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第1章 第3話 〜〜再会

 俺がギルドの専属錬金術師になったという噂は、一晩で街中に広まった。


 「伝説の錬金術師」と呼ばれ始めた俺の元には、様々な冒険者や貴族たちが、高価な素材を持って、アイテムの製作依頼に訪れるようになった。


  俺は、それらの依頼を一つずつ丁寧にこなし、錬金術師としての地位を確固たるものにしていった。

 そんなある日のことだった。


 俺は、ギルドの依頼掲示板の前で、一人の見慣れた魔術師が苛立っているのを見かけた。 あの顔は忘れもしない。彼の名前はリュート。


 彼は、自称「天才魔術師」で、いつも他の魔術師を見下していた。 [雷鳴の剣】のメンバーだった。


 俺が【雷鳴の剣】にいた頃も、俺の錬金術を「ゴミ」と笑っていた男だ。


 リュートは、依頼掲示板を叩きつけながら、苛立ちを隠せないでいた。 「くそっ! 『炎竜の鱗』なんて、高価な素材を使っても、威力が上がらないじゃないか!」


 リュートは、手に持っていた、淡い光を放つ宝石を睨みつけている。 それは、魔法の威力を一時的に高めることができる希少な魔法石だが、どうやら、期待した効果は得られていないようだ。


「……何か、お困りですか?」


 俺は、静かにリュートに声をかけた。 リュートは、俺の顔を見ると、鼻で笑った。


「なんだ、いつぞやの役立たずの錬金術師じゃないか。俺の最高の魔法石に、お前のしょぼい錬金術なんて、何の役にも立たないんだよ」


 今の俺からは彼の言葉は痛々しく思えた。


 リュートの言葉に、俺は動じなかった。 俺は、彼の手に持つ魔法石に【鑑定】スキルを使った。


  すると、その魔法石の組成、そして、込められた魔力のバランスが、俺の目にはっきりと見えた。


 それは、確かに希少な魔法石だが、魔力のバランスが崩れており、本来の力を発揮できていない。 このまま使えば、魔法の威力が上がるどころか、暴走する可能性すらあった。


「その魔法石は、魔力のバランスが崩れています。このまま使えば、魔法が暴走し、あなた自身を傷つけるかもしれませんよ」


 俺の言葉に、リュートは呆れたように笑った。


「はっ、何を言っているんだ? これは、最高の魔法石だ。俺の魔法に、文句があるのか?」


 リュートは、自慢げに魔法石を掲げ、俺を挑発するように言った。しかし俺にはわかっていた。彼より、今の俺の方が強い。


  俺は、そんな彼の態度を静かに見つめ、ただ一言、こう言った。


「その魔法石の真の力を引き出すことは、可能です。もし、俺に任せていただけるなら、ですが」


「お前が? そんなこと、できるわけないだろ!」


 俺は、懐から小さな錬金釜を取り出した。 そして、リュートの魔法石を受け取ると、そこに、師匠から教わった方法で精製した、ごく少量の「星屑の粉」を振りかけた。


 「星屑の粉」は、魔力の流れを整え、物質が持つ潜在的な力を引き出す効果がある。


 すると、魔法石は、淡い光を放ち始めた。 その光は、徐々に強さを増し、やがて、夜空に輝く星のように、眩い光を放った。


 【鑑定】スキルを使うと、魔法石の魔力バランスは完全に整い、本来の力を十全に発揮できる状態になっていた。


「な……なんだ、これは!?」


  リュートは、信じられないといった顔で、魔法石を見つめている。 彼は、震える手で魔法石を受け取ると、恐る恐る、魔法を唱えた。


「炎よ、我が敵を焼き尽くせ! フレイムバースト!」


 リュートが放った炎の魔法は、これまでの倍以上の威力を持ち、ギルドの壁を焦がした。


「ば、馬鹿な……! まさか、本当に……」


 リュートは、驚きと、そして、屈辱で顔を歪めている。


  彼は、俺を「役立たず」と見下していたが、今、俺が彼の才能を遥かに超えていることを、身をもって知ったのだ。当然の報いだな。


 俺は、リュートの反応を気にすることなく、静かにその場を後にしようとした。 その時、俺の背中に、リュートの震える声が響いた。


「待ってくれ! アイン! 俺に……俺にお前の錬金術を教えてくれ!」


 俺は、振り返らなかった。


「俺は、もう、あなたに教えることはありません」


 そう言い残し、俺はギルドの奥へと歩いていった。


 俺は、もう、誰かのために力を尽くすだけの、ただの錬金術師ではない。


  俺の力は、価値を理解し、尊重する者だけのために使う。 それが、師匠から受け継いだ、錬金術の真の力なのだから。


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