1.捨てられた盗賊
ハーレム設定じゃない、異世界物を書きたくて書いてみました。
楽しんでいただけたらありがたい。
──撤収!
乱戦の中、リーダーの声が聞こえた。
俺は、遥か後方の二人の専属人夫の撤収を確認してから、胸元から硬貨状の魔道具に魔力を込める。
視界の端では、同じく転移の魔道具を使用した仲間達が黄色い光を伴いながら消えていく。
──んっ?
……転移……しない…………。
もう一度魔力を込める。
不具合か?
いや、ちゃんと魔力が入り、起動している。
考えられるのは──転移先の魔法陣の設定がされていない?
ミス?
いや、嵌められたか…………。
リーダーのクリスじゃあないだろう。
フゥンドゥマンか……。あのクソ神父!
……死ぬ?
腹に刺さったままの短剣。
内蔵までいってるな。
不意をつかれて刺された。
抜いたら出血による確実な死が訪れる。
死んでたまるか!
俺を嵌めた奴…………に………………。
夥しい死骸の中。
◇
俺がいたクランは、【白銀の騎士】といい、聖剣士であるクリスを中心とする、西グランデ地域最強と云われるクラン。
クリスをメインとし、盾役の重騎士、切込役の双剣士、魔法役の魔法士、回復役の女司祭、そして、斥候役の盗賊である俺の六人がメイングループ。メイングループの交代要員である十二人がサブグループ。その他の錬金術師、鍛冶師、服飾師、調理師、事務方達をバックアップグループとしており、見習いを入れると五十人を超えるクランだ。
そもそも、盗賊職は、斥候として冒険者パーティには不可欠な職ではあったが、名前からして好かれる職種ではない。イメージから、斥候能力は低いが狩人職を入れるパーティもいるくらいだ。
実際、クラン【白銀の騎士】の上部団体である教会は、盗賊職を嫌っていた節もあった。
その上、最近、魔法使い(ソーサラー)のサーシャがSearchの魔法を覚えた。
サーシャというのは、メイングループの魔法士。攻撃魔法に特化していたが、今回の遠征でSearchの魔法を取得した。サーチは、ダンジョン内の罠を見抜く魔法で、先に覚えていたMappingの魔法と合わせて、俺の斥候の役割はカバーされた訳だ。
ちなみに、サブグループの魔法士二人もSearchとMappingを持っているので、何処をとっても斥候役は不要。
「ゴメンね、ヒックスチャック。私がSearchを覚えたばっかりにぃ……」
魔法を覚えた時、小柄なサーシャは申し訳なさそうな顔で言っていた。
俺の居場所を奪ってしまうことになるのを悪いと思っていたのだろう。
クリスは、何も言わなかった。
リーダーであるクリスは、使える者は使うし、使えない者は使わない。実に合理的な奴だ。付き合いの古さとかでメンバーを考える奴じゃない。
クリスがまだ初級職の剣士だった頃からの付き合いだが、クランを設立して聖剣士になったくらいから、合理主義が顕著になった気がする。
クリスが何も言わないから、クランの中で俺の役割はまだ有るんだと考えていた。
脳筋で重騎士のマルクは、『筋肉をつけて攻撃力を上げれば良い』なんて事を言いながら、胸筋を揺らしている。
マルクも、クリスとサーシャ同様に昔からの付き合いだ。
「俺達は、教会の駒だからな。役が無くなったらお払い箱、出来ることをするしかない」
理屈屋な双剣士のタリバースは、そんな事を言っていた。空気を読まないところがあるタリバースとは、まだ一年ちょいの付き合いだが、気心は知れている。
全く空気を読まないのが爆乳女司祭のクリザレーテ。
「ヒックスチャックに神の御慈悲を……」
ってな感じで祈りをあげている。
俺は、死んでもいないし、罪を冒した訳でもない。ましてや、まだクビになってもいない──のに、何故祈る?
