夕拝とストーカー猫
夕拝とストーカー猫
どれほど暑かろうが寒かろうが、台風の時以外は、朝はお宮のお灯りを消し、神様にお供えをして朝拝をする。夕方はお灯りをともし、お供えを下げて夕拝。これは我が家の務めである。朝は父が、夕方は私がお参りすることになっている。そのお参りのときに、必ず小さな紙袋を持参している。中身はもちろん、猫弁当。ほぐした魚の身をまぜたにゃんこ飯の時もあれば、いなばのチュールや猫缶のときもある。お宮で待っている福猫クロのためだ。感心なことに、クロは朝夕の日拝の時間をちゃんと把握していて、その時間には必ず拝殿で待ってくれているのである。
―くーろりーん
私が呼ぶと
―ニャ(来たか)ニャ、ニャ、ニャ(腹すいた~。待ってたぞ)
こんな返事をしながら、尻尾をピンとたてて現れる。
そんなある日。クロのかわりに、キジ父さんが座っていた。キジ父さんは、我が家に出入りしている、でっぷり太ったキジネコで、その食欲たるや凄まじい。父さんは私を見るやいなや、かけよってきて、足にスリスリしたり、寝転んだり熱烈なアピール。
実は、このキジ父さんとクロは仲がよろしくない。めったに怒ることのないキジだが、クロを見る時の目だけはギロリと三角になる。お互い睨みあいながら、そろりそろりと離れていくが、毎日私がお宮でクロに差し入れしているということをかぎとったキジ父さんは、最近はどこかで必ず私を待ち伏せている。そして私が走って逃げようものなら、全速力で追いかけてくる。この前は追いつかれて、足首をがぶっとかまれた。もちろん甘噛みであるが、なんで逃げるんだよと、かまってちゃんの要求が強すぎる猫なのである。丸々太った足でふみふみをしながら、にゃ~んと近づいてくる様は、何とも愛らしいのだけれど。
最近になってふと、キジの耳が桜耳になっているのに気付いた。これは獣医のもとで去勢や避妊をした猫に記されるものらしい。だれかが病院に連れていったのだろうか?
猫の恋の季節に、恋の相手がもはや同種でなく、ヒトである私に向けられていたら……それはもう怖いことである。




