第一話
新しい連載ものです。
まだまだ初心者なので至らぬ点もあるかと思いますが、あしからず。
俺は慎也。最上慎也。高校1年生。
今俺の通ってる高校で、ある噂が流れている。
秘密売り場。
俺が通ってる学校を出て左に曲がって、しばらく進んだとこにある、荒れ果てたビルの三階、つまり最上階にそれは存在するらしい。
俺はまだ訪れたことはないが、何人も実際に行ってみて、しっかりと誰かの秘密を貰ったというのだ。
まあ、その秘密というのは、誰々は誰々のことが好きだとかいう、いかにも青春といったものなのだが。
そんなことはおいといて、俺はその秘密売り場とやらにとても興味が湧いた。
だから、今日学校が終わったら、すぐに行こうと決めていたのだ。
そして現在、俺の目の前には、今はもう使われていないはずのビルがある。
言うまでもなく、秘密売り場があるというビルだ。
閑古鳥すら呆れ果ててどっかに飛んでいってしまうほど、ボロい。
何故取り壊しがされないのか分からないほど、老朽化が進んでいる。
ビルの中に足を踏み入れる。
あちらこちらにガラスやらなんやらが散乱していて、かなり危険だ。
よくもまあこんなとこに店を構えようと思ったなと、普通の感性をしていたら感じるだろう。それほど、このビルは人を招くのに向いていない。
ビルの真ん中に、上へと続く階段があった。所々床が抜けている。
その壊れそうな階段を一段一段慎重に踏み締め、三階まで上がっていく。
ギシギシという音が、俺の心臓を震え上がらせる。
当然電気などついていない。昼間なのに薄暗い。
1階から2階へ、そして、2階から3階へと上がり、前を向いた時、俺の目に薄ぼんやりとした明かりが飛び込んできた。
天井がない場所の下を避けるかのように、それは奥の方にあった。
秘密売り場だ。
並べられた2、3の机には紙が下げられており、『秘密売り場』と書かれていた。天井から下げられた紫のカーテンは、占いの館と聞いて最初に思い浮かべるような、そんな雰囲気を作り出していた。
そんな、いかにも怪しい店がそこにはあった。
いや、店と呼ぶにはあまりに簡素な作りで、街中にあったらゴミかなんかと勘違いする人も出てくるレベルで、前情報無しの完全初見で店だとわかる人はほぼいないだろう。
良く言えば機能性重視、悪く言えば手抜きの店だ。
「いらっしゃい」
俺が、そんな、言葉を選ばずに言えば悪趣味な店をじっと見ていると、机の奥から声がした。
「お前は、誰の、何が、知りたいんだ?」
その声は、特徴的な話し方のその声は、ゆっくりと俺に問いかけた。
女だ。
深々と被ったフードのせいで顔は見えないが、声は若く聞こえる。いや、年寄りにも聞こえる。不思議な声だ。
「……なんでもいいのか?」
俺が少し躊躇った後に聞くと、
「なんでもは、駄目だ。できないことは、当然にある」
と、すぐにゆっくりとした声が返ってきた。
確か他のやつの話だと、恋愛についてしか教えてくれないらしい。
「そうじゃなくて、誰でもいいのか?」
俺がもう一度そう確かめると、
「ああ、なんだ、そういうことか。ああ、もちろん。誰でもいい」
と、そいつは言った。
「なら、俺は、俺が誰を好きなのかが知りたい。できるか?」
そう聞くと、しばしの沈黙が流れた。
「……できなくは、ない。が、本当に、それで、良いのか?」
「……どういうことだ?」
俺はその女に聞く。
「自分で、分からぬのか?お前が、誰を、好きなのか。それに、一度頼むと、二度と、ここには、来られない」
「構わない。俺は誰のことを好いているのか分からないんだ。今までだって、誰かを好きになったことがない。不安で仕方ないんだ。俺に人の心は無いんじゃないかって。だから、それが分かるなら、俺はもう二度とここに訪れられなくなっても構わない」
「……そうか、分かった」
そう言って、その女は俺に近寄ってきた。
「ふむふむ……なるほど、なるほど……確かに、お前は、今まで、誰かを好いたことが、ないのだな」
しばらく俺のことをフード越しに見た後、そう言った。
なぜわかったのか分からないが、
「……そうか」
俺は少し悲しくなった。
「お前は、たったの一度も、誰かに、好意を寄せたことが、ないのだな」
「はっ、哀れだろ?」
俺はつい自嘲する。
予想通りだが、悲しいものはやっぱり悲しいもんだな。
「哀れ?何がだ?」
その女は、首を少し傾けて聞いてきた。
「私だって、今の今まで、好意を持ったことが、一度たりともない。お前は、私が、哀れに、見えるか?」
「いや、見えないけど……」
そもそも会ってまだ十分程度しか経ってないし。
「そうだろう?お前も、私と、同じだ」
その女はそう言った。
「ただ、お前が、哀れだと、思うなら、私が、手伝ってやろう」
女は、そう言って、ずいっと俺に近づいてきた。
「お前、私に、恋をしろ」
「…………へ?」
意味がわからなかった。
『私に恋をしろ』だ?
なんだそれは。
自意識過剰にも程がある。
「……冗談だよな?」
「冗談では、ない。私は、いたって、真面目だ」
大真面目な顔をして、そいつは俺の顔を見る(フードのせいで本当に見てるかどうかはわからないが)。
「いやいやいやいや!お前聞いただろ?俺は一度たりとも恋をしたことがないんだって!そんな奴が初対面のやつに恋をすると思うか?」
「なら、初対面じゃ、なくなれば良い」
そう言って、その頭のおかしい提案をしてきた女は、ようやく深々と被っていたフードを脱いだ。
「私の名は、畏怖羅、怜だ。これから、よろしくな、最上、慎也」
名前を名乗った覚えはないのだが。
畏怖羅怜と名乗るそいつは、金髪で、青い目をした、小柄な、外国人のような少女だった。
肌は透き通るかのように白く、人間味がなかった。
フードで背丈を誤魔化していたらしい。想像していたより小さい。
「あ、ああ、よ、よろしく……」
はっきり言って、そいつは綺麗な見た目をしていた(一目惚れをするほどではなかったが)。
天井から差した陽光が、金色の髪を更に輝かせ、更に美しく見せたのだろう。
まあとにかく、俺はこいつ以外と恋人にはなれないんだな。
「ああ、俺の青春もここまでか……」
俺が嘆くと、
「なにを、言っている。お前は、これから、私と、恋人に、なるのだぞ。喜ぶべきだ」
と、自信満々な声が否定した。
どこまでも自意識過剰だ。
俺がこの女、畏怖羅怜に恋するまで、この話は終わらないだろう。
そう俺は直感した。
少女の名前は「いふら れい」と読みます。
ルビあった方が良いのは知ってるけど、無い方が綺麗に見えるから入れないのでここに書きました。
それはそれとして、読んでくれてありがとうございます!
辛辣でも感想を書いてくれると嬉しいです!
じゃ、またいつか!