変わった初詣客
随分とお久しぶりの投稿になってしまいましたが、まだまだ続きます。
変わった初詣客
令和六年の初詣もにぎやかに過ぎた。
実家の神社はけっこうな田舎にあるのだが、県内外のナンバープレートをつけた車が、二十台ほどの駐車場に全く空きを見せず、朝から晩まで出たり入ったりをくりかえしていた。
ふだんは、閉めていることがほとんどの社務所の窓を開放して、各種お守り、絵馬、御朱印、お札、破魔矢、おみくじなどの頒布をする。大きな神社ではないので、巫女さんはいないから、息子二人(いちおう神職の有資格者)を動員。彼らは接客に徹し、御朱印、お札に字を書くのは、何と御年九十三歳の宮司である父親である。そして実家からお宮までそれを運ぶのは主人と私。息子たちと交代要員でもある。そんなこんなで、毎年三が日は家族全員、正月の余韻に浸る暇もなく、目まぐるしく過ぎてしまう。
遠くから初詣にみえてくれるお客さんの中には知り合いも増えた。そういえば、あのご夫婦今年は来るかな?との次男の言葉に、六年前の初詣を思い出した。
その年は亥年で、年男の次男はまだ学生だった。元日の昼過ぎにベビーカーを押して若い夫婦がやって来た。ちょうど境内を見回っていた長男が怪訝そうな顔つきでもどってくると、私にそっと耳打ちした。
「なんか変なんだよね。あの赤ちゃん」
脳内に?マークを点滅させつつ、背後からそっと近寄っていった。若い夫婦は赤ちゃんを愛おしむように毛布をかけたり、あやしたり微笑ましい風景である。「あけましておめでとうございます。ようこそお参り……」と背後から声をかけ、ベビーカーに目をやった瞬間、私と長男は固まった。
おくるみに包まれていたのは、赤ちゃんではなく、イノシシ! 何ともおとなしくされるがままにじっとしている。「もうお年寄りなんですよ。だから寒がりで……」イノシシママが笑い、イノシシパパが「いい子なんですよね」と頭をヨシヨシしている。その夫婦は動物が好きで、干支の動物を連れて毎年参拝しているのだそう。ちなみに昨年は大型犬を二匹連れてきたという。
「だけどさ、干支で連れてこられる動物って限られるよね」
長男の言葉にうなずく私たち。
あれ以来、コロナ禍もはさんで、あのご夫婦はお見かけしていない。今年は辰年だから、もし参拝にいらしてくれるのなら、タツノオトシゴと一緒だろうか…。
一風変わった初詣客も、なかなか楽しいものである。




