母のこと
⑥ 母のこと
祖父も私もたいそうな猫好きであるなら、きっと、母も猫が大好きだったはずだ。
けれども当時、私のわがままで、ヤギ三頭、犬二匹、猫二匹、うさぎ一羽、ジュウシマツ五羽という、小さな動物園の園長でもあった母は、猫以外のいろんな動物にも、平等に愛情を注がざるをえなかったのである。
おまけに、子どもに夫に両親という、ペットたちよりもっと手のかかる生き物たちも同居しているのだから、その忙しさたるや相当なものだったと思う。
なぜ、たくさんの動物たちを、私のそばにおいてくれたかといえば、やはり母も幼いころ病気がちで、友だちがいなかったせいだと思う。一年の半分は体調不良で家に閉じこもっている娘。彼女の心を慰めてくれるものは、やはり動物だろうと母は考えてくれたのだ。
さすがに猫とジュウシマツ以外は、外で飼うしかなかったが、猫とジュウシマツの同居が、これまた、かなりむずかしいことだった。
鳥かごのジュウシマツを、らんらんとした目で、食い入るように見つめる猫たち。
―とりたい、とりたい、とりたい。
猫の本能がむくむくとわいてくるのだろう。構えの姿勢をしてジュウシマツに狙いを定める。
するとすぐにピシャッ!猫たちの頭に母のパンチがとぶ。その根気強い繰り返しのおかげで、やっと猫たちは、鳥かごの前を目をふせて走り去るようになった。
ふんづまりを起こした子犬や、魚の骨がのどにささった子猫は、母に痛みを訴えにやってくる。すると母は浣腸をしてあげたり、口を開けさせ、骨をピンセットで取ってあげたりと頼もしい獣医ぶりを発揮していた。
うら若き二十歳のころ、女性神職の資格をとった母だったが、当時の田舎では、とてもその存在は受け入れてもらえなかった。けれども、若くして亡くなった兄弟たちのために、ひたすら先祖供養を続ける母の姿は、将来、神職となるための、私の心の下地を作ってくれたように思う。