
パワーアップしたテンマに掛かれば、索敵で位置を事前に把握できるし対処も可能だが、それは他の人間では真似できないので違う方法を使う。
『気合い入れているとこ悪いけど、今回は先に地図を作るよ』
『え!?』
鼻息荒く拳を握りしめるテンマを横目に紙とペンを取り出す。
驚くことに、こいつらは肌の露出がないと露骨に襲わなくなるのだ。
僕のように全身を隠した人は、一度も襲われることなく下への階段に辿り着いていた。
逆に肌を露出した人は悲惨なまでの苦痛の中で死んでいる。
僕はフードを深くかぶり、顔を腕で隠しつつ歩みを進めた。
襲われはしないけど、歩いていると目が大量に壁や床から生えてくるから、精神衛生上よろしくない。
一度書きかけの紙をしまい、第六階層に行く階段の前でジャージの左袖をまくり、マントから素肌を出した。
すぐさま近くにいた目五は床面から目を出し、また地面に潜り込む。
『左の壁に来てます!』
僅かに壁が波立つのを目視し、即座に短剣を突き入れ、捻り上げる。
グリグリと押し込んだ後に、壁をこそぐ様に短剣を引き抜けば、目玉を貫かれた目五がいた。
ピンクでミミズみたいな長ひょろい体型で、潰れてはいるが先端に人間みたいな目がある。
少し情報不足だったが仮説は間違っていなさそうだ。
死体を観察しつつ新たに二枚目を書き上げて、紙を二枚掲げた。
「第五階層の探索が全て終了したので、その結果を紙に書きました。通路の距離、分かれ道、部屋、第六階層への階段の位置など記していますのでご覧ください」
「あともう一枚はここに出る怪物、名前は分からないので目の怪物と呼称します。その特徴や数、習性、倒し方について分かる限り書きました。僕なりの解釈です。情報が少ないのでちょっと憶測が多いのでそこはご留意を」
「この階層は下手したら一番簡単です。この目の怪物は獲物を一度視認して体内に侵入できる箇所を探します。しかし肌の露出を無くすと途端に襲うことが無くなります。だからと言ってマントを貫けないわけではないのでそこは気を付けてください」
「あまりお勧めしたくはありませんが、鎧を内側から食い破った動画が残っていたはずです。肌の露出箇所以外襲わないのは習性みたいなものだと思います。また、迷宮の壁や床を潜行できますが第七階層までの範囲では第五階層にしかいないようです」
「僕は目の怪物の情報が欲しかったので倒しました。しかし出現が分かりやすいから一対一なら勝てるというだけで、集団となったら無理です。こちらを見ていた目の数からいって500匹以上いると思っていいでしょう。大人しく肌を隠して階段を目指してください」
「今回は第六階層の階段を降りてから、食事休憩を挟んで次の階層に挑みます。それでは」
『カバーストーリー:技能について研究レポートその2』
技能には大まかに二つの分類があることが分かっている。
LVのあるノーマル技能と、LVのないユニーク技能だ。
ノーマル技能はかなりの被りが発生しているが、ユニーク技能については現在被りは確認されていない。
母数が少ないため確認できていないだけかもしれないが、レアであることには変わりないだろう。
しかしユニーク技能イコール強力な技能である訳ではない。
ユニークである故に、その殆どがどのような恩恵があるのか分からないからだ。
任意で発動できる技能ならいざ知らず、確認されている技能のほとんどは技能持ちとそうでない人間とで相対的に調べない限り、存在を確認できないからだ。
ステータスの確認できない一般人でも、調べれば特殊な技能持ちがいることだろう。
さて、説明は理解できたかな?
君たちの協力で人類はより良い未来への足掛かりを得るわけだ。
何、無事実験が終われば日常に帰れるさ。




