犯人はだれだ!
犯人はだれだ!
話は一か月以上前にさかのぼるが、ある朝、お宮の朝拝を終えた父が困ったような顔つきで戻ってきた。神社の中は拝殿があり、その奥に祝詞殿とも呼ばれる、神職が祓詞を奏上するところがある。
そこには、拝敷ともよばれるい草でできた四角い敷物が常時敷かれており、私たちは常日頃からそれを使っている。いつものように、そこに座ろうとした父はあわてて飛びのいた。なぜなら、その拝敷の上にもりもりと何者かの糞が積まれていたからである。
父はすぐ糞の掃除にかかったが、不思議と臭いはなかったという。その話を聞いたとたん、なぜか主人はきっとクロの仕業だとあらぬ疑いをかけはじめた。しかし、猫がそんな大きな糞をするわけがないと父が否定し、クロへの疑惑はあっさりと消え去った。
糞事件は一度では終わらなかった。翌日も同じところで、さらに積み上げられた糞を発見。祝詞殿への侵入をできなくしてみたところ、今度は違うところで糞をしている。ネットで調べたところ、そういう習性をもつ動物としてあげられたのは、狸。そういえば、家の周りをぐるぐるしていた狸を一度見かけたことがある。罠にかかったのか片足しかなく、おまけに皮膚病なのか、ぼろぼろの毛に包まれて見るも哀れな狸だった。狸の病気は猫に移るととても厄介らしいから、寄せ付けないよう、餌の食べ残しなど厳重に処分していた。あの狸だろうか?
とりあえずの対策法として、防虫剤として売られている和服樟脳を買ってきてあちこちに置いた。かなりきついにおいだ。それから犬猫の嫌がる忌避剤を入り口付近にまいた。本当はクロのためにまきたくないのだが、狸の害を防ぐためには仕方なかろう。
そして一か月たち、殿内での糞の被害はなくなったが、夜になると犬でもない、猫でもない、不思議な動物の鳴き声が聞こえてくる。高い声でもの悲しいひびきである。これもネットで調べてみたら狸だった。きっとまだこの近くにいるのだ。生きたい。餌がほしい。狸の切なる叫び声に胸が痛くなる。




