いちばん喜んでいるのは?
いちばん喜んでいるのは?
ここ数年は、実家とアパートの行き来の毎日だった。ひとり暮らしの父を助け、お宮の仕事と家事をする。車で十分という距離はさほど負担はないのだが、父の年齢を考えると心配事は増えるばかり。
そこで、主人の退職を機に実家に戻ることにした。
この数か月間は引っ越しもろもろで何も手つかず。加えて地域の春祭りをこなすのが精いっぱいで、箱にまみれた生活だった。そろそろ引っ越しから一か月たつが、まだすべてが片付いたわけでないけれど、とりあえず、わずかながらでも書く時間が持てるようになったことはありがたいことである。
私たちが戻って、どうも猫たちの動きが変わった。私たちは宵っ張りなので、二十四時間レストランになったとでも思っているのか、キジなど深夜に夜食の催促にやってくる。そのねだり声が可愛い。年齢的にはいいオヤジのはずなのに、ニャオン、ニャッ(あの申し訳ないけど何か食べさせて)と実に控えめに鳴く。こうなると私は弱い。パジャマ姿で勝手口を開けてしまう。
お宮のクロもこれまでは、夕方お宮で、はい、また明日ねだったのだけれど、この頃では、夜中の十二時過ぎにニャッ(来たよ)と、ベランダから飛び込んでくる。彼は朝は朝で、私たちが起きるまでベランダに座って待っている。
昨夜のこと。さあ休もうかと主人と腰をあげたとたんに、キャアアアアアンと凄まじい猫の声が聞こえた。近頃やってくる子猫のチャトランの声だ。慌ててチャトラン、チャトランと呼んだら、何食わぬ顔ではい?とばかりにやってきたのはクロだった。クロは喧嘩が弱いのに、子猫をいじめる悪癖がある。
チャトランもチャトランで、だれかれなしに警戒心なく近寄っていく子猫だから、こいつウザいとばかり、クロに、どこかかまれたのに違いない。暗闇の中から突如として現れる黒猫は、まるでロシアのプーチンみたいに、チャトランにとっては脅威でしかなかろう。
そのチャトランは、毎朝規則正しく朝食をねだりに来る。
私たちが戻っていちばん喜んでいるのは、やはり猫たちだろうという気がしてならない。




