雄猫の修行
雄猫の修行
現在、我が家に出入りしている猫たちはみんな雄ばかり。過去に雌猫がいたこともあるが、もらわれたり、病気になったりして、いつのまにかいなくなってしまった。雄猫というもの。時々急にいなくなることがある。小さいころ飼っていたゆめも、ケンも一週間くらいは帰らないことがあり、帰ったときにはたいてい大怪我をしていた。ゆめは、肩から骨がむき出しになっていたこともある。獣医もどきの母が治療を施し、回復できていたように思うが、母が猫の耳を指さしながら私に教えてくれたことがある。
「ほら、ここ少し切れてるでしょ。これは猫が修行してきた証なのよ」
猫が帰らないと心配して食欲もなくなる娘に安心感を与えてくれたのだろうか。それからは猫が帰らないと、修行三日目か。まだまだかなと思えるようになった。
我が家の常連キジは、十日間が最長の修行期間だった。そのときは、よほど空腹だったのか、足取りもふらついて戻ってくるなり、ご飯にがっついた。
お宮のクロに至っては、三か月の修行期間が二年続いた。三か月も帰らないとさすがにもうだめかも……と何度も思ったが、無事であることを必死に祈っていた最中に、まるで異次元の世界からもどってきたかのように、神殿の奥からニャオンと鳴いて出てきたときは、腰がぬけそうに驚いた。しかも以前よりも肥り、黒い毛並みは艶やかになっていたのだ。以来、クロに限っては福猫研修だと思うことにしている。
さて、この五日間帰ってこないのがチャトラン。実はいなくなる前の表情がすごく硬かった。何かを覚悟しているような、落ち着かないようなそぶりがあった。チャトランの場合、本当に家の敷地から出たことがないし、父と私以外の人間を見れば飛んで逃げるので、果たして一匹でやっていけるのか不安でならない。それでも毎日祈りは欠かさない。たとえ帰りたくなかったとしても、生きててよ、ちゃんと生きててね。お日様の光を吸い込んだような金色の瞳を思い出しつつ、手を合わせている。




