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第三十一話 疑問

「でもねぇ……私、まだ疑問があるのよ」


 毎夜お馴染みの柚安(ゆあん)とのお茶会で、菊花(きっか)は工芸茶を淹れながら言った。


 今夜のお茶は、花籠という名前のお茶らしい。

 緑茶と薔薇、菊と金盞花(きんせんか)の工芸茶である。


 厨房からくすねてきた饅頭をほお張りながら、柚安が首をかしげた。


「ひほん? はんへふ?」


「どうして蘭瑛(らんえい)様は、自分の娘を宮女候補に送り込んだのかしら。殺したいほど憎い相手の嫁にするなんて、気が狂っているとしか思えないのだけれど」


 柚安は考え込みながら、饅頭を咀嚼し、ごくんと飲み込んだ。


「狂っているのでしょう。それ以外に考えられることですと……そうですねぇ……乗っ取り、でしょうか」


「乗っ取り?」


「憎くて仕方がなかった男を殺し、自分と血のつながった孫が皇帝になる。孫が幼く、(まつりごと)も行えないような年齢だったら、後見人として権威を振りかざせます。それは、自身が皇帝になったも同然。自分のものになるはずだった女を奪った、憎い男の位を乗っ取る……と。僕だったら、そう考えます」


「でもさ、その場合、憎い男の血も流れているわけでしょう?」


 茶を三つの茶杯に注ぎ入れながら、菊花はますます分からないと困惑の表情を浮かべた。

 差し出された茶杯を受け取りながら、今夜初参加となったリリーベルが「ふむ」と考え込む。


「こうは考えられない? 好きな女と結ばれなかった哀れな男は、自分の娘と好いた女の息子を(つが)わせて、自分の代わりにする……というのは」


 それはそれで、なかなかに気持ち悪い。

 平気な顔で毒殺する男に、そんな乙女な一面があるかと思うと、笑うに笑えない。


 引き攣るほおをごまかすように饅頭を口に放り込んだ菊花に、リリーベルは苦く笑い返した。


「まぁ、理由はなんであれ、罪を犯したら償うのが道理だ。ところで菊花、お茶会の準備は進んでいるかい?」


「ああ、はい。リリーベル様のおかげで、滞りなく」


 菊花の茶会は、()の国式のお茶会を予定している。

 天涯孤独の身の上の彼女を心配したリリーベルが、協力を申し出たのだ。


 戌の国で茶会は、アフタヌーンティーと呼ばれているそうだ。

 三段重ねの皿に軽食や菓子を並べ、紅茶を提供するらしい。


 当日は、菊花自ら厨房で菓子を焼く予定だ。

 今は、こっそりと菓子作りの特訓中である。

 ドレスの採寸はもう済ませているので、試食でサイズアップしないように必死だったりする。


「そうか、それは良かった。私が懇意にしている仕立屋でドレスを仕立ててもらっているから、衣装については安心して。茶葉やティーセットも、もうじき国から届く」


「何から何まで、ありがとうございます」


「ああもう。そんなに畏まらなくて良いんだよ? 私のことは姉だと思って、遠慮なく甘えてほしい」


「姉、ですか?」


「うん、そう。これから私たちは長い付き合いになるだろうからね。ほら、言ってごらん? おねえさまって」


「……リリーベルおねえさま?」


「っっ! なんというか、新しい扉が開きそうだね!」


 楽しげに笑いながら頭を撫でてくるリリーベルに、菊花もつられるように笑う。

 楽しそうにはしゃぐ二人に置いてけぼりを食らったような顔で柚安は寂しそうにしていたが、ほどなく二人に絡まれ始める。


 こうして楽しい夜は、にぎやかに更けていくのであった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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