恐怖の水神祭り
恐怖の水神祭り
田舎のほとんどの家には井戸がある。けれども最近では、年老いた親たちもいなくなり、家を壊すついでに井戸を塞いだり、ボーリングをすることで井戸が不要になったりして、水神上げというお祭りをするところが増えた。
これまで家族の生活を支えてくれた井戸の水神様に、丁寧にお礼を申し上げるお祭りだが、やり方としては、井戸の四隅に竹をたて注連縄をめぐらし、中心に神籬をたてる。
聖なる場所に水神様が降臨されるようにするのである。井戸の水を汲むことができるのであれば、それも汲み上げてお供えする。そして、お祭りのあとはできるだけ早く業者さんに頼んで、海の砂や、日ごろ踏んだりしていない清潔な砂を入れて埋め立ててもらう。その際必ず息抜きと呼ばれるパイプを、中から表面に出してもらい、できる限り元の井戸があった跡は踏まないようにする。
その昔、なぜか不幸続きの氏子の家があり、占い師にみてもらったところ、井戸に原因があるという。お祭りを依頼された父が行ってみると、水はぞっとするほどに赤く濁り、金属の悪臭を放っていたらしい。すぐさま、お祭りをして業者に頼み、井戸を清潔にしたらしいが、水神様はさぞやご機嫌を損ねていたことだろう。
怖いことはもうひとつ。古い井戸をそのままにしておく家もかなりある。
私の中で井戸のイメージは腰くらいの高さがあり、中に釣瓶を落とし、徐々に引き上げるというものだったが、中には家の敷地の一角に井戸を掘り、そこに竹でふたをしているだけという雑な家もあることがわかった。
ある時、水神様のお祭りを頼まれた私は、そこが井戸とはつゆ知らず、竹の上に一歩踏み出したとたん、べりべりと音がして、腰まで落ちてしまった。多分私の身体が細かったら、今頃は、井戸の底から冥界へと旅立っていたかもしれない。ここは深いんですと家主が青ざめており、その後すぐに頑丈なふたをしてくれた。
恐るべき水神様。このごろは井戸のお祭りをするときは、かなり慎重になっている。




