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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 混迷の大陸 黎明
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第7話 混迷の大陸と干渉



「じゃあお昼に行こうか」

「そうね、今日は肉じゃがに再挑戦したわ。牛肉じゃなくて豚肉に変えて、出汁も種類を変えたから、味も前とは違うはずよ」

「おお、楽しみ。最近マーレの料理、和食中心だね」

「折角日本の食材が手に入るんですもの。色々試したくなっちゃって」


 試練の放送の件など何処へやら、話題をお昼ご飯に移した。

 学校であれこれ話してもしょうがないし、そもそもほぼ想定通りの結果でしかなかった。

 試練期間についても1ヶ月か2ヶ月くらいと予想していたので一応当たっている。

 予想外だったのはライブ配信のブラインド機能くらいだ。

 上位観測者は隠れて悪事を働けと推奨しているのだろうか。


 僕は奏さん特製弁当を持ち、マーレは大きめの保温容器の付いたお弁当箱を持って教室を出る。


「ね、ねえ青野君、……今日は私もお邪魔してもいい?美亜と加奈も一緒に」


 瀬尾さんが話しかけてきた。

 お昼の誘いなど、前の質問大会以来ではないだろうか。マーレを見れば頷いてくれたので僕も了承した。

 三人がいるなら、ボッチ飯スポットで食べることもないので教室で頂くことにする。


「はい、どうぞ」

「有難う、いただきます。……豚肉の方が断然いいね、美味しいよ。それに出汁が……これ、一緒に買い物に行った時のパックの奴?」

「そうよ。いい値段したけど味は確かね。種類も多いしお手軽でいいわ。うん、私も豚肉の方が好きかも」


 マーレはお弁当箱の保温容器を取出し、僕と一緒に肉じゃがをつっつく。

 温かくて味が染みて旨い。

 保温容器に入れたものは僕用らしく、マーレはいつものように一口味見したくらいで、後は僕の食べる様子をニコニコと微笑みながら眺めている。

 瀬尾さんたちはお弁当を開きつつも、食べ始めることなくこちらに注目していた。


「え、と~二人は仲良しさん、なんだねぇ~」


 安藤さんが視線を迷わせつつ、何とかといったように声を掛けてくる。


「それなりに。最近一緒にいることが多いし、大分気心知れたと思うよ」

「あれだけ濃い日々を過ごせば当然よ。先週末も足腰立たなくなるまでやられたし、気絶するまで何度も攻められるし。最後は信也以外の24人も相手にさせられるし」

「いや、寧ろあれだけ気絶させたのに、何度も蘇って元気よく相手をお願いしてくるマーレに恐怖を覚えて来たんだけど。その24人も僕相手に何度果てようが直ぐ復活するし」


 琴羽が顔面崩壊するのに対して、マーレ達フランスの人たちはやる気が増していき狂気じみてくる。


「あなたの教育の賜物ね」

「あんな戦闘狂に育てた覚えはないんだけどなー……」

「あ、ああ、鍛錬の話しだよね?そんなに凄いの?」


 少し額に汗が滲んでいる張本さんが問えば、マーレが死んだ目で頷いた。


「鍛錬の時の信也は人間ではないわ。地獄の鬼すら生温い、死の恐怖を押し固めたナニカよ。何度臨死体験させられたか分からないわ。というか何回か心臓止まった人いなかったかしら?」

「取り返しのつく範囲だから大丈夫だよ。肉体面では気を遣ってるから。心は……まあ、きっと大丈夫だよ」


 戦闘脳過ぎて、少し日常に戻れるか心配な人がいるが、試練においてはプラスなのでヨシッ。


「青野君は事前参加登録してないんだよね、今回の試練に参加するの?」

「……どうだろう、フランスの考えもあるし、放送聞いたばっかりの僕にはなんとも」


 瀬尾さんの問いに正直に答えようとしたが、教室の人間が聞き耳を立てているようなので止めた。

 他国のスパイだとは思わないけど、無関係の第三者が意図せず情報を発信することはある。

 それが何処まで信憑性があるかは置いておいて、今の時期に僕関連の情報は流したくなかった。


「試練のことを由佳が気にしなくていいわ。今回は日常に影響の出るようなものでもないし、あなたの身近に参加登録した試練資格者がいるわけでもないのでしょう?」

「それは……そうだけど」


 マーレと瀬尾さんはそれなりの仲らしい。

 瀬尾さんもマーレも社交的だから、話せばすぐに仲良くなるだろう。

 マーレも瀬尾さんを一目置いているようで、他のクラスメイトよりか気安く見える。


 雑談をしつつご飯を食べ終え、お茶を飲んで和んでいると、意を決したように瀬尾さんが僕を見て来た。


「ねえ、青野君、ずっと前から言いたかったんだけど……私、あなたの家族のこと知って、っつ……」

「マーレ、やめて」

「……あなたが言うのなら」

「うっ、ゴホッ、ゴホッ……え?」


 瀬尾さんの喉に、透明な輪が絡みついていた。

 水の衣で出来たその輪が、瀬尾さんの喉に食い込み絞めつけていた。

 僕が止めた段階で霧散したが、揮発した水分がまだ瀬尾さんの周囲に留まっている。

 水の衣の部分展開が早くなったが、こんなところでお披露目しないでほしい。

 幸い目に見え辛いものであったため、この場は僕しか分からなかったようだ。

 瀬尾さん自身何が起こったのか分からず、首を押さえていた。


「由佳、言いたいことは予測が付くわ。でも誰に聞いたか、お願いされたか分からないけど、それ以上信也の問題に対して踏み込んで来るようなら」

「だからストップ、マーレ」


 頭を軽くチョップして彼女の口を閉じさせる。

 言葉は止めたが、未だ瀬尾さんから目を離さずにじんわりと戦意を燻ぶらせていた。

 やっぱり教育間違えたかもしれない。


「瀬尾さん、二人で話そう。教室で出来る話じゃなさそうだし」


 瀬尾さんが頷いたのを確認して僕らは教室を出て、中庭へと向かった。



 中庭には人がいるが、話が聞こえるほどの距離には誰もいない。

 いないがマーレには見られているし聞こえているだろう。

 

