地鎮祭
地鎮祭
畑仕事の好きな父は、この頃いろんな花や野菜を植えている。多くの種類の夏野菜は上手く育てばかなり楽しみだけれど、容赦なく伸びる草の手入れがとても追いつきそうになく、収穫の約束は難しいかもしれない。畑を掘り起こすと、柔らかな土くれが気持ちがいいのだろうか。猫たちがこぞってトイレにしようとして叱られている。
さて先日、地鎮祭をご奉仕した。これまでも宮司とともに何回が助手を務めたことはあるが、ひとりでするのは初めてだ。ご存じのとおり、地鎮祭は家を建てるにあたり、その土地の産土神様、大地主の神様にお断りを申し上げ、工事の安全を祈願するお祭りである。
敷地の四隅に竹をたて、注連縄を引き回し、中央には神籬をたてる。海の神聖な砂を盛り上げ、そこに埋めたカヤなどの植物を忌鎌、忌鍬の儀式により引き抜き、土を掘り起こす。一連の儀式は、建設会社の方に司会を頼み、早速お祭りは始まった。
施主のご夫婦は三十代中ごろ。七歳を頭とする三人姉妹がいた。このかしまし姉妹は、いっときもじっとしていない。初めてのことだから心も浮き立つのか、騒ぐのは仕方ないと思っていたが、そのうち、その神聖な盛砂で砂遊びを始めたのである。建設業者の方が優しくとりなすが、聞く耳を持たないとはまさにこのことか。肝心の両親はと、ちらりと横をみると、なんと二人とも笑っているではないか。
この父親はこんなに早くから、すでに娘たちになめられているのだろうか。「おとうさん」ではなく、「おっさん」呼ばわりである。どちらにせよ、親としての権威はみじんもなく、笑いの中でお祭りは終わったが、これは和やかとはお門違いの、けじめのないお祭りだったことが残念でならなかった。
少し前まで、両親は怒るときには、声より眼差しで表した。子どもはおのづからしていいこと、悪いことの区別がついていたように思う。
宮司はため息をつきながらひと言つぶやいた。
「猫でも叱ればわかるのに……」




