図書室で叫んでしまった
今日は金曜日 しろかえでの“ドキドキ”金曜ドラマシリーズです!
HRが終わって帰り支度をしているタイミングで義母からスタンプ付きのメッセが入った。
『ごめんなさい!夜勤に入る事になってしまったの 今日は隼人さんも出張だから お夕飯は悠耀と二人分でお願い。というか、悠耀の胃袋を掴めるよう頑張ってね!』
『ガンバレ!』と可愛く弾んでいるスタンプは私の鼓動まで弾ませる。
私に対する義母の“くすぐり”はいつもこんな感じで……私はその度に頬を染め、『もぉ~!どっちがJKなんだよ!』と心の中で独り言ちているのだけど……
「奏っち、今日暇?」とこのタイミングで瞳ンから声を掛けられ、ドキン!とする。
「ゴメン! 今日、おかーさんが夜勤になって、私が晩御飯作らなきゃだから……」
この私の“返しに”
「そっかー大変だね! また遊び行こーね!」と手をフリフリしながら瞳ンはスクバを肩に掛けて教室を出て行った。その一連の動作に合わせてポニテされたサラサラ髪が揺れる……
可愛い!!
瞳ンはいい子だし、私は瞳ンの事、本当に好きなのだけど……恋のライバルなんだよなあ……瞳ンには言えないけど……
真面に張り合ったら私には到底勝ち目はないけれど、私は義兄と“ひとつ屋根の下”なのだから……ここは義母が言う通り『頑張らなきゃ!』だよなあ……
瞳ンが私を誘ったと言う事は……彼女は今日の図書委員じゃない。
一方、義兄は昨晩、「明日は図書委員だから」って言ってたから……
これから図書室へ押し掛けよう!!
--------------------------------------------------------------------
図書委員の席に義兄は居なかったので書架の“迷路”へ突入した。きっとどこかに居る筈だ。
幸い、図書室は静かなので耳を澄ませてカートを動かす音を探ってみる。
あっちだ!
“くノ一”になった私は音を頼りに迷路を縫って行くと……愛しい背中が見えた。
「大木くん!」と呼んでみたけど、この抑えた声では義兄の耳には届かなかった様だ。
「!」と悪戯心ができた私は忍び足で近付き、書架に本を戻している義兄の背中に声を掛けた。
「手伝おうか?」
義兄の手がビクン!となって書架に載せようとした本が暴れた。
「ああ、ビックリした!」と囁く義兄に
「兄さんのビックリした顔って面白い!」と、声を抑えたクスクス笑いで返した。
「兄さん??」
「だって『大木くん』って他人行儀で呼ぶとお母さんが悲しむんだもん!」
「でも、今は学校の中だよ」
「いいじゃん! ひそひそ話なんだから」
「キミはいいかもしれないけど……」
私は……悠耀くんが発したこの言葉に打ちのめされた。
彼にとっての私は……やっぱりウザい存在なのだ。
『キミ』って言葉は冷たいし……『いいかもしれないけど』は突き放す時に言う言葉だ。
悠耀くんはきっと……瞳ンにはこんな言い方はしないのだろう。
バカな私……
お義母さんから少しばかり“受け入れられた”からって!
悠耀くんもそう思っている訳じゃないって!
ちょっと考えれば分かる事じゃん!
すっかり舞い上がっていた!
でも私達はこれからもひとつ屋根の下に居なきゃいけないのだから……
せめて私が『ふざけて冗談の度が過ぎた』事にしなきゃ!
「ちょっと!『キミ』って酷くない? 可愛い“妹”が、せっかく『兄さん』って呼んでるんだから、他に呼び方があるでしょ?」
「図書室だから静かにしなきゃ!」
「静かにしてるわよ」
「まだ声が大きいよ」
「だったら私だけに届く声で囁いてよ」
「何を?」
「私をなんて呼ぶかを」
悠耀くんは私から顔を背けてため息をついた。
私は……心の中で大泣きしているけど……ちょっとお道化た素振りで「ほらほら言ってみな!」と彼の口元に耳を寄せた。
少しの間の沈黙と躊躇いの息継ぎの後、私の耳朶を打った言葉は
「……奏……」
「ひゃい!!」
ひっくり返った私の声が図書室に響き、悠耀くんは私の頭を抱いて書架の陰に身を屈めた。
あああ!!!
不意打ちで名前を呼ばれて
恥ずかしい事をしてしまった!!
でも……このドキドキしてるのは私の鼓動??
そう……じゃない。
頬で鼓動を感じているのだから……
私の両手は……いつの間にか彼の背中に回っていた。
そして心の中で……『悠耀!』って繰り返し叫んでいた。
おしまい
このお話は 拙作「義兄のいる風景」 https://ncode.syosetu.com/n4287jp/
のスピンオフです。
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!