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果てしなく続く物語の中で  作者: 毛井茂唯
インターミッション 白露
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第3話 お宅訪問と振り返り配信



 学校が休みの日、僕は一郎さんの運転する車で青野家を訪れていた。

 家の前では莉々が既に待っていて、僕に手を振る。


 今日莉々は日原邸にお呼ばれされている。

 日原一家は莉々のことをいたく気に入ったようで、家に呼ぶように言ってきた。

 莉々も僕が一緒ならと了承した運びとなる。

 莉々を通して、少しずつでも青野家と日原家のわだかまりが解ければいいけど。


「それでは宜しくお願いします」

「ええ、娘さんをお預かりします。なに、信也君も一緒だから何の心配もありませんよ」

「はい、それは存じています。……信也も元気そうね」

「うん、元気にやってるよ」


 挨拶に出て来た母さんの顔は暗い。

 微笑んではいるけど、心から笑えてはいないように見える。

 

 気まずい。僕のことを未だに気にしているようだ。

 この家から離れたのは、あの夜母さんから拒絶されたからじゃない、そう説明したのに。

 家を出て日原邸に向かいながら窓の外を見る。

 自分の街がどこか遠くに感じるようになった。




 日原邸につけば早速琴羽が莉々を部屋に招いて、何やらパソコンを準備していた。


「何してるの?」

「最近配信してなかったから、配信しようかなって。信也の近況も報告しとかないと日本の人達、大分じれてるよ。莉々ちゃんは配信出たい?」

「……コク」


 悩んだ末、意外にも了承していた。


「おお、信也と違って積極的だね」

「莉々を不特定多数の人間に晒すのはちょっと嫌なんだけど……」

「お面も準備してきたから大丈夫だよ。それにマサムネの声も入れようよ。莉々ちゃんと仲いいし、需要あると思うよ」

「そのお面、僕も被りた…」

「はーい、こっちに来てね、莉々ちゃんだけ」

「……」


 あれよあれよという間に決まってしまい、告知をしてから配信をスタートさせた。

 お面は被らせてもらえなかった。



「こんにちは、日原琴羽だよ、皆久しぶりだね。ドキュメンタリー放送は猫被ってたからノーカウントで」


 配信は告知から間もないのに凄い視聴者数を記録していた。

 コメントは混沌としていて何が言いたいのか分からない。


「こんにちは、青野信也です。僕も久しぶりになります、宜しくお願いします」


 僕の登場でコメントが加速するけど、やっぱりわからない。


「みんな信也の所在が気になってたよね。そこのところ今日は教えちゃう……うえ、なにこの視聴者数……」


 カウンターがえらいことになってる。日本の人口に到達してしまいそうな勢いで上昇している。配信サイト大丈夫かな。


「と、取り敢えず信也は近況教えてよ。私から言うより角が立たないから」

「うん。ちょっと前にフランスに国籍を移してますけど、今まで通り日本で高校生してます。留学扱いだから問題なしです。そんなのもかな?」

「いや、もっと語ることあるでしょ。端折り過ぎて視聴者が置いてけぼりだから」

「でも本当のこと喋ったら不味くない?日本が僕を切り捨てましたって……あっ」

「うわぁ、信也言っちゃたよ……」

「……肝心なこと言ってないからまだセーフだよ。ええと、日本と言っても僕と琴羽の旅に同行してくれた職員の人達は良い人たちだったから」

「それは事実だけど、このタイミングだとそれ以外が不味いみたいに聞こえるんだけど」


 さらに視聴者が増えてコメントがもう訳わかんない。


「そんなことより、あの誤解を解いとかないとっ」


 気合を入れ直した琴羽の様子に首を傾げる。


「フランス移籍に関しての事実無根の噂だよ。絶対誤解してる人沢山いるからっ。ここでゲスト登場です!」


 テーブルの足元に置いていたマサムネを琴羽はカメラの前に取り出す。


『本当にこんなちっこいものの向こうに人がいるのか?』

「うん、この間のテレビと同じと思っていいよ。改めて自己紹介お願い」

『おう、俺っちはマサムネっていうしがない刀で相棒の相棒でえっ!こんなもんでいいか?』

「問題ないよ。マサムネ、この間の話し合いの時みたいに信也とフランスの試練資格者のこと言ってくれない?信也が軟派者って沢山の人に誤解されているから」


 僕って軟派なの?この平凡顔のどこをどう見ればそうなるわけ?


