新たな戦いの予感
「…さて、やっと安全になったので情報共有といきましょう、アリシア王女。まず我々についてからお話ししましょう…実は──」
先生は安全を確認したら、後の操縦を先生の弟子に任せて、アリシア王女と船長室で話し始めた。それと今の俺の役目は敵の襲撃に備えて待機することである。幾らこの船で混沌派の船や魔物を探知出来ても攻撃手段が無いので、戦闘になったら俺が対処するしか無いのだ。
「──お分かり頂けたでしょうか?」
「…はい。ありがとうございます。それではこちらからも、あの島に連れ去られた経緯について、お話しします」
先生の話が終わり、今度はアリシア王女があそこに居た事情を話した。
「実は、オリュンポス連合の会議で父上がいない隙に混沌派の者による人攫いに遭ったのです」
「何故です?かの国はオリュンポス連合でも強い国であります。警備も十分でありましょう」
「わかりません・・・可能性があるとしたら、裏切り者が居たとしか・・・」
「うーむ・・・」
先生が考えている所悪いが水中から何か来ている。船のレーダーに魔力反応もあるから恐らくモンスターだ。接近を伝えるべく先生のもとに行く。
「先生、モンスターが下から来てるから対処のために武器を借してくれ」
「何?わかった。そこにお前用のハープーンガンと水中マスクがある。これでいいか?」
「十分だ」
「あの!」
先生から武器を装備して海へ行こうとするとアリシア王女から声を掛けられた。
「何だ?」
「ご武運を!」
「…了解」
彼女の声援を受け止めて船長室から出ていき海に飛び込む。水に慣れたら耳を澄まし水の揺れを感じる。するとこちらに向かって水をかき分けながら近づいて来る気配を感じた。
「そこだ」
予測した方向にハープーンガンを向けて銛を撃ち出す。マスク──水中でも喋ることが出来る──ごしに奥を見ると敵が見えてきた、その容貌は巨大な海蛇だった。それと撃った銛は避けられている。どうやら素早いようだ。
「厄介だな…【Jump】」
「シャアッ!?」
「【Saber】」
「〜〜ッ!?」
長期戦は不毛なので一気に片付けるべく、水中を蹴り接近したところを左手の魔力の剣で喉を斬りつけた。海蛇はあえなく絶命した。そして右手のハープーンガンを一瞥して思ったことが一つ
「…全然役に立たない」
先生は人には得意不得意がそれぞれあると聞いたが、俺は武器を使うのが苦手なのか?とりあえず上に向かって浮上して船に乗る。先生の弟子達に武器とマスクを預けて先生のもとに向かう。
「終わったか、カルナ」
「うん。それと情報共有は終わった?」
「ああ、これからポセイドンに向かって王女を送り返すつもりだ」
「了解した」
これからの方針を聞いた後、先生に休憩していいと言われて仮眠室で仮眠を取った。
「あっ…」
「ん?」
ふと人の気配がして目が覚めるとポセイドンの王女がいた。何故ここにいるのかわからないが…俺に用があるのか?
