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第四十二話 抵抗

 ふっと意識が浮上する。

 目を覚ました香樹(こうじゅ)は、傍らで倒れ伏している菊花(きっか)を見て青ざめた。


「菊花!」


 抱き起こし、息を確かめる。

 微かに上下する胸に安心したのもつかの間、周囲を見回し状況を把握した彼は、このままでは菊花が危ないと慌てて抱き上げた。


「しっかりしろ。頼むから、私を一人にするな」


 幸い、この部屋のことはよく知っていた。

 にわかの蘭瑛(らんえい)よりも、ずっとくわしく。


 この部屋は、毒で満たされてから一定時間が経過しないと開閉できないようになっている。

 使用される毒は非常に特殊で、ある一定の高さまでしか満たされない。背の高い者、あるいは何かに上がりさえすれば、助かる仕組みになっていた。


 香樹はすぐさま菊花を担ぎ上げると、椅子に上がった。

 菊花の顔が天井近くにいくよう、できる限り持ち上げる。


「もうすぐの辛抱だからな」


 宥めるように背中をたたくと、微かな反応が返ってくる。

 自らへ言い聞かせるように菊花を激励しながら、香樹は部屋の扉が開錠されるのを待った。


柚安(ゆあん)なら、合図に気がつくはずだ」


 待つだけしかできない自分が、歯がゆかった。


 万全を期したつもりだったのに、この体たらく。

 いっそのこと死んでしまいたいくらいだったが、菊花だけは死なせたくない。


 香樹は菊花の無事だけを祈りながら、永遠にも思える時間を耐えた。


 どれくらい、そうしていただろう。

 やがて仕掛けは毒を吐き終え、霧が晴れるように消え去っていく。

 見計らったかのように、柚安は入室してきた。


「……意外と元気そうですね?」


「菊花のおかげでな。兄の毒で白梅草(はくばいそう)を中和させたようだ」


「へぇ……やりますね」


「それより、菊花は夾蓮花(きょうれんか)の毒を注射されたようだ。中和剤はあるか?」


「もちろん」


 柚安はすばやく準備をすると、慣れた手つきで菊花に中和剤を注射した。

 おそらく数日は寝込むでしょうと告げながら、まくった袖を直す。


「そちらはどうなった?」


 香樹は床へあぐらをかくと、股の間に菊花を座らせながら柚安を見た。

 その様は、命の次に大事にしているおもちゃを取られそうになっている子どものようで、柚安はひょいと肩を竦ませる。


「そんなに警戒しなくても、菊花様を取ったりしないって。僕にはこわくてかわいい妻がいますからねぇ……で、こっちですが。問題なく片付きましたよ。(こう)蘭瑛(らんえい)、並びに娘の珠瑛(しゅえい)はすでに捕らえ、牢にぶち込んである。(しゅ)紅葉(こうよう)(りょく)桜桃(おうとう)もね」


「リリーベルの方は?」


「黄家屋敷の地下より、白い紅梅草を見つけたそうだ。リリーベル様が確認したところ、皇族殺害に使用された毒と完全に一致」


「そうか」


「黄家屋敷は今頃、火だるまですよ。残っていた使用人が火を放ったのだとか」


「証拠隠滅を図ったか」


「でしょうね。でも、問題ない。証拠は全て、そろっている」


 すべて、あなたの望むままに。

 そう言って、柚安は胸に手を当て仰々しく頭を下げた。


「そうか」


 何を考えているのだろうか。

 香樹は菊花の乱れた髪を撫でつけながら、どこを見るでもなく視線を彷徨(さまよ)わせている。

 その顔は、安心したような、しかし寂しそうな表情をしていた。


 黄父娘は捕まり、屋敷は燃やされた。

 これから、どうなるのか。


 皇族を殺すなど、大罪だ。

 法に(のっと)るのならば、主犯は処刑。一族は財産を奪われ、大小の違いはあれど肉刑に処される。


 近い未来、菊花は少なからず心を痛めるだろう。

 そのことを思うと、香樹は少しだけ胸が苦しくなるのだった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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