『そういつはいけねえや。あの胸のでけぇ姉ちゃんと相棒は何でもないぜ』

「そうだよね、もっと言っていいよ」

『相棒は良く知らない娘っ子に触られんのが大の苦手なんだよ。そういうことする奴に対しては軒並み苦手意識が先に来るし、胸のでけぇ姉ちゃんは相当苦手にしていたぜ』


 おいマサムネ、全国区で僕のシャイを暴露するなよ。

 それにこの話の流れはなに、僕を辱める回なの?


「へぇ~例えばどんなところが?」

『気安く腕を組んできたり抱き着いてきたりだな。俺っちには分かるが、そういう時は体が硬直してすげえストレス受けてたな。異層空間よりきつかったんじゃないか?』

「ノーコメントで。そろそろマーレが気の毒だから止めた方が……」

「他には他には?」


 止まるきゼロの琴羽さん。何が君をそんなに駆り立てているんだい?

 物理的に口を塞ぐ事を検討しかけた次の瞬間、マサムネがとんでもない不発弾を掘り起こした。


『二回くらい頬に口づけされてたな。あの時はさしもの相棒も愕然としてたぜ。あそこまで精神にダメージを与えた存在はそうはいねえな』

「……は?口付け、二回?なにそれ……いつなの?」


 琴羽が艶消しブラックな瞳でこちらを見てくる。

 プレッシャーに喉が引きつって、思わず正座した。

 

「……バエル戦の直後に満身創痍で倒れてた時と、アメリカで異層空間に入る前です。一回目は体が動かなかったから避けられなくて、二回目は異層空間に入る直前で集中していて認識外でした」

「へえ……あの女……」


 琴羽の握りしめた拳がギチギチ鳴っている。

 怖い、琴羽に恐怖を憶えさせられる日が来るなんて。

 マサムネはなんてことを言ってしまったんだ。

 

 なんかコメントもより混迷している。控えめに言ってマーレに対して怨嗟がヤバイ。

 僕が怨嗟を向けられるなら分かるけど、これ誰が打ってるんだろ。

 もしかしたら異層空間攻略に真剣に向き合っている人たちかもしれない。世界のピンチなのに逢引きとは何事か、みたいな。

 僕は無理矢理された側だから許された流れか。


 マーレが配信見ていることなんてないと思うけど、彼女の評判に影響しないか心配になる。

 ちょっと遅かったかもしれないけど、本格的に止めた方がいいだろう。


『根性ある姉ちゃんはその点、相棒に受け入れられてるな。ぞんざいに扱ってるが、姉ちゃんに触れても拒否感ねえし、俺っちもあんたのことは認めてるぜ』


 マサムネはマイクが拾わないくらいの声で『もう一人の相棒も』と漏らした。

 そういえばテンマは琴羽に対しては、マーレさんにするようなリアクションを取っていなかった。

 触ろうとしてきたのを、逃げ回っていても何にも言わなかったのは、認めていたからなのか。

 

