祝詞カエル
祝詞カエル
実家の神社は周囲を田んぼに囲まれている。
今の季節は、いちめん鏡となった水田で心細げに雨に打たれるチビ苗たち。
夏になれば、青々とした稲穂の波が風にそよぎ、秋には、金色に色づいた稲穂が首を垂れる。
半世紀以上ずっと変わらない、四季折々の田んぼの風景である。
雨の多いこの時期、拝殿にも祝詞殿にも、常に小さなアマガエルがいる。
ある時は神職が座る祝詞座に、ちょこんとすまして座っていたり、またある時には神様にお供えする水器の中を泳いでいたり、けっこうのびのびと過ごしている。
けれども、さて祝詞を読もうというときになって、彼らはなかなか祝詞座から降りてくれない。
ちょんちょんとつついて降りてもらい、祝詞の奏上を始めると、一緒に唱えているつもりなのかケロケロケロ。小さな体に似合わず、ものすごい大きな声で鳴き始めるのだ。
境内社の天満宮の池からは、モーモーモー。くぐもった低い声が聞こえてくる。
カエルたちの大親分ともいえるウシガエルの姿を、私はまだ見たことがないけれど、参拝者の方からは
いきなり池の方から大きなカエルがお出迎えにあらわれたという話を時々聞いている。
大祭のとき、神職は神殿の御扉開閉のときに、「おおー」と低い声で警蹕をかけるが、ウシガエルでもできるかも?なんて思ってしまう。
まだまだ梅雨の間じゅう、カエルたちとの祝詞コラボは続きそうだ。
雨宿り中の福猫クロには、かなりやかましいかもしれないけれど。




