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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
エピソード 混迷の大陸 黎明
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第1話 留学生と留学生



 瀬尾さんとも仲直り出来た翌日、僕はいつものように学校に通い教室へと赴く。

 胸のつかえがとれて、足取りは軽く気分も晴れやかだ。


「おはよぉ~青野君」

「おはよう」


 教室にいた安藤さんに挨拶をされた。2人はまだ来ていないようだ。少し珍しい。


「やっと青野君に話しかけられるよぉ」

「張本さんもそうだけど、二人とも律儀なんだね。友達想いというか」

「そんなこともあるかなぁ」


 瀬尾さんはともかく、安藤さんと張本さんも僕に話しかけなかったのは、瀬尾さんが仲間外れにならないようにとのことらしい。

 昨日誤解も解けたし、瀬尾さんが復活すればクラスメイトも話しかけやすくなるだろうとのことだった。


 やがて瀬尾さんたちも登校してきて、ホームルームの時間になる。

 犬木先生が教室に入って来るがいつもと様子が違う。

 何というか、疲れているような困っているような。


「おはよう、諸君。喜ばしいことに我がクラスに留学生を二人迎えることになった。青野は除いて二人だ」


 全然喜ばしくなさそうに話す犬木先生。クラスメイトもざわついている。

 こういうのは事前に連絡しないものなのだろうか。


「入ってくれ」


 犬木先生の言葉で二人が入って来る。一人は良く知っている顔だった。

 煌びやかな金髪が目を焼き、意識が数瞬現実から遠ざかった。


「初めまして、フランスから来ましたメリクール・マーレです。皆様、宜しくお願い致します」


 聞いたこともない丁寧な口調で喋るマーレ。

 楚々とした様子で相変わらずの美人っぷりを振りまいている。

 グラマラスなボディを包んだ制服の生地が泣いている。もうちょっとマシなサイズ無かったのだろうか?

 男子は見過ぎだし、その男子を見る女子の目は冷たい。

 

 同じフランス国籍なのに何も聞いてないぞ。

 僕の日常を脅かすテロだろ、これ。

 視線が僕を捉えてニコリと微笑みかけられる。

 男子がどよめいて女子から悲鳴が上がった。


「静かにしろ、もう一人いるんだぞ」


 犬木先生の言葉に声が小さくなるが、未だざわめきがやまないようだ。

 そんな空気の中でもう一人の留学生が自己紹介をする。初対面だが、この人の顔は知っていた。


「アメリカから来た、メイア・ロビンズよ。宜しく」


 朱金色の髪にバイオレットの瞳、白い肌にそばかすが散っている。

 顔はあどけなくて背も低い。ほんのり女性らしい身体つきをしてはいるが、外国人補正でも高校生とは言い難い。

 

 彼女は孤独の迷宮で初めて第七階層に到達した人物、確か12歳だったはずだ。

 そして絶縁の箱庭で大量の鉱物、物資を獲得した人物でもある。

 奈落の受胎では主だった活躍は見られなかったが、何もしていないはずはないだろう。

 そんな彼女は僕の顔を捉えて、小馬鹿にしたような表情を作る。


 二人の登場に、僕はどうか関わり合いになりませんようにとお空に祈りを捧げた。

 琴羽から組紐を余分に一本貰った方が良かったかもしれない。すぐさま千切れて使い物にならなくなるだろうけど。



「数日ぶりね、信也。ちゃんとご飯食べてる?ちゃんと眠れてる?」

「大丈夫だよ、ご飯はしっかり食べてるし、昨日はよく眠れたから」


 元々世話焼き気質なところがあるけど、些か過剰ではないだろうか。

 ホームルーム終了後、早速僕のところに来たマーレ。

 顔見知りだからしょうがないけど、他の生徒と交流して欲しい。

 話し合いや配信で、色々気まずい思いをしているは僕だけなのだろうか。

 

