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第四十三話 看病

 その後、菊花(きっか)香樹(こうじゅ)はそれぞれの部屋へ運ばれた。

 といっても、香樹が菊花と離れたくないと年甲斐もなく駄々をこねたため、菊花の部屋は香樹の部屋の隣である。


 夾蓮花(きょうれんか)の毒の影響で、菊花は三日三晩寝込んだ。

 声帯を使えなくする毒もリリーベルが薬で中和してくれたが、こちらは効果が出るまでしばらくかかるらしい。


 その間の香樹はと言えば、リリーベルが呆れるくらいの強靭(きょうじん)さで、翌日には自ら菊花の看病をするくらいまでには回復していた。

 菊花が施した一か八かの早期治療が功を奏したのもあるのだろう。


 表向きは療養とされているが、実際にはちっとも休んでいない。

 四六時中菊花のそばにいて、寝込む彼女を甲斐甲斐しく世話していた。


 とはいえ、香樹は看病などしたこともない。

 慣れない手つきで懸命に菊花に何かしてやろうとする姿は滑稽だが、愛に満ちている。


「まるで子どもみたいに無邪気に笑うねぇ」


「あの方も、あどけない顔をするのですね」


 扉の隙間からこっそりとその様子を窺っていたリリーベルと登月(とうげつ)は、同じタイミングでつぶやいて、苦笑いを浮かべながら互いに顔を見合わせた。


 扉の向こうでは、ドンガラガッシャンと何かをひっくり返した音がしている。

 それから、謝る香樹の声と、まだ本調子ではない菊花の掠れた笑い声も。


 心の中で「陛下、がんばれ」と声援を送りながら、二人はそっと扉を閉めた。


 廊下に出ると、騒がしい音が聞こえてくる。

 蛇晶(じゃしょう)帝の後宮をあとにする、宮女候補たちが里帰りの準備をしているのだ。


「なぁ、登月」


「なんですか、リリーベル様」


「私は夫に会いたくなってしまったよ」


「では、そろそろお帰りになるのですか?」


「そうだねぇ。かわいい妹の声が戻るまではと思っていたけれど、仲睦まじい二人を見ていたら、無性に会いたくなってしまってね。もうだいぶ回復しているし、そろそろ良いかとも思っている」


「寂しくなりますね」


「それは本心かい? ちっとも感情が篭もっていないけれど」


「寂しくなるのは菊花ですから」


「なるほど」


 それなら納得だと、リリーベルはカラカラと笑った。


 まもなく、ここは取り壊される。

 蛇晶帝の後宮が解体されることで、蛇香(じゃこう)帝の新たな後宮が完成するのだ。


 遠い()の国の方を見つめて、リリーベルは愛しい夫の名をつぶやいた。


読んでくださり、ありがとうございます。

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