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第1章 第1話 〜〜修行

第1話です。よろしくお願いします。

師匠の手は、まるで枯れ枝のように細く、そして冷たかった。しかし、その手から伝わる確かな温もりが、俺の心に希望の光を灯してくれた。


「……お願いします。師匠」


 俺は震える声でそう言うと、師匠は弱々しく微笑んだ。


「礼などいらん。お主のその才能を、無駄にさせたくないだけじゃ」


 師匠は立ち上がろうとして、ふらりと体を揺らした。俺は慌ててその体を支える。師匠は俺に寄りかかりながら、ゆっくりと路地裏の奥へと歩き始めた。


「わしの工房は、この先にある……」


 師匠に案内されるまま、路地裏のさらに奥へ進むと、蔦に覆われた小さな扉が見えた。


 師匠がその扉に手をかざすと、扉はまるで魔法にかかったかのように、音もなく開いた。それは師匠のレベルをもの語っていた。


 中に入ると、そこは外界とは全く異なる空間だった。


 壁一面に並べられた薬草や鉱石、天井から吊り下げられた無数のフラスコ、そして部屋の中央には、見たこともないほど複雑な構造をした錬金釜が鎮座していた。


 部屋中に、独特の、しかし心地よい香りが満ちている。それは、何十年にもわたって、この場所で錬金術が研究されてきた証だった。


「ようこそ、わしの工房へ……」


 師匠はそう言って、椅子に腰を下ろすと、深く息を吐き出した。その顔は、先ほどよりもさらに蒼白になっていた。俺は急いで、持っていたポーションを師匠に渡そうとした。


「これは、さっきのポーションです。これを飲めば……」


しかし、師匠は首を横に振った。


「わしを救えるのは、お主のポーションではない。ただ、わしの知識と技術を受け継ぐ者、それだけじゃ……時間がないんだ。早くやろう…」


 その言葉に、俺は息をのんだ。師匠は、自分の命と引き換えに、俺に全てを託そうとしているのだ。


「いいか、アイン。錬金術は、ただの生産技術ではない。この世の理を解き明かし、新たな命を創造する、神の領域に最も近い術なのじゃ。蔑む輩もいるがそれは誤りだ。」


 師匠の言葉は、俺がこれまで学んできた錬金術とは、全く異なるものだった。


 俺が知る錬金術は、限られた材料から、定められた手順でしかアイテムを作れない、単純な作業だった。恥ずかしくなる。


 しかし、師匠の言葉は、まるで宇宙の真理を語っているかのようだった。


「……まずは、この書物を読むのじゃ」


 そう言って、師匠は分厚い古書を俺に差し出した。表紙には、見慣れない文字で「万象の錬金術」と書かれている。


「それは、この世の全ての物質の根源と、その組成を記した書物じゃ。これを理解せねば、錬金術師として、次には進めん」


 俺は、師匠の言葉通り、書物を開いた。そこには、俺が今まで見たこともないような、複雑な数式や記号、そして、この世界の全ての元素記号が記されていた。俺は、夢中でその書物を読み進めた。


 それは、まるで、これまで白黒だった世界に、色がついていくような感覚だった。ポーションの作り方、解毒剤の成分、魔法薬の調合法……。


 これまでの常識が、全て覆されていく。なぜ、あのポーションは万能なのか? なぜ、クレアの回復魔法は俺のポーションより速いのか? その答えが、全てこの書物に記されていた。


 俺は、来る日も来る日も、工房にこもり、ひたすら書物を読み漁り、師匠から教えを請うた。師匠は、俺のどんな質問にも丁寧に答え、俺の理解が深まるように、何度も繰り返し説明してくれた。