わかっている。
よくわかっていた。
このクランがクリスの為だけに創られたクランであり、クリスは教会の教えのまま、魔王討伐の為だけに動いている。仲間は魔王討伐に必要な駒で、そこに個人的な感情は無い。今迄も色んな奴が戦力不足でクビになったり、死んでいくのを見てきた。でも、まさか自分がクビ候補に上がるなんて……。
そして、魔王城に一人。
考えても無駄か。
俺は二十六にして、人生の岐路に立たされていた。
岐路?──死地か…………。
今、鼓動が止まろうとしている。
◇
── Warker's Knife 起動 ──
───── 所有者確認 ─────
──── job適性確認 ────
──── job クリア ────
──── 種族適性確認中 ────
──── 種族ノットクリア ───
────── ERROR ──────
── 生体反応低下 ─ 低下 ──
── 外部魔石ニヨル復元作業 ──
── 復元作業中………………………… ──
── ……………復元作業中…………… ──
── ………………………復元作業中… ──
─────────── ERROR ─
◇
冒険者ギルドに行ってみたこともある。
二十六才の初級職の盗賊に需要があるのか確認したかったからだ。
冒険者ギルド。
来るのは七年ぶりか。【白銀の騎士】がパーティー(冒険者と運搬人夫からなる八人以下の集団)で活動していた時はよく来ていたが、パーティーからクラン(冒険者、専属人夫及び、事務方等の非冒険人で形成される十五人以上の集団であり、国王、領主、教皇、冒険者ギルド総長いづれかの認可を受けたもの)になってからは、事務方に任せっきりになっていた。
久しぶりの冒険者ギルドは相変わらずであったが、職員に見知った顔はいない。
「あれ、【白銀の騎士】の奴じゃないか?」
「何だって、ギルドにいるんだ??」
「あの年で盗賊の?」
「最強クラン?でも初級職だろ?」
「教会クランの?魔王軍にちょっかいだしてる?」
「異教徒は死ねって奴らだろ?」
色んな声がする。
殆どが好奇と皮肉の言葉だ。
中には一人くらい直接言ってくる奴もいる。
「お前、【白銀の騎士】の奴だよな。今さらどうした? クビにでもなったか?」
大柄で禿頭の男。
無視を決め込むと、散々軽口を言った後、根性無しが、と捨てゼリフを吐いて消えていった。
嫌われているのは理解できる。
一口にクランといっても、認可の受け先によって特徴がある。
・冒険者ギルド総長による認可
一般に【クラン】と呼ばれる、最も多いクラン。
採取、討伐、護衛など、活動は自由。
・領主による認可
【領クラン】と呼ばれる。
基本的に一領に一クラン。
[クラン]から選ばれる。
領主と懇意である場合が多い。
領内の防備を任される事がある。
・国王による認可
【城クラン】と呼ばれる。
[クラン]、[領クラン]から選ばれる。
最も栄誉あるクラン。
賢者、君主などの特殊上級職を持つ。
・教皇による認可
【教会クラン】と呼ばれる。
[クラン]から選ばれる事はない。
教会に認められたパーティと信徒により形成。
教会の遊撃隊とも言われる。
他のクランとの関係性が薄い特殊なクラン。
『聖』のつく特殊上級職がある。
因みに、【白銀の騎士】は教会クラン。
どのクランも、冒険者ギルドに登録されているはずなのに、【教会クラン】は嫌われてるんだよな。
暫く冒険者ギルドで様子を見て、斥候の必要性は分かった。それでもいつかは不要とされるだろう。所詮、魔法士に取って代わられる運命。
それに、個人戦闘力の低い盗賊職。早々に攻撃力のある上級職になっておかないと、戦力的にも足を引っ張るのは見えている。そこまでわかった上で、敢えて上級職にチェンジしなかった奴なんて、俺くらいのものか…………。
個人戦闘力のある上級職に変わるにしても、悪漢か暗殺者。今更なんだよな。なんで、盗賊の上位職って、まさに悪党ってかんじなんだろう。まぁ、盗賊自体からしてイメージ悪いし…………。
「やっぱり、ここに来てもどうしようもなかったか……」
昔通り、クラン設立する前みたいに、仲間とワイワイガヤガヤとやっていた普通の冒険者に戻れるなんて、無理な話だった。
◇
──── 種族情報 変更 ────
──── Mingle Mingle ───
─── ingredients 情報 ───
─── 死体解析 コボルト ───
─── 魔石解析 夜魔種 ────
─── 死体解析 オーガ種 ───
─── 魔石解析 コボルト ───
─── 魔石解析 夜魔種 ────
─── 死体解析 夜魔種 ────
─── 復元 ── 修正 ────
──── 種族mix 魔族化 ───
何処かから声がしている。
遠い?
近い?
俺の中?
ありがとうございます。