「信也の住まいの準備は出来ているから、今の住居に不便があったら直ぐに連絡してね」

「あ、ありがとう……それにしてもどうして留学してきたの?」


 しかも同じ学年に。年齢が1つ上だったから年上だと思っていたけど早生まれだったようだ。


「勿論信也と同じ学校に通うためよ。これでも世話役を仰せつかっているんだから当然よねっ」


 笑顔の圧が強い。嬉しそうな様子が全面的に出ているから否定の言葉を出し辛い。

 先日のフランス大使館の一件で、その役割は終わったんじゃなかったかな。

 マサムネにフルボッコだったのにハート強い。


〈相変わらず頭がお花畑な連中だな、お前たちは〉

〈フランスに助けてもらった国の……誰だったかしら?〉

〈さっき名乗った名前さえ覚えられない知性とは、流石に嘆かわしいぞ〉


 急にロビンズさんが会話に入って来た。

 二人は初めから喧嘩腰である。態々僕の机の周辺でやらないでくれないかな。

 フランス語で言葉が行き交っているから、みんな何を話しているか分からないようだ。

 

〈青野信也、貴様もなにか言ったらどうだ?言葉が分からないのか〉

〈言葉は分かるけど、女性二人の口論に首を突っ込みたがる男はいないよ。ロビンズさんだったね、これから宜しく〉

〈ああ、宜しく。私のことはただのメイアいい。面倒だし丁寧な言い回しの不要だ、私も使わない〉

〈了解、そうさせてもらうよ、メイア〉


 メイアは不敵に笑って手を差し出してくる。僕もその手を握った。

 柔らかくて武器なんて握ったことも無さそうな手だ。

 メイアの方は僕の手を握った瞬間、驚いていたようだけど直ぐに顔を元に戻した。

 マーレが不機嫌そうにメイアを見ているけど、メイアは欠片も視線を返さない。


〈ところでメイアはどうして日本に留学を?〉

〈簡単な話だ。アメリカ政府は青野信也の獲得に失敗した。私はその代案のようなものだ。勧誘できれば良し、出来なくとも友好な関係を築くようにとのお達しだ〉


 つまらなそうに言う彼女からは、不本意という感情がまざまざと見える。

 事情を隠す気はないようだ。

 

〈というわけでどうだ、アメリカに来てその力を振るってみては。はっきり言って、私が采配していれば貴様は倍の異層空間を攻略出来ていたぞ。あのように命の危険を冒さずともな〉


 そこでチャイムが鳴る。どうやら時間切れのようだ。

 メイアは肩を下げて興が削がれたように不敵な笑みを消し、自分の机に戻って行った。


〈あの女には気を付けた方が良さそうね。10歳で博士号をとった才媛、アメリカ大陸の異層空間の攻略も彼女の手腕あってのことらしいわ〉

〈そんな人を日本に留学させるなんて、アメリカは何を考えているんだろうね〉

〈どうかしら、碌なことじゃないのは確かよ。私がしっかり守ってあげないと……〉


 そう呟くマーレに若干離れたい気持ちが湧き上がって来る。

 僕としてはマーレも十分トラブルの種なんだけど。

 1限目の授業の先生が来たのでそれは言葉にならなかった。

 僕は心の中で深くため息を吐いた。




 それから時間が流れてお昼休みになり、中庭でご飯を食べている。

 今日も母さんが作ってきてくれているお弁当だ。

 奏さんはこっちで準備すると言ってくれているけど、こうやって集まる切っ掛けにもなるし、母さんが固辞しているのでそのままになっている。

 マーレが付いて来ようとしたが断固として拒否した。

 家族と会わせると絶対碌なことにならない。


「へぇ~お兄ちゃんのところに二人も留学生がねぇ。しかも一人はマーレさんって」

「なんか怪しいなあ……」


 春香と萌香が何やら考え込んでいる。

 お互い組紐を髪飾りとして使うことに落ち着いたようだ。

 今日はサイドテールの髪形になっていた。

 

「二人ともクラスに溶け込んでるよ。悪くない雰囲気だった」


 マーレは分かっていたけど、メイアは気位の高そうな態度とは裏腹に、コミュニケーション能力が抜群だった。

 性格というより、テクニックみたいに思えるけどすっかり女子に馴染んでいる。

 日本語とフランス語で言葉遣い違っていて、日本語を喋る時は少し丁寧な言葉になっている。

 

