窓から見ていた世界
この世界では様々な役職がある。
〈戦士〉〈魔法使い〉〈武闘家〉…
その中でも最も人気なのが〈勇者〉である。
誰もが一度は憧れる夢の役職だ。
神に選ばれた人間のみが動くことができるが主人公はなんとNPC。
外の世界はきっと楽しいのだろう。
某RPGゲームのようなこの世界に俺が生まれてから約1年。
生まれてからと言っても赤ん坊の頃の記憶はない。
なぜなら俺は…
この世界の〈NPC〉だからだ!
どうやらこの世界には神がいるらしく、選ばれた人間のみが自由に動けるようだ。
NPCでも村人Aのようなものなら話しかけられることはあるようだが俺は話しかけられたことは一度もない。
全員が通り過ぎるような家の中にいるからだ。家の中では自由に動くことはできるが、することが無さすぎて死んでしまいそうだ。
俺だって外の世界を自由に動き回りたい。俺だって勇者になることができれば、…いや無理だろう。
役職につけるのは神に選ばれた人間だけなのだから。
こんな事を考えても無駄だな。することも無いし、明日も何も予定はないが今日はもう寝よう。
明日もまたつまらない、変わらない一日がすぎるだけだ。そう思いながら眠りについた。
翌朝、目が覚めるとまだ夢の中なのかと思った。
目の前でいかにも初期装備のフルコース男が俺の家の壁に突撃を繰り返している。
「は?……なに…してるんですか。大丈夫ですか。」
俺の声は聞こえていないのか、返事がない。ずっと壁に突撃を繰り返している。
日も暮れ始めたが永遠と突撃を繰り返している男を俺は見ていることしかできなかった。
さすがに気持ち悪いのでやめるよう注意しようかと考えていると男は突撃をやめた。
「やっぱりこの方法じゃ無理かな。」
男はそう言うと俺の家から出ていった。
おそらく裏技かバグ技を使おうとしていたのだろうか。
今までバグ技や裏技を使うプレイヤーは何人か見たことがある。しかし、こんなやり方は見たことも聞いたこともない。
なんだったんだろう。
初期装備男の意味不明な行動に理解ができなかった。
ん?なんだこれは。
おそらく初期装備男の持ち物であろう宝石が落ちていた。
初期装備男の姿はまだ見える。届けに行こうと思ったが、俺は家から出られない。
俺は自分の無力さに悲しくなった。
初期装備男の姿が見えなくなった頃、なぜ壁に突撃し続けていたのか気になった。
壁には何の装飾もしていない普通の壁のはずだが…
俺は壁を触れてみると驚くことに手が壁をすり抜けた。
「?!!…どうなってるんだ。」
ゆっくりと全身を壁からすり抜けてみた。
そこにはいつも窓から見ることしかできなかった景色、建物、人がいた。
夢か。また夢を見ているのか。そう思った。