マシン・ディーヴァ
ホウェル王の宣言から翌朝、俺は先生に呼ばれて、とある部屋に入るとそこには先生とバトルフェルドとホウェル王がいた。
「先生、命令を」
「あぁ…お前は今から明日出発する部隊より先行してセイラと一緒にアレスに向かってもらう」
「了解。それじゃあ行ってきます」
「おいおいおい!用件は終わってないぞ!」
「…何ですか」
先生からの命令を遂行すべく、行動に移そうとするとバトルフェルドに止められた。まだ言うことがあるらしく、三人の方に振り返る。そうしたら、ホウェル王は懐から一つの封筒が出て、それを渡された。
「これをアレスの王に渡して欲しい」
「わかりました」
「ディバイス、今から出発する前に、お前に使ってほしいものがある。出発地点の北門にソレと説明する弟子がいるから、ちゃんと説明を聞いて使いなさい」
「了解」
ホウェル王から封筒を預かると、先生から俺に新しい装備があるらしく、しかもソレは下手な扱いをしたら駄目なようだ。
「見送りはアリシアがする。無事を祈るぞ、ディバイス」
「わかりました」
三人に礼をした俺は命令を遂行すべく出発地点の北門に向かうとそこにはセイラとアリシアと先生の弟子がいた。そばには先生の言っていた使ってほしいモノがあり、今は布で覆われている。
「ディバイスさん!お待ちしていました!これが先生の新作です!」
そう言って先生の弟子が布を剥がすと、そこに現れたのは、“縦に長く、両端には車輪が一つずつ付いていて、白いラインが入った黒いボディのマシン”だった。
「これは“マシン・ディーヴァ”、ディバイスさん専用の長距離を移動するために作られた“アーキタイプモデル”です。セイラさんにも説明しましたが、最大二人まで乗れるので、ディバイスさんが操縦して、セイラさんはディバイスさんの後ろに掴まって乗ってもらいます」
「うむ」
そう言っている間にマシン・ディーヴァの持ち手を掴むと、頭の中にマシン・ディーヴァの扱い方の情報がゆっくりと入ってきた。20秒程かかると情報が完結したのでセイラに話しかける。
「それじゃあ、行こっか」
「承知した。アリシア王女、行って参ります」
「気をつけてね」
セイラは俺の後ろに乗り、振り落とされない様にがっちりと脇を通して腹部の前で手を組んだ。それを認識した俺はマシン・ディーヴァのエンジンをかけてハンドルを回し前へ走らせた。
「クッ…凄く速いな…気を抜いたらあっという間に落ちそうだ…」
セイラは小声で言うが、これでも四割のパワーでしか走っていない。俺の方は前方から体全体に風を感じて気持ちがいいくらいだ。そうしてアレスに向かっている間に昼になったので、一度停めて共同作業して昼食を済ませた後だった。
「さて、ディバイス、昨日の事を覚えているか?」
「うん、駆け引きの特訓でしょ?」
セイラの発言にそう返す。すると次の瞬間、セイラの鋭い蹴りが飛んできた。俺はそれをバック宙で大きく距離を取り躱す。そうか──
「訓練は既に始まっている。早く構えないと…こうだ!」
「(来る!)」
セイラは水の剣を生成して斬撃を飛ばしてくる。
「【Saber】」
こちらも魔力の剣を生成して斬撃を弾く。
「これで終わりじゃないぞ!」
「ッ!」
更に攻めてくるセイラの動きに段々と勢いがついてきて、こちらは防御に徹するしかなかった。
「戦う時は相手の目を常に見ろ!そして次に何を仕掛けてくるか、行動するのかを予測するんだ!」
「!」
セイラのアドバイスを聞いた俺はそれを迅速に理解してすぐさま動きに適応する。
「(相手の目を見て…次の行動を予測する…)」
「遅いっ!」
「ッ! ゼアッ!!」
「ッ!? な、何!?」
セイラは俺の動きが遅くなった瞬間を狙って攻撃してきたが、それを紙一重で躱し、カウンターを叩き込んだ。
「…やはり、凄まじいな」
「何が?」
「私のアドバイスをすぐに動きに反映させたことだ。普通の人ではそんなこと出来ないぞ」
そう言われても俺は出来ることをやっただけに過ぎない。
「だが、やられてばかりではいかん! 行くぞ!」
「来い」
こうして始まる剣裁、さっきのアドバイスのお陰で思考と動きがスムーズになって戦いやすくなった。
「ふっ! はっ!」
「(うん…段々わかってきた)」
相手の目を見て、状況を把握し、次の行動を予測して、動きを最適化する。頭の中でそれらが単純化されて、体が簡単に動く。
「(ここで、こうして…こう)」
思考を体に反映させて相手に合わせて行動する。
「【Gravity】」
「グッ!?」
まだ彼女には見せていない【魔術暗号】で動きを止めて、セイラの首元に剣を突きつける。
「…参った」
「俺の勝ち」
「あぁ、お前の勝ちだ」
セイラが敗北を認めたので、俺は【魔術暗号】を解く。空を見上げてみれば、太陽はもう沈みかけている。
「今日はもう、ここで休もう。寝るのも戦士の任務だ」
「わかった。早速、準備しよう」
意見が一致したので、テントを建てて寝るスペースを作り、そこで目を閉じた。