 マーレも主に女子と話すが、男子の人気が凄い。

 流石にまだ気後れされているみたいだけど、学年で注目の的になっていた。

 あれだけ美人でスタイル抜群ならさもありなん。


「明らかに信也関連よね。何を企んでいるのかしら」

「案外何も企まずに先輩と仲良くなりたいだけだったりして」

「それはないわよ、少なくともメイアという子は思惑があるでしょうね。信也君も身の回りには気を付けた方がいいわよ」

「そうですね。ほどほどに警戒しておきます。自分より頭がいい人に対してどう気を付けていいかは分かりませんけど」


 戦国時代の軍師の人とか、戦略も戦術も異次元過ぎて付いていけなかったし、僕は一般人並みの頭脳しかないのは分かり切っている。

 考えるな、感じろ。そんなものでいいだろう。


「お兄ちゃん、マーレさんにも気を付けないと駄目だよ。どこかに連れていかれちゃ駄目だよ」


 莉々が何やら真剣な顔で僕に忠告してきた。

 何だろう、特に気を付けることなんて特に無さそうだけど、莉々の中ではマーレは誘拐犯にでもなっているのだろうか。

 

「それは大丈夫だよ。フランスとは今が蜜月だし、マーレが何かしてくることはないよ」

「フルフルッ」


 そう言う事ではないようだ。

 若干みんなから呆れのような視線で見られている。


「これなら大丈夫じゃないかしら」

「そうね。ある意味、鈍感が一番の守りかもしれないわ」


 有紗さんと花音姉さんからよく分からない信頼を向けられた。

 やっぱりマーレについてはそんなに気にしなくても良さそうだ。


「あ、姉さんに渡すものがあったんだ。これを母さんに渡してくれない?僕が持っててもしょうがないし」


 布袋に包んだものを姉さんの手の上に乗せる。

 姉さんはそれを開いて、中を見て首を傾げた。

 みんなも興味あるのか集まって見ている。


「何かしら……水晶?」

「ダイヤモンドの原石。貰い物だけど、僕はアクセサリーなんてしないし。あ、これが宝石になるとは限らないからね」

「な、なんてもの学校に持ってきてるのよっ」


 姉さんは袋を閉じて辺りを見渡した。


「くじ引きみたいで面白そうだったから、元々一部はクラスメイトのお土産にしようと思ってたんだ。瀬尾さんに説教されて止めたけど」

「あの子には本当に感謝しないといけないわね……信也、正座しなさい」

「え……」


 僕の休み時間は姉さんの説教で終わった。

 目立つ場所で叱れて、とても恥ずかしかった。


 ダイヤモンドの原石は何とか渡すことが出来たのでまあいいか。

 少し肩の荷が下りた気分だ。

 

 ステータス閲覧でダイヤモンドの原石は鑑定済みだ。

 あの中のダイヤは全て宝石として相当な価値がある。

 ああいう形で渡しておけば拒否はされないと思っていたけど予想通りだった。

 金銭がどれだけ価値を保てるか分からない。資産として持っておいてもらえればいざという時に役に立つ。


 クラスメイトに渡す予定だったお土産は、瀬尾さんや姉さんに見せたものとは違い、ほとんどが宝石にならない原石だけを選んでいた。

 まさかあそこまで怒られるとは予想外だったけど。

 事情を話せないから甘んじて受けたけど、瀬尾さんを通じて世話になった瀬尾さんの母親に渡せなかったことには後悔が残る。




「青野信也」


 放課後になり帰ろうとしたが、メイアに呼び止められた。

 まだ生徒が多く残っており、注目が集まっているのが分かる。

 瀬尾さんたちが何事かと近付いて来る。


〈少し付き合わないか。貴様にとっても有益な話があるぞ〉

〈……構わないよ。場所を移そうか?〉

〈内容自体は大した機密もないから構わない。どちらにしても私たちの話の内容なんて分からないだろうからな〉


 相変わらずフランス語だしね。マーレも気になるのかメイアを観察するように眺めながら僕の傍に控える。


 メイアはタブレットを取出し、いくつかの画像を表示させた。

 僕や琴羽が映っているものだ。大体が異層空間の攻略直後のものだろうか。

 半透明の板を覗いていて、流石にその文章までは画像では読み取れない。

 こんなものいつ撮ったんだ。

 