 琴羽はマサムネの言葉に目の光を戻して照れていた。ファインプレーだぞ、マサムネ。

 ただコメントではマーレから琴羽にターゲットが移り、別の怨嗟が溢れている。本人は毛ほども気にしていない。


「ええ~まあ、そんなことあるのかな。最近は信也も素直に……あれ、なってたかな?」

「なんで言ってて首を傾げるの。待たせてる人がいるから早く紹介しようよ」

『相棒照れてんのか?素直じゃないねぇ』

「はいはい、次のゲストは僕の妹です。顔出しNGだからお面被って貰ってます。おいで」


 カメラの後ろにいた莉々がこちらにやってくる。

 被っているのは、お祭りの出店で並んでいるキャラ物のお面で、ライダーをチョイスしていた。

 さっきのマーレの件で、仮面越しなのに眼力が凄かったけど、今は落ち着いて……ない。テーブルに隠れてカメラに映らない脇腹を抓られた。

 力が弱くて痛くないけど、非常にくすぐったい。

 

「お兄ちゃんの妹の莉々です。よろしくお願いします」


 鈴を転がすような心地よい声と共に、ぺこりと頭を下げて金の髪が零れる。

 美貌を判別できるものは殆ど隠れているはずだけど、魅了の所為か全く吸引力が変わらない。

 邪気二重防御対策がされてなかったら絶対配信に出さなかったな。


「一般人だからお面してもらってるけど、本物はビックリするくらいの美少女だよ。正直私も目じゃないレベル」


 未だ混乱しているコメントから、莉々に興味を持つものが見られるようになった。

 仮面越しで魅了の効果は減るが、無くなるわけじゃない。

 人の臨界点にある莉々レベルともなれば通らないはずがない。


「信也は莉々ちゃんを芸能界に入れたりしないの?お世辞抜きで顔だけでトップ取れるよ」

「莉々がやりたいなら応援するよ。最近は大分調子が良くなってきたからね」

「お兄ちゃんのおかげ」


 見詰めれば莉々が仮面の中で微笑んでいるような気がする。

 僕もそれに応えるように笑いかけた。


「ああ……信也お兄ちゃんだよ……」


 両頬を抑えてなんか恍惚としているけど、何を言ってんの琴羽。

 莉々も首を傾げていた。


「みんな自己紹介したけど、これから何するの?」

「ゴホン、そうだった。今日はとことん今までのエピソードとか、みんなの疑問に答えていこうと思ってたんだよ。テレビだとボク結構遠慮して喋ってたし。ゲストを呼んだのは、ボクたちとは別視点を期待してだね」

「了解、でもコメントが多すぎて、疑問を拾うの無理じゃないかな?」

「適当に話してて目に留まった奴を拾う感じでいいんじゃない?日本編では配信してたから海外編の話だね。ボク達は日本や外国の協力を取り付けて、海外の異層空間に挑みに行ったんだよね」

「そうだったね、一番最初の異層空間はフランスのルアーブルのアモンから始まって……」


 それからマサムネや莉々も交えて話し続けた。

 視点が違う二人の話に配信は盛り上がった。

 マサムネと莉々の二人が僕より盛り上げ上手であることが発覚しへこんだ。

 莉々はいいにしても刀のマサムネに負けるなんて。





「……っと、そろそろいい時間だね。これだけ喋れば皆も満足でしょ?え、毎日配信しろって、ボクも信也もそんなに暇じゃないよ。偶に気が向いたら配信するからSNSはチェックするように。うえ~莉々ちゃんのファンも沢山できちゃったね。信也から何かある?」


 確かに莉々に対してのコメントが一番多いかも。短時間でここまで他人を惹きつけるのは、きっと技能の所為ばかりではないだろう。


「じゃあ一つだけ。こんなことをしていて説得力ないですけど、僕は芸能人でも何でもないのでそっとしてもらえると有難いです。最近住んでた街で交通渋滞が起きたりして、住んでいる人たちに申し訳がないので」


「そうだよ、テレビのドキュメンタリーも仕方なく協力しただけだからね。ボクは進んで目立ってるけど、信也は目立とうとしたんじゃなくて、目立たざる得なかっただけだから、そこのところ勘違いしないでね。あんまり信也に迷惑かけると本当に日本を見限っちゃうよ」


 琴羽の脅しに、コメントはしっかりと返事をしてくれている。

 変装は取れないだろうけど、これで過ごしやすくなったのだろうか。

 

