表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

祖父の加持祈禱

⑤ 祖父の加持祈禱


 なぜ、祖父が私を甘やかしていたのかといえば、それは幼いころ、私があまりにも虚弱だったせいかもしれない。本当にすぐに熱を出すわ、咳き込むわ、吐くわ、下すわの弱い、弱い子どもだった。

 家の神棚の近くに布団をしいて寝かされていたのだが、祖父はきちんと装束に着かえ、枕元にやってくる。そして、何やら祝詞を唱えながら、大幣おおぬさという紙でできた祓いの用具で、私の身体をあちこちと撫でまわすのだ。


 そうすると、いっしょに布団に寝ていた猫たちがいっせいにめざめ、大幣めがけてじゃれはじめる。

 それをものともせずに、祖父はまじめな顔で私の加持祈禱を続けるものだから、私も笑うことなどできず、神妙な面持ちで下を向いていた。(内心では、じゃれつく猫たちがおかしくておかしくてたまらなかった)

 祖父は、大幣で猫たちが遊ぶのを意識しているのか、時に高く、大きく左右に振ったりする。と、子猫たちはますます喜んで飛び上がったり大騒動なのである。そして仕上げは、ふうっと息を吐きかけられる。この神主の息というのが、加持祈禱の大切なところだというのだが、祖父の場合、すこぶるニンニク臭が強くて、心の中で、思わずくさっ!と悲鳴をあげながらも、黙って目を閉じていた。


 今思うに、当時の大人たちは本当におおらかだった。あまりに私の咳がひどいので、かかりつけ医が往診にやってきてくれるのだが、先生の足音を聞くなり、私はいちはやく布団を抜け出し、テーブルの下に隠れる。何も知らずにふとんをめくった先生は、

「あらまあ、猫ちゃんが寝てますよ」

 のんびりと笑うのだった。


 結局、テーブルの下から引きずり出されてお尻に注射をされるのだが、だれひとりとして、

「ほらみなさい! 猫と寝るから咳が止まらないのよ」

と叱らなかったことが、当時の私にとって何よりの救いだったのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お祖父様の祈りが通じたのでしょうね。猫ちゃんにとっては、大幣も猫じゃらしだったのかもしれませんが(^ ^) 子供の頃は虚弱体質だったので、祖母が祈りを唱えながら温灸器で摩ってくれたことを思い…
[一言]  おおぬきって棒に五平がやまほどついたものでしたっけ?  それって、よく考えたら、ある意味巨大な猫じゃらしみたいな感じですよね。  そりゃあ揺れる紙のふさをみれば、猫も喜びますよ。  ネコ好…
[良い点]  前話に続いて祖父のこと。  ここで一緒に。  孫娘に大甘だと、娘から叱られます。  そんなに甘やかすと、癖がついてあとが大変だとですね。  何でもしてやるのです。  ですが、これも今のう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