祖父のこと
③祖父のこと
「物知りたる顔の神主」というフレーズを、何かの本で目にした。
孫である私が言うのも変だが、祖父は、本当に神主らしい風貌をしていた。
背が高く、面長で色白、鼻はすっと高く、グレーの柔らかな髪に被った烏帽子と、紋様入りの狩衣が本当によく似合う人だった。
祖父は、田舎神主をするには惜しいくらいの学歴をもっていたが、跡取りとなるはずだった本家の兄を関東大震災で失ってからは、地元に帰り、四十二代目の神主として、がんばってくれたのだ。
そんな祖父が常に、姉と私、二人の孫に、口すっぱく言い続けたことがある。
それは、何かといえば……。
「大人になっても素直でいなさい」 「目を大事にしなさい」
シンプルに、この二点であった。
自分は高い学歴をもっていても、それを決して孫たちに押し付けようとはしなかったし、ましてや、養子を迎えてお宮を継いでくれなどとは、一度たりとも口にしたことがない。
素直さを失わないということは、私が祖父から学んだ大切なことだった。
娘である母親に言わせれば、とても厳しい父親だったらしいのだが、孫には甘すぎて、ある雪の日に、寒いから私を学校に行かせなくてよいと言い出し、母親とケンカになった。私はといえば、こんな日こそ、走って学校に行きたい思いだったから、何とか両親に祖父を説得してもらってホッとしたものだ。
その祖父も寅年であった。
夕食の時間になると、いちはやく茶の間のテーブルにつく。すると当時飼っていた三匹の子猫たちが、待っていましたとばかりに、祖父の膝の上を占領し、そこで本当に安らかな顔をして眠り始める。
その背中を優しくなでてやる祖父の表情も、本当に幸せそうだったのが、半世紀たった今も忘れられない。
私の猫好きの遺伝は、祖父からかもしれないと、今になってつくづく思う。