 技能、天網恢恢。


  マーレから聞いたが、これは自分の知覚を広げる技能であり、有効距離であるなら離れていても目の前にいるかのように情報が習得できる。

 千里眼の全感覚版で、距離、時間、使用する五感の数や種類によって相応の精神が消耗するので無尽蔵に使えるわけではない。

 倫理観に欠如した人間が持ったら最悪の能力ではあるが、見られている、聞かれているといったような感覚も普通に対象に与えるため、感覚の鋭い人間にとってはそれほど厄介なものではない。

 事実僕はマーレがこちらに目と耳を向けているのに気が付いている。

 

「それで話って何かな」

「……青野君の家族に聞いたの。青野君が箱庭に行くことで揉めて、お母さんに絶縁されたって。それに、青野君が家族に対してもう関わらないって答えたって。……全部本当なの?」

「本当だよ。それで、瀬尾さんは僕に何が言いたいの」

「仲直り、出来ないのかな……家族なんだよ、こんな形でお互い離れたら絶対後悔が残るよ。時間を置くほど難しくなると思う」

「………………」


 春香か、別の誰か。話しを聞いたのは本当だろうけど、仲直りを頼まれてはいなさそうだ。

 これは瀬尾さんの意思か。

 僕は青野家に対して何もアクションする気はない。青野家の安全のためでもある。

 瀬尾さんの説得は無意味だ。

 だから彼女に対して望まぬ返答をしないといけない。

 肩に重しが乗ったように、酷く億劫だった。


「私も一肌脱ぐし……ね、考えてみてくれないかな」

「……マーレ、そのまま聞いていていいから」

「え、今何か言った?」


 僕は聞こえないくらい小さく呟いた。マーレも聞いているし丁度いいだろう。

 誠意として僕の話を瀬尾さんにした。


 青野信也として生まれてから、これまでの記憶の話だ。

 ネグレクトされて両親に捨てられた記憶から始まり、施設で育ち、青野家に迎え入れられ、幼馴染と会い、どんな生活を、どんな人たちと関わって来たか。


 試練が始まり、戦い、奈落の受胎で行われた裏側の話と、僕がフランス国籍になった理由、僕がどんな立場にいるのか、何故家族と縁を切ったのか。


 家族に伝えなかった別離の理由も。

 転生のこと、記録となった青野信也の存在のこと以外の、全てを話した。


 昼休みなんてとうに終わっている。だけど話は止めなかった。

 瀬尾さんも立ち去る気配はなかった。

 ここまで言う必要もなかっただろう。彼女の重みになっただろう。

 瀬尾さんが第三者に漏らしたら、それこそ大変なことになるかもしれないけど、それは割り切っていた。


「……長々とご清聴ありがとう。これが僕の家族と仲直り出来ない理由だよ」

「……私っ………」

「無理に言葉にしなくていいよ。一方的に話したことに対して、リアクションが欲しいわけじゃないから」

「……うん」


 戸惑うというのが正しい。

 情報量の多さに、内容も感情も処理しきれていない。

 事実を淡々と話し続けていたからなおさらだろう。


「ただ知っておいてほしかったんだ。僕の行動の意味を。言葉にしないと伝わらないこともあるし、あまりこの世界に後悔を残したくないから」


 なんでここまで彼女に話してしまったのだろうか。

 自分の心は分からない。

 多分、マーレに対して持っている感情と似ているのかもしれない。

 瀬尾さんが僕のことを信じてくれているから、話しておきたかったのかもしれない。

 今はそう思う事にした。


「心配してくれて有難う、瀬尾さん。……教室に戻ろうか」


 戸惑ったまま、僕を説得する言葉を無くした瀬尾さんに背を向け校舎に戻る。

 彼女が付いてくる気配を感じながら、歩みを進めようとした。

 校舎の扉を開けたとき、体に衝撃を受けてたたらを踏む。

 こちらに走ってくる足音で分かっていたけど、そのままの勢いで突っ込んで来るとは思わなかった。

 体全部をギューと強い力で抱きしめられて身動きが取れない。

 最近変わった薔薇ではない、心地よく鼻をくすぐるレモングラスのような香りに包まれる。


「マーレまでサボっちゃ駄目でしょ」

「……難しい顔をしているわよ。あなたにはアニマルセラピーが必要なの」

「えーと、確かに人間も動物だけど、もっと自分を大切にした方がいいよ?」

「ばか……」


 抱擁を解いて、ジッとこちらを見てからマーレは朗らかに笑う。

 僕から顔を逸らして、後ろの瀬尾さんを見た。


「二人の内緒話、私は知らないけどほどほどにしないと駄目よ。私は真面目で活発なあなたを尊敬しているの。私に出来ないことを出来るあなたを」

「私なんて大したことないよ……でもありがとう、マーレ」

「どういたしまして、由佳」


 言葉の応酬はそれだけだったけど、何か別の副音声が聞こえた気がした。

 二人はお互いの言葉の意味が分かっているのか、瀬尾さんもマーレも感情が分からなくなり、精巧な仮面のようなに固い笑顔で笑い合っていた。

 なんか怖い。


 息の詰まる雰囲気の二人に囲まれて教室に戻った。

 

 サボリについては犬木先生にたっぷり怒られた。


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