私とトラ猫
⑤ 私とトラ猫
寅年の干支のせいだろうか。妙にトラ猫が好きだ。かといって、本物の虎は怖すぎる。サファリパークを訪れたとき、自家用車で虎のゾーンに入ったが、虎たちの獰猛な目つきに震え上がる思いがした。それにひきかえ、トラ猫のかわいらしさといったらない。虎そっくりの縞模様で、ふてぶてしくふんぞりかえる様子はいかにも、オレさま、虎の子孫なんだぞと主張しているようにもとれる。
私がもの心ついたときに、家にいたのは、オスのトラ猫ユメ。堂々とした体格の猫で、家族の中で最年少の私を庇護すべき存在とみなしていたようだ。
私が眠りにつくときには、必ず枕元に座り、手(前足?)を握らせてくれる。
私の意識が薄れ、握った手の力がなくなると、すっと前足をはずし、夜遊びに出ていくのを日課としていたらしい。
その大きなユメを、よっこらしょと流しに抱え上げ、お風呂だと水をかけようとしたり、腕時計しようと前足に輪ゴムを何重にも巻いてやったり、ユメにとって、私はどれだけ迷惑な童だったことだろうか。
私が二歳のころから七歳までを共に過ごし、ユメはその生涯を閉じた。
続いて、やってきたのは、やはりオスのトラ猫のケンとトコ。
縞々の長袖を着たようなトラ模様のケンと、縞々のケープをはおったようなトコ。
二匹は、家族のだれもが目を細めるほどに仲良しの兄弟猫であった……はずなのに年頃になり、メス猫がからんできたとたん、猛烈な喧嘩ばかりするようになり、ついにトコが家を出ていってしまった。
トコは、とりわけ私によくなついていて、私の帰ってくる気配を感じると、いつでも犬みたいに走って迎えにきてくれた。お風呂もトイレも、ドアの前でまだかまだかと待っていた。
私が高校二年生のとき、ケンは、当時飼っていた秋田犬のご飯を盗み食いして、噛まれて死んだ。
家を出てしまったトコの消息はわからないまま。
三匹とも、私の人生の記憶に残るトラ猫たちなのである。