第1章 第4話 〜〜岐路
リュートの一件以来、俺の元には、次々と依頼が舞い込んできた。
俺は、師匠から受け継いだ知識と技術を駆使し、彼らの期待をはるかに超えるアイテムを次々と生み出していった。 その評判は、もはや街を越え、他の都市にまで広まりつつあった。
「アイン様、どうかこの武器に、火の魔力を付与してください!」
「アイン様、この鉱石を、より純度の高いものに精製することはできますでしょうか?」
貴族や有力な冒険者たちが、俺の工房の前に行列を作るようになった。 誰もが、俺の錬金術を「奇跡」と呼び、俺のことを「伝説の錬金術師」と呼ぶようになった。
それはただひたすらに気持ちが良かった。
一方、俺を追放した【雷鳴の剣】は、今、岐路に立たされていた。
クレアは、回復魔法の威力が上がらないことに焦りを感じていた。
「クレアの回復魔法は、もう通用しないのか……?」
パーティーメンバーからの疑念の視線が、彼女を苦しめていた。 ゼノは、武器の強化ができないことに苛立ちを隠せない。
「くそっ、この剣じゃ、もう次の依頼には挑めない……!」
そして、リーダーのアレスは、俺がいた頃には全く気にしなかった、ポーションの在庫管理や素材の調達に追われ、日々疲弊していった。実に哀れだ。
そんなある日のことだった。 俺が、ギルドで次の依頼を探していると、ある顔が視界に入った。 クレアだった。
彼女は、一人で依頼掲示板の前で、何かを悩んでいるようだった。 俺は、彼女に気づかれないように、そっとその場を離れようとした。 しかし、クレアが俺に気づいた。気づかなくていいのに。
「……アイン?」
彼女の瞳は、驚きと、そして、少しの希望を宿していた。 軽蔑の色はなかった。今までのはなんだったんだよ、図々しい。
「アイン、あなただったのね! あの時、私たちの前に現れて、リュートさんの魔法石を……」
彼女の言葉に、俺は仕方なく無言で頷いてやった。労力を使ってやったんだから感謝しろよ?
「あなた、どうしてそんな力が……?」
クレアは、涙を流しながら、そう尋ねる。 俺は、彼女に、師匠と出会ったこと、そして、その力を継承したことを話した。 クレアは、俺の話を真剣に聞き、そして、深く頷いた。
「アイン……本当に、ごめんなさい。私たちは、あなたの力を全く理解していなかった……もし、今からでも、私たちのパーティーに戻ってくれない?」
クレアの言葉は、本心から出たものだった。 彼女は、俺の力を認め、そして、必要としてれている。 しかし、俺はもう、彼らのパーティーに戻るつもりはなかった。
「……悪いが、それはできない」
俺は、静かにそう告げた。 普通に考えてそうでしょう?でもクレアは、ショックを受けた顔で、俺を見つめている。
「どうして……? 私たちは、あなたのことが、本当に必要なのよ!」
「俺は、もう、あなたたちの仲間ではない。そして、俺の力は、もうあなたたちのレベルに合わせられるものではない」
俺の言葉は、冷たく、そして、明確だった。 クレアは、何も言い返すことができず、ただその場で立ち尽くしていた
。
その日の午後、俺は、ギルドの依頼掲示板の前で、再び【雷鳴の剣】のメンバーを見かけた。 彼らは、深刻な顔で、ある依頼を話し合っていた。
【雷鳴の剣】、ランクB昇格依頼:古代遺跡の探索
古代遺跡は、強力な魔物だけでなく、様々な罠や呪いが仕掛けられている、危険な場所だ。 ランクBのパーティーでも、単独で挑むのは、無謀としか言いようがない。 俺は、彼らの会話に、静かに耳を傾けた。
「この依頼を成功させれば、俺たちのランクは、一気にBに上がる。そうすれば、俺たちの評判も、また元に戻るはずだ!」
アレスは、どこか焦っているようだった。悪いが無駄な足掻きと言わざるを得ない。
「でも、アレス、古代遺跡には、呪いの罠があるって聞いているわ……私の回復魔法が効かないかもしれない……」
クレアが、不安そうな顔で言う。
「うるさい! アインがいなくても、俺たちはやれるんだ!」
アレスは、クレアの不安を打ち消すように、声を荒げた。 ゼノも、顔には出さないが、その瞳には、恐怖の色が宿っていた。
彼らは、俺がいた頃の、あの自信に満ちた姿とは、まるで別人のようだった。 そして、彼らは、俺が通り過ぎた後、俺のことを話し始めた。
「なあ、アインの錬金術って、本当にあんなにすごいのか?」
ゼノが、アレスに尋ねる。
「……ああ」
アレスは、重い口を開いた。
「俺は、あいつが作ったポーションを、ゴミだと思ってた。だが、あいつが作った『神癒の聖水』は、聖女の回復魔法でも治せなかった、ギルドマスターの傷を治したんだ」
アレスの言葉に、ゼノとクレアは、息をのんだ。
「じゃあ、あの時、アインが作ったポーションも……?」
クレアが震える声で尋ねる。
「……ああ。あれは、どんな毒にも効く、最高の解毒剤だったらしい」
アレスは、悔しそうに顔を歪めた。 彼らは、自分たちがどれだけ大きな過ちを犯したか、今、ようやく理解したのだ。
そして、彼らは、古代遺跡の探索へと出発した。 俺は、彼らの後を追うことにした。 彼らを助けたいわけではない。
ただ、彼らがどれだけ苦しむのか、そして、どれだけ俺の力を必要とするのか、その目で確かめたかった。
俺は、彼らに俺を追放したことへの後悔を、心ゆくまで味わわせてやるつもりだった。見てる分には面白いし…
我ながら悪魔のような発想だがしょうがない。奴らこそ悪魔だ。




