プロローグ
小説書くのクソむずい!!!
ー1 2 3 4 5 6 7 8。
リズミカルな音楽に合わせて進んでいく展開。次々と流れるように変わっていくフォーメーション。激しい動きに対応して震えるポンポン。煌めくような選手たちの笑顔。
ー信じられない。
一肢乱れぬ動き。レベルの高いテクニックをノーミスでクリアしていくその姿に中島久來は今までに感じたことのない興奮をその顔に湛えていた。
ー私も、この人達みたいに踊りたい!
久來が7年間抱いて来た夢、「全国大会出場」という目標は中学校第3学年という最後の年に晴れて叶うこととなった。今までの7年間の努力、その総決算であると久來は考えていた。
しかし、全国大会にて待ち受けていたものはさらなる高みであった。地方の大会とはあまりに隔絶したレベルの差に久來は思う、こんな世界があることをもっと早く知りたかったと。
「「「わああああ!!!」」」
一際大きな歓声が上がる。高揚に浸りきっていた久來はあわてて視線をアリーナへ向ける。あれはどこのチームだ、見覚えがない。なぜこんな歓声が?
ああ、あの子だ。あのセンターの子。
「あの子一体何回回るの!?」
「すげえキレッキレ。体力どうなってん?」
「てか綺麗な子ねーあの子。」
「てか優勝きまりじゃん。」
永遠に続くとも思えるソロのターン。足の爪先からアームモーションに至るまで全てが完璧な位置に置かれ、回り続けているのにも関わらずその姿は一つの静止した芸術作品のように思えた。
僅かにも乱れることのない正確なアームモーションは、チアダンスにおける人間の可能性の到達点であるように感じられた。
チームメイトや付添の保護者達はこぞってセンターに釘付けであった。普段は偉そうに他チームを批評する仲の良いチームメイトのみっちゃんも手放しで称賛するほどの圧倒的花。
チームスポーツであるチアダンスにとって、個人の踊りがこのように影響力を持ち、チーム全体の雰囲気、レベルを底上げするのは、たしかに異常なことであった。
無論、久來も例に漏れることなく歓声を漏らす。しかし、
ーあの子、なんで笑っていないの?
久來は気付いた、センターの子が一切表情を変えていないことに。その無表情は恐ろしく整った美貌も相まって、どこか作り物めいた人形のようであった。久來はそれに気づいてから、このチームの演技に熱を入れ込んで鑑賞することが出来なくなっていた。
どこか欠けている演技、見ていて綺麗だとは思うが、それ以上なにかを思うこともない。
表彰式で結果が発表されていく。会場の高ぶりは最高潮であった。
自らのチームの名前が呼ばれて泣き崩れるもの。満面の笑みで応援席に向かって手を振るもの。既に発表が行われた部門のチームが仲間と抱き合い悔し涙を流している風景。ぽっと出の久來たちには
勿論どれも縁が無いものであった。
勿論久來たちのチームの名が呼ばれるようなことはなく、中学生部門の順位発表も大台の三位以内へと
さしかかっていた。
「それでは上位三チームの発表に移ります!」
審査員の元気な声に似合わず、会場には緊張の雰囲気が漂って来ていた。会場にいるほとんどの人々は優勝はあのセンターがいるチームであると思っていた。
「第2位、宇羅チアダンススクール shine!!」
その瞬間、会場にどよめきがはしった。それもそのはず、Shineとはあのセンターのチームである。
久來はその子の表情を遠巻きに伺う。
無表情。
何を考えているのか読み取れない。その子は副キャプテンらしき人物と一緒に前へ出て、賞状をもらい、応援席に顔を向けることなく戻っていったのであった。