福猫なのに
福猫なのに
お宮が縄張りの福猫クロは、おかげさまで元気である。
この冬、なじみの参拝客から、猫用ベッド、毛布二枚などをいただき、雪の日でもぬくぬくと、社殿で丸くなっていた。
季節は移り変わり、今年もつがいのツバメがやってきた。去年のツバメは、前年の巣が気に入らないのか、新しい巣を作った。でもなぜか常に三羽いた。これはどういう関係なのか? 一羽はもしかして姑で、二つの巣で別居するのかとか、宮司といろいろ話していた。
そんな状態で迎えた昨年のゴールデンウイークに、悲劇が起きた。
一羽のツバメが、外に出ようとした際、お宮のサッシの窓に頭をぶつけ、そのまま墜落。落ちたところを黒猫にくわえられ、どこかに行ってしまったと参拝客から聞かされた。
私自身は現場をみていないので、クロが犯人だと決めつけたくはないが、今年もツバメたちの巣の真下で、クロはゆったりと毛づくろいをしている。低空飛行をしようものなら、走って行って前足を上げるそぶりをみせる。
「これは怪しさ百パーセントだな」
宮司が、クロをにらみながらつぶやく。
「ちょっと、クロは福猫だから、そんなことやめてよ」
言って聞かせるものの、クロは涼しい顔。
「落ちてきたら、こっちのものだもんな」
いかにもそう言いたげな顔つきである。
狩猟をするネコとしないネコがいるが、我が家に出入りしているキジトラは、狩猟にはまったく興味がない。ネズミをみれば、ソク逃げ出す始末。それにひきかえ、クロは福猫として、キャットフードをたらふくもらっておきながらも、ノラの本能むきだしである。
ネズミと虫ならまだしも、霊鳥とされるツバメだけは、お願いだから取らないでよと、毎日クロに頼み込んでいる。