〈二人が高難度の異層空間攻略時に何かしらの物品を獲得しているのは知っているが、ウンディーネクロス以降、そのほとんどが表に出てきていない。要は使用していないという事だ。それを私に譲渡してほしい。むろん報酬は払う〉


 エーテル結晶の話は出ないか。まあアメリカはかなりの数を確保していたはずだ。

 でも装備品などについては特に情報がない。秘匿している可能性は高いけど。

 

〈僕としては構わないけど、琴羽とも相談しないとかな。あっちはかなり嫌がると思うけど〉

〈ふむ、貴様は賛成なのか?〉

〈譲渡先が試練資格者限定ならね。戦力が増えるに越したことはない。でもふさわしい人間じゃないと渡したくはないのが本音だよ。よく切れる刀でも、担い手の実力がなければただの美術品になるだけだ〉

〈貴様の基準はなんだ〉

〈適性と精神。例えばマーレに渡したウンディーネクロスは、彼女の適性に合っているし精神も鍛える余地があった〉

〈ほお……戦士の勘か〉

〈ちょっと違うけどそう思ってもらっていい〉


 元は国家間のあれそれを考慮して報酬として渡しただけで、結果的にマーレ優秀だったという話だ。嘘も方便である。


 ところでマーレさん、どうして照れたように顔を赤くして脇腹を手で撫でてくるの?

 君は味方じゃなかったのか。こんなタイミングで物理的に笑わせようとしないでほしい。

 何を誤解したのか、瀬尾さんが怖い目で見てくるからその手を払ってメイアに向き直った。

 孫にナンパ野郎と思われていたらショックで寝込むぞ。


〈琴羽と相談して交渉の場は設ける。後はそっちで何とかしてもらってもいいかな?琴羽を説得できないならこの話はなしだ〉

〈了解した。早々にこの国に来た目的の一つが達成できそうだな、貴様の判断の速さは嫌いじゃないぞ〉


 この子、口調や内容は大人の男性みたいだけど、見掛けと声が幼い少女だからギャップが凄いな。


〈そうそう、私から一つ情報をくれてやろう。実はアメリカに対して上位観測者から接触があった。近日中に彼らが地球へ訪れるようだ。姿を見るまたとない機会だぞ〉

〈……へえ、それは楽しみだね〉


 上位観測者か……もどきなら散々見たけど、今度は本物が来るのか。

 何故だろう、嫌な予感しかしない。




 メイアとの話が終わり、瀬尾さんの追及をかわして下校した。

 学校の帰りに雑貨屋さんに寄ってもらい、形の気に入った透明なビンを買って、ダイヤモンドの原石を詰めて奏さんと一郎さんに置物としてプレゼントした。

 宝石にならないダイヤモンドの原石だと説明したけど、凄く喜んでくれた。

 瀬尾さんの言う通り、ちゃんと選んだものを渡して正解だった。さす孫。

 

 琴羽にもメイアのことを話して連絡先を渡しておいた。一応話し合いをする意思はあるみたいだけど、今は忙し身だから少し後回しにするとのことだった。

 上手くいけば、アメリカが持つ箱庭の物資を日本に提供してもらえるかもしれないので有効活用して欲しい所だけど、どうなるか僕には分からない。


 マーレのこともその流れで伝えたけど、特に気にした様子は見えなかったので安心した。

 握っていたステンレス製のタンブラーがピンポン玉くらい圧縮されたけど、笑顔だったから問題ないな、うん。うん……。

 

 

 

 そしてメイアの情報通り、三日後に上位観測者と噂のものが地球にやって来た。

 予想と違っていたのはアメリカだけではなく、日本のこの地に来てしまったことだろう。


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