初詣と福猫クロ
初詣と福猫クロ
当地は、年末ぎりぎりまで雪が積もっていた。昨年は年明け早々大雪に見舞われたので、このまま、雪に閉ざされた三が日かと思っていたら、おだやかな初日の光に包まれ、のどかな元旦を迎えることができた。ありがたいことだったが、そのおかげで、この片田舎の小さなお宮に、次から次へと初詣の参拝客が訪れ始めた。十八台停められる専用の駐車場は瞬く間にいっぱいになり、一台出ればまた一台、カップル、親子連れ、家族連れ、バイク仲間と訪れる年齢層もさまざまである。ひととおり参拝を終えた彼らは、必ずお守り、お札を求めに、社務所の授与所にやってくる。そこで迎えるのが、私や夫や、久々に帰省した息子たち、そして福猫クロ。
いちばんのメインの木札と紙札、コロナ禍のため、書置きの御朱印を作っているのは、九十一歳の宮司である。書いたはしからどんどんなくなる人気の札であるが、それ以外に、俵に金色の幣ぐしをさした縁起俵も宮司の手作りである。これも毎年評判がよい。他にも、各種お守りやおみくじ、破魔矢、熊手、御朱印帳なども用意しているが、それらの仕入れは権禰宜である私に任され、今年もおおむね好評だったように思う。中でも、猫の御朱印帳。やはり猫のベルト付きで出すと猫が好きな人は必ず求めに来る。中にはクロを見て、なるほどという顔をされる方もいる。
そのクロは、年末まで両目を病んでいた。ホウ酸液に浸したカット綿で、無理やり目を拭いたり、子ども用の目薬を差したりするもののなかなか効果がなかったが、見事、大晦日の日に、きれいな金色の両目に戻ることができた。彼は、長い尻尾をピンとたて、当然のように境内を巡回して参拝客と写真に収まったり、愛嬌をふりまく。そして疲れると、あ~疲れた、めしくれ~とばかりに、実家の台所にやってくるのだった。
七草粥の本日から、境内はやっと静かな日常に戻った。
クロにとってのお正月はどんな数日間だったのだろう? 黒い顔にマイクを向けて聞いてみたくなる。




