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秘密売り場の少女  作者: 和音
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第十三話

……蝉の鳴き声が聞こえるな。

珍しい、目覚ましより前に起きたぞ。

そうか、じいちゃんの家だから、怜が気をつかってむやみやたらに俺を起こさないのか。

「んーーー」

やっぱりいいな、人工音でなく自然な音で起きるのも。今日も今日とて暑いが。

えーっと、ほんでもって今何時だ?

6:04……早起きする癖がついちゃってるなもう。怜が来る前まではもっと不健康な時間に起きていたものだが。

ふと横を見ると、怜が本を読んでいた。

きっと祖父の家に置いてあるやつだろう。じいちゃん読書家だからな。

「ん、おお、慎也、起きたか、早いな」

パタンっと本を閉じる。

俺の知らない表紙だ。まだ俺の見たことのない本がこの家にあったのか。

……いや、普通に考えりゃ、最近買った本なんだろうな。


「おお慎也、おはようさん。さっと朝飯作ったから、怜ちゃんと一緒に食っとってくれ」

寝ぼけ眼で部屋に入ると、祖父がスーツを着て黒い鞄に何かを入れていた。何かの準備をしているのだろう。

祖父の指さすちゃぶ台の上には、白米が入ったおひつと、二つのお椀に入った味噌汁が置かれている。

「儂はちょいと急用があって、今から出かけなくてはならなくてな。鍵はかけなくていいし、食器も別にそのままでいいから。ああそうだ、帰るのは夜、下手すれば明日になるから、儂のことは待ってないでお前たちの好きな時に帰って良いぞ。じゃあ、また来年」

バタバタと、祖父は慌ただしそうに家を飛び出た。

「いってらっしゃーい!」

顔は前に向けたまま、祖父はカバンを持ってない方の手でグーサインを作り、掲げた。

何かの発表か、或いは昨日言ってた研究に関することか。まあ、どちらにせよ俺にはちんぷんかんぷんだが。

それにしても、急いでいるだろうにこれだけのものを作ってくれたのか、感謝の気持ちが溢れるな。



「ご馳走様でした」

あー、美味しかった。怜と作る料理も美味いが、これも同じくらい美味いな。

やはり、人に作ってもらってるからだろうか。

俺より後に食事を始めた怜は、流石にまだ食べている途中か。

さてと、じいちゃんは別に洗わなくていいと言っていたが、そうはいってもこの暑さだ。このまま置いておくのも良くなさそうだし、片付けくらいはしておこうか。

そう思って食器を台所に持っていくと、

「私も、手伝うぞ」

いつの間にか後ろにいた怜が、勝手に俺の心を読み、そういった。

ついさっきまで白米頬張ってたのに、もう食い終わったのか。早いな。


「うん、まあ、こんなもんだろ」

少し気合を入れ過ぎた、皿が光って見えるぞ。

「さて、慎也、そろそろ、帰るか」

まだ全然午前中なので、一瞬早いなと思ったが、確かに特にやることも無くなったしな。

泉にも行ったし、祖母にも会った。

ついでに食器も洗った。

ちょっと名残惜しい気もするが、まあ祖父が帰って来るのを待つには、少し遅いからな、今年はこれで充分だろう。

「そうだな、そろそろ帰るとするか」

俺たちは、荷物をまとめて家を出た。

祖父は、ここいらの人とは顔見知りらしく、家の鍵はかけないほうがむしろいいと、昔聞かされたことがある。恐らくだが、差し入れなり何なりがあったりするのだろう。

というわけで、俺たちは鍵をかけずに、祖父母の暮らす家を出た。

それにしても、果たしてこいつは来年もついて来るのだろうか。まあ、じいちゃんとも顔見知りになってしまったし、十中八九来るんだろうな。別に好きにすれば良いが。



「あ、そうだ、慎也、少し、店に、寄っても、いいか?」

怜がそう言ったのは、俺たちが駅に着く少し前のことだった。

今時刻は11:14、時間はあるし、特にこの後も明日も予定はない。

だが、

「あー、んー、別にいいが、ここら辺は特に特産品も何もないぞ。てか、誰に渡す奴だ?」

そう、この辺りには、特筆すべきものはなにもない。別に栄えていない訳でもないにも関わらず、だ。

こんなとこで何を買うのかと思ったが、怜は、わかってないなーといった顔で、わざとらしく顔を左右に振った。

ムカつくな。

「何か、記念に、なるものを、買った方が、いいだろう?」

そういうと、怜は近くにある、今にも潰れそうな土産屋に入って行った。

まあ、何もないとはいえ、ちょっとしたお菓子くらいはあるだろ。俺も何か買うかな。



「…………ほんとに、なにも、ないな」

怜は棚を見ながらそう言った。

失礼な奴だなと思ったが、実際、特に面白そうなものはない。

強いていうなら、どこでも売ってそうなお菓子と、ただ地域名をつけただけのありふれたキーホルダーがあるが、まあ、それだけだ。

「な、言ったろ?」

「む、私は、別に、特別な物を、求めてる、訳では、ないからな」

そういうと、二つのプラスチック製のキーホルダーを持って、レジに向かった。

さて、俺はこのコンビニでも買えそうなお菓子でも買うか。


「さて、慎也」店を出てすぐ、怜が口を開いた。「このまま、帰るか?それとも、何処かで、何か、食べてからに、するか?」

時刻は11:31、ちょいと昼食には早い気もするが、まあ、店を探してる間に良い時間になるだろ。

「せっかくだし、食って帰るか」

怜がニヒヒとあどけない笑顔を咲かす。

「私も、同じ、考えだ」

その後、俺らは空いている飲食店探しに一時間近くかけ、結局、全国展開しているファミリーチェーン店で食事をとった。当たり前に美味かった。



「たーいまー」

と、誰もいない部屋に向けて声を発する。

当然返事はなく、ただ無人の空間に声がこだまする。

祖父の家から帰る途中の、誰にあげるわけでもないお土産選びと、昼食、特に飲食店選びに少し時間がかかり過ぎたようで、あたりはすっかり暗くなっている。

腹が減っているので、怜と、帰る途中駅で買った弁当を食べた。


んで、さっと風呂入ってすぐに寝た。

ちょいとそこまで外出するだけで疲労する俺にとっては毎年大変な1日だが、今年は怜が横にいたからか、まあ、疲れるどころか少し楽しかったな。

で、当の怜はもう夢の中で泳いでいる。

いつもなら違和感を覚えるほどの速度だが、今日は納得できる。

こいつも外出苦手なやつなんだろ。少なくとも、外なら家の方が好きなはずだ。今までの行動を鑑みるに。

だから、きっとこいつも相当疲れてるはずだ。

いつもなら右腕に頭を乗せて眠るこいつに多少のムカつきを感じるのだが、今日はあまり感じないな。まあ、俺も疲れてるから0って訳ではいるが。

さて、こんなこと考えてないで俺も寝るか。

お久しぶりです。

久方ぶりに第一話を読み返したら、大分文体が変わってる気がして、人間を感じた所存で御座います。

では、またいずれ。

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