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第三十話 告知

 香樹(こうじゅ)蛇晶(じゃしょう)帝、登月(とうげつ)とリリーベル、それから菊花(きっか)を交えての話し合いから半月が経った。

 何度も対話を重ね、香樹は茶会を──つまり、自身や菊花を(おとり)にして、(こう)家屋敷を捜索することを決めた。





 講堂へ集められた宮女候補たちを前に、宦官の落陽(らくよう)は鼻息も荒く宣言した。


「宮女候補の最終選考の内容が決まった!」


 ざわり。

 そう多くない宮女候補たちが、顔に喜色を浮かべる。


 当然だろう。

 これでようやく、長かった宮女候補生活が終わるのだから。


 その先へ続く道は、妃への道か、それとも故郷への帰り道か。

 どちらにしても、故郷へ錦を飾れるだろう。

 最終選考に残っているということは、それだけの価値があるという証明になる。


(今日は随分、声が響くわね)


 でっぷりとした腹を揺らし、落陽は試験内容を読み上げている。

 彼の大きな声は、講堂の天井でウワンウワンと反響しているようだった。


 後宮へ初めて来た時、講堂の中にはあふれんばかりに美女や美少女たちが居たというのに、今では数えるほどしかいない。

 講堂がやけに広く感じるのは、今まで人が多かったせいなのだろう。


 菊花は、中央付近の席に座る珠瑛(しゅえい)を盗み見た。

 真っすぐに背を伸ばした、凛とした佇まい。射干玉(ぬばたま)色の髪は結い上げられ、さらけ出された細い首が艶めかしい。


 見えないけれど、その顔はきっと自信満々な表情を浮かべているに違いない。

 先程から、訳知り顔の落陽のニヤケ具合がひどいから。


 珠瑛の隣の席には、距離を置いていたはずの紅葉(こうよう)がいて、親しげに話しかけている。


 おそらく、紅葉の生家である(しゅ)家は、黄家についたのだろう。

 傍観の時期を終え、おもねることにしたようだ。


(朱家は、私を殺しに来た武官を都に呼び寄せたのだものね)


 菊花の暗殺は失敗に終わり、朱家は何を土産にその傘下へ下ったのだろう。


(紅葉が珠瑛の取り巻きに戻るだけでは、割に合わないだろうし)


 菊花は首をかしげながら、落陽の話に耳を傾けた。


「これよりひと月後、後宮の庭を開放し、茶会を開催する。そこで各々の一族が一丸となって、趣向を凝らした茶会で皇帝陛下をもてなすのだ。最も陛下を楽しませた一族の娘が、正妃となる」


 本来、後宮は皇帝陛下以外男子禁制であるが、この茶会の間だけは例外である。

 正妃が決まれば、蛇晶帝の後宮であったここは取り壊される。母との思い出が残るこの場所を、華やかな思い出で終わりにしたい──というのが蛇香(じゃこう)帝からのお言葉らしい。


 蛇香帝の母、華香(かこう)が産後すぐに亡くなっているのは周知の事実である。

 母を早くに亡くし、後宮に残る母の面影を頼りに寂しい幼少期を過ごしていたであろう、かわいそうな蛇香帝を想った宮女候補は、そっと涙を拭った。


 もちろん、菊花は事実を知っているので泣いたりはしない。

 それに、お母さんの代わりになろうと頑張っていた菊花にあんなことをする男が、母恋しさに後宮を彷徨(さまよ)い歩くなんてことをするわけがない。

 彼はなかなかに、ふてぶてしい男なのだ。


(くぅぅ。思い出したら、恥ずかしいやら腹が立つやら……! でも、それでも香樹から離れようと思わない私も、きっと同罪だわ)


 寝台(ベッド)の上でされた恥ずかしいあれこれを思い出さないように、習ったばかりの異国の数式を思い出しながら、菊花は落陽が語る素晴らしい茶会とやらの演説を右から左に聞き流したのだった。


読んでくださり、ありがとうございます。

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