「何のようだ」
「えっとね、お礼を言いにきたの」
「お礼…?」
「うん。私をあそこから助けてくれたことに」
あぁ、あの時か。
「お前が『助けて』と言ったから助けたまでだ」
「そ、そう…」
「……」
「……」
…彼女に対して何も言うことは無いが、彼女は他に何かあるのか…?そう考えていると扉の方から先生が入ってきた。
「カルナ、後一時間でポセイドンに着く。お前は私とアリシア王女と共に王のもとへ行くから外で待ってなさい」
「了解した」
先生からの命令に即座に行動に移す。仮眠室から甲板に出ると船の向かう先に白いレンガが特徴の建造物が沢山、奥には同様の特徴をした大きな城が立っている。水の国ポセイドン、この船から見える光景はとても綺麗な場所であると俺は思った。
船を空いてる港に停めようと進めていると向こうから大きな船がこちらに近づいてくる。どれくらいの大きさかというと今乗っている船より一回り大きい。ふと声が聞こえてくる。
「そこの船!何処の者であるか!」
「…?」
何処…と言われも、名前の無い混沌派の島としか言えないが…そう思っていると後ろからアリシア王女が現れて声を張り上げて返事をする。
「私は、アリシア・マリン・ポセイドンです!魔王軍の混沌派の島から逃げてきました!」
「何!?…しばしお待ちください!」
向こうの船が少し静かになってから今度は女の人の声が聞こえてきた。
「アリシア王女!私の声が聞こえますか!?」
「その声は!セイラなのね!良かった…帰って来れた!」
「貴女が無事で何よりです!取り敢えず私達の船が先導しますので着いてきてください!」
「わかったわ!」
「皆んな、あの大きな船について行こう」
「はい!」
聞いた内容を簡潔に近くにいた先生の弟子に伝えて船を動かす。そしてさっきの船が停まっている港の近くに停めて降りる。向こうの船から軽装備の兵士達が降りてこちらに近づいてくる。その中の一人の女の人が話しかけてきた。
「貴殿がこの船の船長か?」
「ん?…違うよ。船長は先生がやってる」
「先生…?」
「セイラ!久しぶり!」
「アリシア王女!よくぞご無事で…!」
そこで話しているところにアリシア王女が割り込んで女の人に抱きついた。女の人も嬉しそうに彼女を抱き返している。そこでやっと先生が船を降りてきた。先生に気づいた女の人はこちらに向き直る。
「お初にお目にかかる。私はレオナルド・バエル、この船の船長だ」
「ポセイドン海兵隊隊長のセイラ・ドルリンです。王女を救出して頂き感謝します」
「いえ、王女を救出したのは彼です。カルナ、自己紹介しなさい」
「了解。カルナです。よろしくお願いします」
「…本当に彼が?」
「それについての詳しい話は場所を変えてからしましょう。私の弟子達も長旅で疲れているところです」
「承知した。それではこちらで」
そう言ってセイラは歩き始めたので我々もついて行く。歩きながら周りを見渡すと沢山の人々が賑やかに話している光景があった。そうしている内についたのはさっき船から見た大きな城だった、近くで見るとかなりの迫力がある。
「開門!」
セイラが大きな声で言うと大きな扉が音を立てて開いた。圧巻である。暫くついて行くと、一つの部屋にたどり着いた。
「バエル氏の弟子達は暫くはこちらでお休み下さい。バエル氏とカルナ氏と王女は王のもとに」
「わかった。皆んな、ご苦労だったな。暫くは休みなさい」
『はい!』
先生の弟子の返事を受け取った後はまた移動することになった。さっきと同じようについて行って、階段を三階登って真っ直ぐに行くと広間に出た。奥には大きな椅子に座っている人がいる。
「ホウェル王!、アリシア王女と客人を連れて来ました!」
「…うむ。それではセイラ以外の海兵隊は下がってなさい」
『はっ!』
セイラと一緒にいた海兵達は広間から出て行った。そのことを確認したホウェル王はアリシア王女に視線を向ける。
「良く…良く無事で帰ってきた。我が愛しき娘よ」
「はい。彼らが私を助けてくれなければ今頃此処にはいませんでした」
「そうか…セイラ、二人の名は?」
「レオナルド・バエルとカルナです」
「うむ。我が娘を救ってくれて感謝するぞ、二人とも。しかし恩人であるが、貴殿達は何処から来たのだ?」
「そこは私が話します。よろしいですか?お父様」
「わかった。話してみなさい」
「実は──」
アリシア王女はこれまでのことを詳しく話した。俺達のことやあの島に来た経緯など隈なく。それを聞いたホウェル王は少し瞳を瞑って思案する。そして瞳を開いてこう言った。
「改めて貴殿達に感謝を。そして一つ君たちに頼みがある」
「頼み…ですか」
「あぁ、貴殿達には混沌派を撲滅を頼みたい」
ホウェル王の頼み事の内容の混沌派撲滅に俺は新たな戦いの予感を感じた。