 そして師匠は、俺にこう言った。


「錬金術師に最も必要なのは、知識と経験。そして、何よりも……探求心じゃ」


 そして師匠は、俺が持つ【鑑定】のスキルが、どれほど貴重なものかを教えてくれた。【鑑定】は、物の価値や性能を調べるだけのスキルだと思っていた。


 しかし、師匠は言った。


「【鑑定】は、ただの道具ではない。それは、この世界の真理を見通す、神の眼じゃ。お主は、そのスキルを使いこなせていなかっただけじゃ」


 師匠の言葉を信じ、俺は【鑑定】スキルを使いこなすための訓練を始めた。最初は何の変化もなかったが、何日も何週間も、ただひたすらに一つの物質を鑑定し続けた。


 すると、ある日、今まで見えなかった情報が見えるようになった。


 それは、鉱石の組成、元素の含有量、そして、その鉱石が持つ潜在的な力。俺は、今まで見ていたものが、どれほど表面的なものだったかを思い知った。


「……すごい」


 俺がそう呟くと、師匠は満足そうに、そして何より嬉しそうに微笑んだ。


「いいか、アイン。どんな錬金術も、この世界に存在する物質を組み替えているにすぎん。そして、最も重要なのは、その物質が持つ真の力を引き出すことじゃ」


 気づけばここに来てから早くも2年が経っていた。


 この頃には師匠はもう立つのも辛そうだった。それでも俺のために錬金術の説明をする師匠の姿が俺の成長をさらに加速させたように思う。


 ある日、自分の死期を悟ったのか、師匠は、俺に最後の試練を与えた。


 それは、ただの石ころを、魔法の素材に変えること。師匠からの卒業試験だった。


「そんなこと、できるんですか?」


 俺が尋ねると、師匠はただ静かに頷いた。


「この世に、無駄なものなどない。全ての物質には、何かしらの潜在的な力がある。それを引き出すのが、錬金術師の真の力じゃ」


 俺は、師匠の言葉を胸に、錬金釜の前に立った。ただの石ころを、どうすれば魔法の素材に変えられるのか。


 俺は、師匠から教わった知識と、【鑑定】スキルを駆使して、石ころの組成を分析し、その潜在的な力を探った。


 何時間も、何日も、失敗を繰り返した。爆発させたり、異臭を放つ液体を作ってしまったり。それでも、師匠は何も言わず、ただ静かに俺を見守ってくれた。


 それは応援にも、無言のプレッシャーにも感じられた。


 そして、ついに、俺の錬金釜から、淡い光が放たれた。恐る恐る中を覗き込むと、そこには、まるで星屑を閉じ込めたかのような、美しい宝石が浮かんでいた。


「できた……!」


 俺は、その宝石を手に取った。【鑑定】スキルを使うと、その宝石は「星屑の石」と表示された。この石は、魔法の威力を大幅に高める効果を持つ、希少な素材だ。


 ただ、ただ、嬉しかった。 


 俺は、歓喜の声をあげて師匠を振り返った。しかし、師匠は、俺が成功したことを見て、安堵したように、そして、少し寂しそうに微笑んでいた。


「……アイン。お主の旅は、まだ始まったばかりじゃ」

 そういうと師匠の瞳は、俺を慈しむように見つめながら、静かに光を失っていった。


  俺は、師匠のそばに駆け寄ろうとした。 しかし、師匠は、か細い声で、俺を制した。


「もう、わしに教えることは何もない。お主は、もう、わしを超えた。この腐り切った世界を、お主の力で変えるのじゃ……」


 師匠の体は、俺の目の前で、淡い光の粒となって、ゆっくりと消えていった。師匠が座っていた椅子には、何も残っていなかった。


 俺は、ただ静かに、その光景を見つめていた。涙が、とめどなく溢れてきた。 

「師匠……!」


 俺は、また一人になった。しかし、もう、前のように寂しくはなかった。


 俺の中には、師匠から受け継いだ、途方もない知識と技術がある。そして、この工房も、俺のものだ。


 俺は、師匠の遺志を継ぎ、錬金術の真の力を証明するために、再びこの街へ、そして、世界へと旅立つことを決意した。俺はもう、ただの「役立たず」ではない。


 この世界を変える、伝説の錬金術師、アインなのだ。


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