ここは譲らぬ!
ここは譲らぬ!
話は数年前にさかのぼるが、実家に最初、頻繁に出入りをしていたのは、クロだった。家族に上手に取り入ってご飯をねだる。ところがそんなある日、キジが現れた。キジは私たちに対しても、シャーと威嚇し、クロにケンカを売ろうとした。ところがその場でクロの説教が延々と始まった。あたかも、お前のやり方は下手だ。もっと甘えて上手にご飯をねだってみろ、きっとオレみたいにかわいがってもらえるんだからとでも言って聞かせるような感じに聞こえた。その証拠に直後から、キジの私たちへの態度ががらりとかわり、顔をひきつらせながらも、足にスリスリしたり、のどをゴロゴロいわせながらふみふみしたりするようになったのだった。そうなればしめたもの。キジはこの家をちゃっかりと自分の縄張りにしてしまった。クロはキジのいない時をみはからってやってくる。
だが、一歩お宮の境内に足を踏み入れたならば、そこはもうクロの縄張りだ。時々、老犬の散歩をさせている近所の氏子さんがいるのだが、犬が鳥居をくぐろうとしたらすかさず、クロは猛烈に威嚇している。私が夕拝で祝詞をあげるときは、横にぴたりと寄り添うのだが、その表情を垣間見ると、境内を通る他の犬や猫たちに対して、呆れるほどドヤ顔である。
いつだったか、夕拝を済ませ、境内を歩いていると、私の足元にキジがやってきて甘え始めた。クロは殿内におり、なんの不都合もないはずなのだが、それだけで激怒したクロは走ってきて、キジに猫パンチ。キジはすぐに引き下がった。あたかも「俺のなわばりで、イチャイチャ甘えんな!」と言わんばかりだった。
クロは、遠方からの参拝者にとって、「縁起のいい黒猫」「願いを叶えてくれる福猫」としてネットの口コミにも登場している。時々神様へのお供えのお酒と並んで、クロ用のフード缶、チュール、カリカリなどが貢物として捧げられるのだ。その返礼なのか、参拝者が来ると、拝殿で出迎え、思い切り愛想よくふるまっている。私たちには絶対させない抱っこもOKなのだからびっくりだ。野良猫の縄張り争いもけっこう奥が深い。




