第8話 混迷の大陸と5つのエリア
混迷の大陸が開始されてから24時間が経った。
気の早い国は既に新大陸の入り口まで辿り着いていた。
どうやら事前参加登録の時点で部隊を展開し、試練開始の放送が来るまで海上で待機していたようだ。
新大陸は鏡面状の正方形の境界に覆われ、直接は侵入できない。
境界の付近に孤島があり、そこに白い四角の扉の付いた建物があった。
孤島は新大陸を囲むように5箇所存在している。そこが入り口になっているようだ。
まだ国のトップ同士の話し合いがなされる中、孤島の一つを中国が大艦隊で占領し、朝一番で試練資格者の一個大隊がその一つの入り口に侵入していた。
「ニュースも配信も話題の中心は中国ね……今まで注目度トップをキープしていた信也としては内心複雑かしら?」
「揶揄わないでほしいんだけど。望んで目立ってるわけじゃないし、こんな注目のされ方は嫌だ」
配信を見ながらお昼を食べてるクラスメイト達を他所に、僕らはご飯に集中している。
今日は教室でお昼を頂いていた。
マーレはどういう心境の変化か分からないけど、これからは教室で食べることにしたようだ。
元々マーレと一緒にお昼を食べていた女の子はいるけど、僕がいるからと他所に行ってしまった。
……へこむ。
「旗突き刺したな。何がしたいの?」
「自分の領土だって主張してるんじゃないか」
「今そんなことして意味あんのかな。にしても植物凄いな……花とか実とか結構映ってるけど、見覚えない気がする」
配信を見て話しこんでいる人たちを見ていると不思議な心持になる。
大体自分が映るばっかりで、他の人の配信を見ていたのは、孤独の迷宮の時くらいしかない。
ということは僕が一番見ていたのはメイアの配信ということになるな。
マーレもアーカイブが残っているのかな。ネタにされたから試しに見て揶揄ってみようか。
ご飯を食べ終えれば、マーレがタブレットを取り出して配信を見ようとしていた。
映っていたのは中国ではなくアメリカだった。
中国とは別の入り口から侵入しているようで、森の中ではなく渓谷のように高低差の激しい場所だった。
アメリカを皮切りに、次々と各国の配信が始まっていた。
「まだ話し合いしてなかった?」
「中国に釣られたのかしら。資源ポイントの取り合いで負けたら悲惨なことになるから、国際協調なんて二の次なのよ。多くの人間が事前参加登録を行った国ほど余裕がないのね」
フランスは41名事前参加登録をしている。
一応国は支援するらしいが、国際協調を軽視するほどではないようで、未だ新大陸には降り立っていない。
「こうやって自国の支援を受けないと大陸にすら辿り着けないなんて。1ヶ月の試練期間はかなり短いね」
「そうね。自国の利益を第一に考えるなら中国の動きは正解だけど、しっぺ返しが怖いわね。内外問わず」
得られる資源ポイントが足りなかった場合、試練資格者同士の戦いになりかねない。
その時ターゲットになりやすいのは分かりやすい悪役だ。
まあ、どれだけあくどくても、この時代では人が狩りの獲物になることを許容されることはないと思うけど……。
入り口が5つ、そして新大陸のエリアは今のところ同じく5つだった。
森林エリア。
中国が進むエリア。今のところ現地生物は確認できないが、植物が豊富で収穫すれば役に立つかもしれない。
渓谷エリア。
アメリカが進むエリア。植物が少なく乾いた地面のようだ。翼竜のような生物が見えるが、遠くにいて接敵はしていない。
平原エリア。
ロシアと中東諸国が進むエリア。結構な数の獣の現地生物がいる。人間を警戒しているように見えるが、まだ戦闘は起こっていない。
湿地エリア。
オーストラリアが進むエリア。水場が多く足場が悪い。既に何匹か襲い掛かって来た両性類のような生物を倒しているが、資源ポイントは持っていないようだ。一番攻撃的な場所に思える。
人口エリア。
ヨーロッパ諸国が進むエリア。他のどのエリアとも違い、明らかに文明が見える。
見渡す限り白い石畳に使途不明の塔や建造物が見える。
人が暮らしているような建造の仕方ではない。どちらかと言えば取り敢えずそれらしいものを作ってみたくらいの無計画さがある。
「信也なら何処から攻略するかしら?」
「僕だったら……人口エリアかな。知能が高い生物なら、交渉で資源ポイントを得られるかもしれないし、あんまり戦いたくはないからね」
「コミュニケーションが取れるほど相手の知能が高ければ、試練と言っても殺傷行為は非難されてもおかしくないわよね」
「うん、今は試練の地になっているけど、解放された後のことを考えれば、ちゃんと現地生物と向き合わないと」
大陸の大きさは正確には分かっていない。ただ境界の範囲で言えばオーストラリアが入るか入らないかくらいの大きさだ。
人の足で1ヶ月では、とても回り切れない。
回り切れない以前に、一ヶ月ではろくに資源ポイントなんて獲得できないのではないだろうか。
「やっぱりこの試練どう考えても…」
「何の話してるの?」
突然両肩に手を乗せられて驚く。
首を巡らせれば、瀬尾さんが顔を覗き込んでいた。
ふんわりと頬に彼女の髪が当たる。
長い睫毛の本数まで数えられそうなほど顔が近い。
肩を叩かれたり、軽いボディタッチこそそれなりにあるが、普段の瀬尾さんにしては大分距離感がおかしい。
いつもよりクラスの注目が集まるのを感じた。
「えっと、試練の話だよ。こうやって人の試練を受けてるところを見たことなかったから、物珍しくて」
「あーずっと当事者だったもんね。今まで見られた分取り返すつもりだと」
「そう言う事でもないけど、気になって」
「由佳はどうなの?あんまり気になっていないようだけど」
マーレは探るように目を細めて、瀬尾さんと僕を見ながら口を開く。
「今回の試練って難しくてよく分かんないんだよね。国の思惑というか……前までの試練は、とにかく目的を達成させることが主だったけど、今回はそうじゃないんだよね」
「そうね。国際模様が特に出ているし、試練だけで終わる話でもないわ。だから今回の試練は今後にも影響する重大な転換点と考えるべきかしら。取り返しがつかないほどの」
怖がらせるように重々しく言葉を付け足すマーレだが、僕もその意見に否はない。
瀬尾さんはうーんと唸っているが、特に何か閃いた様子はなく、マーレのタブレットと睨めっこしていた。
「この人たち大丈夫なのかな……沢山資源ポイント集めないといけないんでしょ?」
「祈るほか出来ることはないよ。挑むと決めたのは彼らだ」
「そうだよね……」
まだ何も起きていないけど、これから先はどうなのだろうか。
強力な現地生物が出現し、大量の資源ポイントを持っていた場合、世界は僕に対して何か働きかけをしてくるのだろうか。
さっさと箱庭に転移すれば問題ないだろうけど、まだ躊躇している部分もある。
僕がいなくなった後、誰に僕の代わりの役目が押し付けられるのか。
僕が帰ってきたとき、果たして人類はまだ生存できているのか。
少なくとも、この試練が終わるまでは時間の猶予はある。
そう考えていた。
「各国も動き出してきたし、情報が集まればフランスも……あら、信也は何処に行ったの?」
メリクール・マーレがタブレットから顔を上げたとき、隣には誰も居なかった。
呆然とした瀬尾由佳と、誰も座っていない椅子だけが残されていた。