「それじゃあ、さようならっ」

「さようなら、莉々も手を振って」

「フリフリ」

『おう、元気でなっ』


 配信がちゃんと切れているのを確認して琴羽が振り返る。

 莉々もお面を外してパタパタと顔を仰いでいる。ちょっと蒸れていたようで顔が赤らんでいた。


「莉々ちゃんどうだった?」

「コクコク」

『たくさんお喋り出来て楽しかったってさ。いつもみたく緊張もしてなかったもんな』

「ふふ、ならよかった」

「どうして莉々まで配信に参加させたの?」

「折角喋れるようになったんだからさ、色々な世界があるって教えようと思って。その一環かな」


 それだけなのかな?まあ莉々が楽しんでいたならいいか。

 リビングに降りれば奏さんがおやつを準備していて、丁度飲み物の用意をしているところだった。

 配信の長話でエネルギーを使ったので有難い。


「……琴羽も考えたわね」

「そうでしょう。ちょっと想定外もあったけど。あの女……」


 何やら不穏そうな会話が聞こえてくるけど、僕は莉々と一緒にケーキを突っつき聞かないようにした。知らぬが仏という諺がある。




 それから琴羽と軽く手合わせしているところを見せたりして、莉々は終始楽しんでくれたようだ。

 琴羽が調子に乗って火の生命術使って奏さんに説教されてたけど。


 みんなで晩御飯を食べて、一郎さんの車で莉々を家まで送っていく。

 帰りは奏さんや琴羽も付いてきた。


「今日は莉々がお世話になりました」

「いいえ、本当にいい子でしたよ。信也君といい莉々ちゃんといい、紀子さんは子育てがお上手ですね。羨ましいです」

「…今、ボクのこと引き合いに出してなかった?」


 家の玄関まで送り、奏さんと琴羽が母さんに挨拶をしていた。

 普通の雰囲気と会話内容だけど、大使館での話し合いの空気を知る身としては不安感を覚えるんだよな。

 一応莉々を通じた「青野家、日原家、仲良し大作戦」は成功という事だろうか。


「じゃあまたね。おやすみ、莉々」

「お兄ちゃん、また学校で。おやすみなさい」


 ぎゅっと抱き着いて来るのをあやした。

 前みたいに必死に安心感を得ようとする溺れる子どもみたいな感じはしないけど、くっ付いてくるのは変わらないな。

 

「母さんもまたね」

「ええ、おやすみなさい、信也」


 朝より少しだけ元気になっているように見えなくもない母さんにも挨拶をして別れた。

 莉々が去っていく僕たちの車に手を大きく振っている。


「莉々ちゃんは本当にいい子ね。それに信也君にとても似ているわ」

「え、お母さんの目、節穴過ぎない?全然似てないよ。宝石と変わった形の石ころくらいの違いがあるよ」


 その例えリアル過ぎない?僕のガラスのハートがバッキバキなんだけど。


「あなたは……容姿の話ではないわ。始めて会った時から思っていたけど、雰囲気や纏う空気が近いのよ。他の家族の中で二人だけが似ているのよね……信也君は小さいときのことを覚えているかしら」

「5歳くらいなら思い出せますけど、それより古いことは分からないです」


 奏さんから顔をまじまじと見つめられている。

 幼い頃の青野信也の記憶には蓋がしてあるし、見たことないから嘘は言ってはいない。


「……あまり急ぐものでもないわね。なんでもないわ」


 何か納得したらしい隣に座る奏さんから、優しい手つきで頬を撫でられる。

 相変わらず日原家コミュニケーションはボディタッチが気安い。

 琴羽からは助手席から手を伸ばして、反対の頬っぺたをむっすりとした顔で引っ張られた。

 莉々の抓りと比べて普通に痛い。


 一郎さんがミラー越しに笑っている顔が見える。

 僕は困ったように笑い返して、日原邸への家路についた。


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