第九話
その後のことは、はっきり言ってほとんど覚えていない…………なんて言えたら楽だったんだが、残念なことにそんな漫画のような俺に都合の良いことはおきず、全てはっきり覚えてる。
珍しく怜がずっと下を向いていた。夕日のせいで定かじゃあないが、恐らく照れていたんだろうな。
そして、どっちからともなく作った飯を食ったあと、風呂に入り、その後は、寝室で背を向けて寝た。
……いや、少なくとも俺は背を向けていたの方が、正しいな。
怜はもしかしたらこっち向いていたかもしれないからな。
まあでも、多分背を向けていただろう。
そして次の記憶は、見慣れた天井だった。
「朝か……」
俺は少し憂鬱な気分でリビングにいく。
ちなみに、既に昼だった。
「おお、お、おはよう、昨日は、そ、その、あの、あれだ、あれ」
完全に動揺してるな。
「お、おお、おはよう、き、昨日は、その、えーっと、なんていうか、あれだな、あれ」
ああ、俺もだな。
その後、2人で黙りこくり、飯を食った。
いつもは美味しいのに、今日は味がしなかったな。
まあ当然っちゃあ当然だが。
そのあと、2人でソファの端っこに座って、何もせずただじっとしていた。
もちろん、両端に。
あーあ、気まずい気まずい。
何であんなことしちゃったのか。
暫くそんな時間が続いた。
まあそりゃそうだ。俺は当然として、怜も多分恋愛経験0だろうから、こんな時なんて言えばいいのかわからないんだ。
だが、そんな時間を壊すように、怜が口を開く。
「なあ、慎也、昨日の、その、あれは…………そういう、ことで、いいんだよな?」
『そういうこと』、これで伝わるんだから、日本語って便利だな。
うーん……
「ああ、えっ……と、昨日のは、その、すまん。何と言うか、怜が消えちゃいそうな、居なくなっちゃいそうな、突然そんな気がして、気付いたら、その、抱きしめてた。だから、多分、怜の言うそういうことって訳ではない、と、思う」
しどろもどろながら説明をする。
怜の顔が、悲しいような、驚いたような、ほっとしたような、そんな変な表情を浮かび上がらせた。
何の感情だ?
「そうか、それなら、いい」
果たして、何がいいのだろうか?
「とりあえず、これで、その、誤解?は、解けた、訳だ」
怜は笑顔を浮かべた。
昨日までの、見慣れた子供らしさの残る笑顔だ。
「まあ、そうだな」
自分の心を見ると、もう既に気まずさを忘れていた。
人間って便利だな。
その後は、普通に過ごした。
家にいるのが好きな人間2人の休日の過ごし方って言えば、伝わるだろう。
各々適当に好きなことを好きなようにやる、そんな過ごし方。
互いにほとんど干渉せず、好き勝手に色んなことをする。
そんな、ある人は勿体無いと言い、ある人は贅沢だと言う時間を過ごした。
気付いたら、カラスの声とヒグラシの声が聞こえてくる時間になった。
俺たちは、一日中家にいることに対する軽い罪悪感から、近くの公園まで散歩した。
人はまばらで、幸か不幸か知人は居なかった。
俺は木製のベンチに腰掛けて、怜はその目の前にある小さなブランコを楽しそうに漕ぐ。
「やっぱり、子供だな」
「何か、言ったか?」
かなり小さな声で言ったつもりだったんだが。
その後、ブランコに飽きた怜は一、ニ回滑り台を滑った。
そして、俺たちは、来る時よりも隠れた太陽の中、家までの道を横並びで歩いた。
家に着いたのは午後6:42、俺たちは夕飯として、炒飯を作り始めた。
大体二十分程度で完成させた。
それを皿に盛り付け、テーブルに並べる。
俺たちは向かい合って、その出来立ての炒飯を食べる。
昼と違って、味がするな。美味しい。
その後、夜のいつもの事務(洗濯やら入浴やらなんやら)をこなして、寝室に行く。
いつもの如く、新品の布団が占領されていた。
……おかしいな、怜がここですでに横たわっているのも、すでに当たり前になりつつあるな。
まだこいつが来て数日とかなのに。
はてさて、いつになったら帰るのか。
まあどうせ帰るつもりなんか無いだろうが。
「おお、慎也、ようやくか」
ものすごい笑顔で怜が出迎えた。
ようやくかじゃねえよ、今まで洗い物とかしてたんだよ。怜が手伝わないから1人で。
何故か夜寝る時は早々に寝室に入るんだよな、こいつ。
まあいいか、寝よう。
俺が布団に潜り込むと、示し合わせたかのように、怜は俺の腕の上に頭を乗せる。
ニヒヒと怜が笑顔を見せる。
なんか……癪だが、ちょっとドキドキするな。
いや、昨日のあれのせいに違いない。きっとそうだ。そうじゃなきゃこんなやつ相手にこんなドキドキするはずがない。
「じゃあ、また、明日な、慎也」
真っ直ぐな目を向けて、怜はそう言った。
「ああ、お休み」
……『お休み』の『す』くらいで眠りに入ったな、こいつ。
まあもうなにが起きても驚かないさ。
はー、長い一日だった。
俺も早く寝よう。
ひっさしっぶりー!
なんてね、明るく言えるはずもなくですよ、はい。
ちょっとねー、色々やりたいことがあってなかなか出せなかったわけですわ。申し訳ない。
今回の話もまあ短いし。
今後はね、もっと出していきたいね。待ってる人が居るかどうかは置いといて。
実を言うと、この物語、ほんとは短編のはずだったんだよね。
だけど、途中でやりたいことがたくさん出てきて、気付いたらここまで来てたんだよねえ、おー怖い怖い。
そして更にね、この話で終わらせようかなーとも思ってたわけ。
でもね、まあ、察しの通りまだまだやりたいことがあってね、多分暫くは続くんじゃないかなあ、知らないけど。
じゃあまあとりあえず、まったねー!